87話

 俺は、再び両腕でペルセポネを抱き上げ壁の上から地面に降りる。その間もペルセポネは、少し紅潮しながら俺の顔を凝視しているが無言。

 そこに、先程まで戦い魔族となったカツオフィレの騎士団長二人を倒して地面に座り込んできるユカリ達の前に立つ。


「そんなに強かったか?」

「ええ、レベルはそんなんでも無いんですけど」

「ホントよぉ。 動きも素早いし、あんた達程ではないけど訳分からないよ」

「リフィーナ。 なんで俺達が、訳分からないんだ?」

「はぁ。 そりゃこんな戦っている傍で二人のイチャついていたらねぇ」

「そうですわ。 ハーデスさんもペルセポネさんも状況をよく見て欲しいわ」

「むっー。 おねぇさま抱きついているなんてぇ、けしからんですぅ」

「ミミン。 貴女が私に抱きつこうとする思いと同じように私は、め……ハーデスに抱きつくの」


 少し拗ねるミミンをよそにペルセポネは、言葉を返すと再び俺の顔を眺める。そして、コベソ達が待機していた馬車が、俺達がいる場所にゆっくりと車輪の地面を駆ける音を立てやってくる。着くとコベソが、降りてきた。


「おおおっおぉ。 見ててハラハラしたぞ」

「何がハラハラよっ」

「その馬車に細工とかしてあるって、分かってるわ」

「バレたか」


―――何を言ってるんだ?馬車に細工?


 笑いながら言ってくるコベソは、少し腰を下げ膝に手をついて休んでいるとコベソの後ろからトンドもこちらに歩いてくる。


「レベル差があってもやはりこの空だと魔族も強くなるんだな」

「えぇ、あの鉄球の騎士。 レベル二十七なのに私の攻撃がそんなに通らなかった」

「あの長い剣のも私よりも強かったし、レベル二十五ってホントかと思っちゃったよ」

「攻撃受けて少し痺れたのを覚えてるわ」

「やはり、あの赤い空。 魔素濃度が濃いのが原因で魔族の力が増す……。 いや本来の力と言うのか」

「それならトンドよ。 言い方変えれば、人族の青い空の下なら魔族を弱体化していまう」

「うむ、そう言う事だが、もう一つ分かったのが。 逆に人族がこの空、魔素濃度が濃い赤い空の中では……」

「弱まる」


 トンドの言葉尻をユカリが、話す。

 そして、トンドとコベソの話で現状を理解するユカリ達は、それぞれ顔を合わせる。


「それじゃ、さっきのやつ。 強かったのって私達が弱く……弱体化しているからって事?」

「まぁそうだな……。 レベルとしては一割程だな」

「一割?」


 疑問の眼差しをトンドに向けるリフィーナだが、ミミンも同じように首を傾げている。


「つまり十パーセントだっ」

「じゅう……パーセント?」


 リフィーナは『私、割やパーセントわからない』って顔しているが、それを感じたトンドとコベソは、深くため息を吐いている。


「はぁっ。 ミミンは置いといて、分かっているんだぞリフィーナ。 ワザと聞き返しているのを」

「そうだな。 お前さんの口から聞いた事あるからなぁ」


 見抜かされたリフィーナは、申し訳なさそうに笑みを浮かべる。

 俺は、トンドの言葉が耳に入れながらこの赤い空を眺める。


「つまり、人族が何故魔族の領地である魔界に侵攻しないかと言うのは」

「そうです、ハーデスさん。 本来の力を発揮する魔族に対し、魔族よりもレベルや力さえ弱い人族が、魔界に出向くと更に弱くなる」

「だが、言い方を変えれば。 弱くなる魔族は、何故人族のこの地に攻める?」


 俺とコベソの会話にユカリ達四人は、呆然とその会話を聞いている。すると悩むコベソの変わりにトンドが口を開く。


「簡単です。 魔族が弱まっても人族が弱い。 警戒するべき人物は、勇者を含む数人しかいない高レベルの者だけ」

「あぁそうだな。 俺もそう考えていた」


――――つまり、魔素が濃い所だと魔族は、通常の能力を発揮で人族は、弱くなる。

 そして魔素が薄いもしくは無いと魔族は、弱くなり人族は、変わらないと言うことか。魔族や魔王が簡単に人族の所まで来れるのに、人族が何故、魔族の所に行かないのか。わかった気がする。

 では何故魔王は、わざわざ弱体化してまで人族の領地に侵攻するのか?


 そんな悩みは尽きない俺だが、そこにペルセポネが俺の肩を叩く。


「世界が、違えば色々違うのよ。 細かく気にしてこの場で考えてもキリが無いわ。 色々見て回るのよ」


 ペルセポネは、笑顔で俺の手を引っ張りながら馬車に向かう。ユカリ達も馬車に乗り込みマナラの街を通らず迂回してカツオフィレの城に向かう。


「あそこには誰も居ないとは言えないが……。 このまま中に入れば、少ないアンデッドの餌食になるかもしれん」

「そっそれじゃぁ。 街にはアンデッド化になってない人もいるって事ですか?」

「あぁ、すまんなユカリ嬢ちゃん。 俺達が中に入ったらアンデッド共に刺激を与えてしまうかもしれん」

「無事なのでしょうか? 今すぐにでも解放しに戻り……」

「ダメよ、ユカリ。 このまま進むのですわ」

「フェルト、どうして? このままだと生き残っている人たちを助けられないじゃない」

「そうだけど、多分。 アンデッドが残っているからこそ残された人族も無事なのって事でしょう。 そうですわよねコベソ?」

「そう、フェルトの言う通り。 あくまで予想だがな。 街の人族全員がアンデッドになってないという事は、もしかしたら魔王ノライフは、何かで察知できるのかもしれんからな」


 コベソの言葉に同意と頷く仕草をするリフィーナとフェルト。それを見て悩んでいたユカリも納得する。

 ただ、赤い空の下にあるマナラの街が、次第に小さくなったいく。

 そして、迫る魔物を倒し数日経つと俺達を乗せた馬車がカツオフィレ城を構えるカツオフィレの城下町の門の前に着く。


「うーん。 どうしたもんかな」

「むーっ。 どうしたもんかな」

「……あぁどうしたものですかね」

「あー。 これ確実に戦いになるじゃない、何故あんなどっしりと構える」


 カツオフィレ城下町を囲む高い城壁にある城下町に入る大きな門の下で腕を組んで立ちっぱなしの鎧を着た騎士が、一人いる。

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