77話

 ペルセポネが引き連れて来た女魔法使いは、まるで犬のように四つん這いになりながら着いてきて表情がうっとりとし時々蕩けた目をする。


「女魔法使い生け捕りにしたんだな」

「大成功よ。 接近していると魔法使えないみたいだったし。 多分グールのようだけど筋力弱い」


 ペルセポネが持っている紐を軽く引っ張ると女魔法使いの首につながられていて体が地面に擦れる。だが、引っ張れると苦しまずに何故か光悦な表情になるのが不思議だ。

 まるで犬のように女魔法使いを見ていたら後方からユカリ達が駆け寄ってくる。


「ハーデスさん、ペルセポネさん大丈夫でしたか?」

「ちょっと、どういう事か説明して」

「おねぇさまっ。 その女の方が良いって事ですか?」


 ユカリ達の言葉をしっかりと聞いていた俺だが、ミミンの問いかけにペルセポネは、呆然としている。


「この女の方が良いって……どういう事?」

「むっー。 この女魔法使い、おねぇさまから束縛されてぇぇっ……羨まひぃ」

「ミミン……こんな趣味あったの?」

「えっ?」


 ペルセポネの冷たい目線にミミンは、目が泳ぐとユカリ達の冷ややかな顔でミミンを見つめている。


「いやぁ、そんな事ないですよぉ。 ただおねぇさまがその女魔法使いに夢中だから」

「そうだよね。 紐でこんな卑猥な格好されてみんなに見られるなんて……そんな趣味ないよね」


 気持ちの籠ってない笑いをするミミン。

 女魔法使いにつながられた紐を引っ張るペルセポネに吐息が漏れる女魔法使い。ミミンの視線は、女魔法使いに注がれている。


「ペルセポネ。 神官の……クラフの遺体。 魔石必要なのだろ」

「そういえば、こいつ魔法使っていたのよね」


 俺は、ペルセポネから女魔法使いにつながられた紐を受け取ると地面に座っている女魔法使いの表情が、無心のような表情に変わる。


――――今まで悦に浸っていた表情なのに何故だ?


「うぇっ」

「本当に……ほじくり返しているのね」


 リフィーナとフェルトは、口を塞ぎながらそっぽを向きミミンは、女魔法使いの真向かいに座り睨みを効かせている。


「魔石ゲット。 こいつ二つ合ったわ」

「えぇ、クラフは回復魔法も使えたし補助魔法も使ってたわ」

「そうなのね、ユカリ。 神官の魔石は貴重なのかもね」

「人族からの魔石を取るとか。 気が狂ってる」

「リフィーナ。 よく振りかえられる……うっぷ」


 リフィーナは、ペルセポネに対し嫌悪感を顕にするがその後ろで無惨な姿になった神官クラフを視界に入れてしまったフェルトは、直ぐに顔を背け口を塞ぐ。


「神官の魔石は、多分貴重。 あっても使われないし使えないけど」


 ミミンと女魔法使いの睨み合いが始まっていたが、遠くからコベソの掛け声が届くとトンドと共にこの場にやって来ていた。


「はぁはぁはぁはぁ。 少し遠すぎだろってぇぇ」

「はぁはぁ、なにぃ? この死体」

「おい、この顔……まさかカツオフィレ王か?」

「そうです」

「ユカリ嬢ちゃんが倒したのか?」

「倒したのは……ハーデスさんです」

「やはりハーデスさんが。 でそこの――――頭吹っ飛んでるのが、あの服からして神官かい」


 カツオフィレ王の鎧を剥ぎ取っているコベソの元にリフィーナとフェルトが、近づいて妙な面持ちで口を開く。


「ちょっと、コベソ」

「なんじゃい?」

「あのハーデスさん……どういう方なのかしら?」

「ん? どうしたんだ、フェルトもリフィーナも」

「いや、ユカリに見てもらった……。 ハーデスのレベルを」

「レベル?」

「ええ、そうしたらハーデスさんのレベルが、十とユカリが。 なのにレベル三十のカツオフィレ王に勝つなんて」


 微かに青く光る目をしたコベソが、俺の方を振り向き凝視してくる。それに気付く俺は、コベソ達に歩み寄る。


「なんだ?」

「ハーデスさん。 コイツらが」

「そうよ。 あんた、なんでレベルが十なのに――――あのレベル三十のカツオフィレ王に勝てるの?」

「そうです、何か特別な理由がある筈。 教えてください」


 険しい顔をしたリフィーナとフェルトは、俺に迫ってくる。


――――レベル十だと?確かこの体、この世界に合わせて……。ヘカテーが、用意して……確かレベルが、上がるとか言ってたような気がするが。俺のレベルは十なのは、何故だ?


 執拗に迫る二人を俺は、宥めてペルセポネの姿を探す。すると、何か異変に気づいたようでペルセポネは、女魔法使いにつながられた紐を俺から受け取ると、三人に問う。


「ハーデスが、どうしたの?」

「そう、あんたの旦那。 レベル十ってどういう事なのよ」


 リフィーナは、すごい剣幕で怒鳴りながらペルセポネに迫る。事を荒立ててしまったユカリは、申し訳なさそうにひっそりとトンドと共に神官クラフを土に埋めていた。


「それがなに?」

「それが……なにって……」

「アホエルフのアンタとフェルトと同じレベルでも、アホエルフはフェルトよりも素早く動けるでしょ。それにこの女魔法使いとミミンが、同じレベルならミミンの方が強いんじゃない」

「アホアホ言うなって言いたいけど、今回は於いといて上げるけどね。確かに同じレベルならハイエルフの私の方が」

「レベルは水準、種族や個人差があって事。 つまりレベルに縛られてたら足元掬われるわよ」


 ペルセポネの言葉に懸念を残すリフィーナだが、その隣のフェルトが、目を輝かせて見詰めながら再び俺に訴えかけてくる。


「つまり、ハーデスさんは、そのレベル差を克服する為に日々努力、鍛錬をしているのですね。 どんな鍛錬して、もしかしたらレベル差を覆す程のスキルをお持ちで?」


 グイグイくるフェルトに対しタジタジとなる俺。それを見かけたペルセポネが、フェルトと俺の間に入り鬼の形相でフェルトを睨む。


「ちょっと。 うちの旦那に何するの?」

「ハーデスさんの努力と精神に感銘を受けましたわ。 私フェルトは、ハーデスさんに――――ついて行きます」

「えっ! 何言って……るのフェルト?」

「ペルセポネさん。 私ハーデスさんを心から思っているのです」


 グイグイくるフェルトに圧されるペルセポネは、仰け反って焦っている。


「だけど、私の旦那よ」

「旦那だからと言ってそんなの関係ないです。 私は心の底から真剣に思っているのです」


 胸に手を当てペルセポネを睨むフェルトにペルセポネも顔を紅潮しながら剣幕で睨み返す。

 その様子を見て呆れるリフィーナとコベソに、フェルトとペルセポネが、睨み合う状況になっておるか分からないトンドとユカリ。

 剣幕がぶつかり合う中、今すぐにでも殴り合いになりそうな二人。それを察知してミミンは、腕を回してフェルトを抑え俺はペルセポネを後ろから抱きしめていた。

 女魔法使いが、呆然として見ているとリフィーナが、冷めた口調で呟く。


「フェルトも言葉足らずだけど、なんか〜あの夫婦のイチャつき見せられているようで呆れるわ」

「まぁ、お主もわかったろ。 あの二人の事を知ろうとすると面倒起きると」

「結果イチャつきをされるのは勘弁よ。 元凶は倒したんだし戻りましょ」

「あぁ、青い空が広がっているな」

「えぇ、赤い空緑色の太陽から解放ね」


 空を見上げるリフィーナとコベソは、ローフェンに向け歩み始めると、ユカリもトンドも着いて行くとミミンも後に続こうとフェルトを引っ張ってペルセポネから引き離していく。


 目をつぶるペルセポネを後ろから抱きしめる俺は、お互いの体温と共に愛し合う温かさを感じあっていた。

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