88話

 カツオフィレ城下町の門の手前で、腕を組む一人の騎士。銀色したフルプレートの鎧を纏いニヤついた表情を浮かべて俺達が乗る馬車を迎える。明らかに魔族の銀色の髪をした短髪の男だ。

 近づく俺たちに向け大きな声を上げる。


「貴様らが、勇者ユカリの一行か!?」


 その声に反応したのか馬車を停める御者に、それを指示するコベソ。そして馬車から降りるユカリ達四人は、武器を構え陣形を取り騎士に向かって身構える。


「フフフフッ。 ここに着き俺の前で武器を構えるとなると、やはり第五と第六を倒したという事か」

「だったら何よ」

「そうです。 確かに倒しましたわ」


 リフィーナとフェルトが、立ちはだかる騎士に食ってかかる。


「俺は、第四騎士団……団長。 貴様らの行先は、死だっ」


 第四騎士団長と名乗る騎士は、こちらを睨んだ顔を隠すかのようにヘルムのバイザーを下ろし、後ろから大盾と剣を取り出し構える。

 その大盾は、フェルトが持つ大盾と同じぐらいの大きさだが、攻撃を幾度なく受け止めていたと思える程の跡が、沢山付けられていて逆の手に持つ剣の大きさ等は、幅広の普通の剣だが刃の部分が赤黒い。

 少し腰を下げる第四騎士団長は、フェルトの構える大盾に目掛け地面を蹴り跳んでくる。

 勢いのある速さだが冷静なフェルトは、自前の大盾でその攻撃を受け止めるが、少しよろける。


「フェルトっ」

「リフィーナ、ユカリ。 今っ」


 攻撃を跳ね返された第四騎士団長も、地面に足を付けるがフェルトの大盾との衝撃でフラフラと後退りする。すると、その隙を見たフェルトの声掛けにリフィーナとユカリが、攻撃に迫る。

 第四騎士団長の左右から挟み撃ちをするユカリとリフィーナは、自ら持つ武器を大きく振り下げる。 その二人からの攻撃を第四騎士団長は、リフィーナの攻撃を大盾で防ぎ、ユカリの攻撃を赤黒い剣で受け止めている。


「フフフフッ。 貴様らのってぇっ、ギャァッ」


 二人の攻撃を受け止めている第四騎士団長に幾つもの火弾が、浴びせられる。掌では収まらない程の大きさをした火弾が、第四騎士団長の言葉を遮り、ふらついている。


「ななななっなんだ。 この俺様が、喋ろうとしてた矢先にっ。 だから女はっ!!」

「性別は、関係ないっです」

「貴様が、油断しているからだ」


 再び第四騎士団長の言葉に、食ってかかるユカリとリフィーナだが、当の騎士団長の肩当が、上下に微動すると篭った笑い声が、聞こえて徐々に大きくなる。


「フフフフフッ、ハッハハハ。 そうだな女、男関係ないな。 これは失礼した。 そう貴様らは、我が主、魔王ノライフ様の敵である勇者とその仲間。 この俺様も本気を出さねば失礼か」


 そう言い放つと第四騎士団長は、肩幅より少し広めに足を開くと、その足元から黒いオーラが、本人を包み込む。

 第四騎士団長の様子を伺いながら少し離れ間合いを広げるユカリ達。


「あれ、嫌な感じがする」

「それ、私も同じ事思ってた」

「全員思っている事一致しているわね」

「むーっ。 あの黒いのアイツからビリビリ嫌な気配が伝わる」

「フフフフッ。 魔王ノライフ様から頂いたスキルを味わって貰おう。勇者ユカリィィッ!!」


 黒いオーラを体全体に漂わせながら剣と大盾を構え最速の勢いで煙を舞いあげながらユカリ達に突進してくる。

 それを反応するフェルトは、大盾を構える。

 激しくぶつかり合う大盾同士と、周囲に鳴り響く金属音。

 押し負けたフェルトは、バランスを崩すが第四騎士団長の視線はユカリに向けられる。

 だが、第四騎士団長の動きは、リフィーナに傾き狙いを定め突撃する。それでも、リフィーナも武器を構え第四騎士団長に打って出る。


「ちょっ。 待てってえ」

「腹だしエルフっ。 その腹ぁっ」

「うっうるさいわ。 腹だしたくて……ってぇ」


 第四騎士団長とリフィーナの持つ剣が、甲高い音を響かせ鍔迫り合いになる。リフィーナは、険しい顔となり一歩も譲らずに耐えている。


「そうか、そうか。 耐えれるか……ならこれ、ならあっ」

「えっ、い」


 顔の中心に力が入り紅潮するリフィーナは、少しずつ後ろに押され、第四騎士団長は、小さな笑い声と共に一歩一歩確実にリフィーナに攻める。


「腹だしぃっ。 その腹裂いてやるぞ」

「ギッギギギギィィッ」


 第四騎士団長は、リフィーナの剣を払い上げる。鍔迫り合いに負けたリフィーナは、背中を仰け反ってバランスを崩し上半身が、がら空きになった所に第四騎士団長の持つ大盾が、真っ直ぐリフィーナに迫る。

 まるで大きな壁が、追突してくる様に思える第四騎士団長のその攻撃に目をつぶったリフィーナだが、その間にフェルトが再び大盾で、第四騎士団長の攻撃を防ぐ。

 ぶつかり合う大盾から軋む音が、鳴り続けフェルトの顔が、次第に険しく鬼の形相になり第四騎士団長を睨む。第四騎士団長も負けじとフェルトに向け大盾で押し付け、二人の競り合いが起きる。

 しかし、その状況に飛び込んでくる数多くの火の矢。

 それを察知した第四騎士団長は、フェルトの大盾を押している反動を利用し後ろに飛び跳ねると、突き返していた相手が居なくなったフェルトは、バランスを失いよろけながら前に倒れそうになる。


「ムッ、フェルトぉぉぉ危ないぃぉ」

「フェルトっ」

「フェルト!!」


 まるで雨のように降り注がれる火の矢が、次々と地面に刺さり穴を空けていきフェルトを包み込むように煙が、立ち上がる。


「フフフフッ、見事だ女魔法使いよっ。 貴様の案があったからこそ出来た作戦だ」

「ミミン!?」

「ミ……ミミン?」

「ちょっ。ちがうっ!! ユカリもリフィーナも何? むっーっ」


 緊迫した空気に包まれた第四騎士団長との戦闘に、数多くの火の矢をフェルトに放った現状と騎士団長のその言葉。

 ユカリとリフィーナは、疑いの目をミミンに向けている。


「何を言うの。 作戦通りではないか」

「ムッ!! ちがうっ、違う、違うよぉぉっ」

「えっ、まさかミミン……」

「ムッ何よ、ユカリも、リフィーナも」

「ゴホッゴホッ」

「「「フェルトぉっ!!」」」


 立ち込める煙の中から咳き込むフェルトの声が聞こえると同時に煙が拡散される。

 大盾を左右に振りながら現状を理解するフェルトは、ユカリとリフィーナに視線を動かし睨む。


「こんなの有り得る事よ。 狙いを定めた魔法が空振りする事もあるし、それが私達にも当たる事も。 ミミンは、魔法の精度が高いから今までそれが無かっただけ。リフィーナっ」

「ハッ!!」

「そして、ユカリ。 相手の言葉に惑わされないっ。 相手の思う壷よ。 仲間を信じて」

「ごめんね。 ミミン」

「わっ私は信じてたよミミン。 うん信じてた」

「むーっ。 当たり前。 私そんな事しないからぁっ」


 ユカリ達四人の視線が、一気に第四騎士団長に向けられる。今のやり取りをほくそ笑みながら見ていた第四騎士団長が、口を開く。


「フフフッ。 さすが勇者のパーティー、仲間割れなんぞ簡単にせんか」

「当たり前です。 戸惑ってしまっただけ」

「そうですわ。 当たり前の事をすっかり抜けてたからです」

「そうなのっ、良く良く考えればミミンが、敵になる事無いし」

「ムー?」

「そうよ。ペルセポネが、ミミンの体にある魔石を狙っている。 敵になったと分かった瞬間……ミミンの魔石を絶対狩りに来るし」

「ヒィッ!!」


 リフィーナの言葉に、ユカリもフェルトも軽く目を見開くが、すぐに納得した顔になるが、ミミンだけは、顔が引き攣っている。


「ムッ、そうおねぇさまに狙われるのは嬉しいような悲しいような」


 ミミンは、そう呟き戦闘を伺っている俺達の方に視線を向けると、直ぐに視線を戻した。

 俺の隣にいるペルセポネは、二本の剣を取り出しまるで肉を捏ねくりますかのように動かしながら戦闘を観ている。

 第四騎士団長の笑い声が、高々と響く。


「フフフッ。 お遊びはここまで、本気で殺しにかかるぞ勇者ユカリぃぃぃ」


 再び黒いオーラに包まれる第四騎士団長は、不適の笑みを浮かべ剣を持つ腕を回し、一歩一歩じっくりとユカリに向かう。

 武器を構えるユカリ。

 地面を蹴る第四騎士団長は、剣を振り上げユカリに飛び掛かった。


 激しく土埃が、立ち上がり戦場の外に流れ飛び交う斬撃に武器と武器のぶつかり合う金属音に火花、そして、掛け合う声と爆発と破裂音がこの場の大気に響く。

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