68話
馬車から見えるペルセポネは、スケルトンを退治しているユカリ達の戦いぶりを見ているようだ。
スケルトンのトドメをミミンの火の魔法とユカリの勇者スキル【破邪】で粉々にしている。粉々になったスケルトンは、復元なのか復活なのか再び立ち上がる事は無かった。
――――アンデッドは火に弱いのは定番なんだな。
ミミンの放つ魔法の火弾と火の矢が爆裂音をあげ直撃し、スケルトン達が苦しみもがき、そして砕けていく姿が、遠くにいても手に取るようにわかる。
そして、最後の一体をユカリがトドメを刺し、スケルトンの骨がボロボロと砕けちると、持っていた剣だけを残す。
「どうだっ!! 骨どもっ。 私達にかかればこんなもんよ」
「ふぅ、終わったのね」
「攻撃の手段が少ないのは手こずるわ。 アンデッドは手強いのが痛感した」
地面に倒れるように腰を下ろすリフィーナとフェルトと剣を衝立にしてゆっくり腰を落とすユカリの勝利した喜びの会話が聞こえる中、一人の影がペルセポネを襲いかかる。
「私やってやりましたぁぁっ。 おねぇさ〜まぁ〜っ」
少し離れていたミミンは、ペルセポネに駆け寄り抱きつこうと両腕を広げ飛び掛る。だが、静かに横に動きミミンは、雪崩のように地面を摩っている。
「痛ったぁぁっ」
「あー、ミミン急にどうしたの?」
「おねぇさま。 ワザと避けましたでしょ?」
「さぁ、それよりもミミン何故そこで倒れているの?」
「むーっ!! ご褒美もらおうと……」
ローブに付いた砂や土を払っているミミン。そして先にいるユカリ達は、スケルトンを倒した事に安堵しているのか、今度は談笑をし休んでいた。
だが、すこし遠目の所で地面から空に向かって一筋の線が現れた事にユカリとフェルトが気付くとリフィーナもその方向へ振り向く。
その一筋の線が広がり人影を紫色で塗りつぶした人の形が現れる。
その人の形は、オルトロスと同じ色のオーラを燃え上がる炎の様に巻き上げる。
急に現れた不思議な物体に驚くユカリ達は、疲労困憊の中武器を持ち臨戦態勢をとる。
「なんなの、こんなやつ見た事ない」
「相手が分からない、防御に徹して」
「あの紫色。 邪悪な何か感じる」
ユカリの言葉を聞いたリフィーナとフェルトは、同時に呟く。
「「もしかして……魔王?」」
リフィーナとフェルト自分が呟いた言葉に恐怖を感じ持っている武具に震えが出てくる。そして紫色と知った俺は、その時嫌な予感が走る。
――――もしかして……。
「ペルセポネ! みんなを防げっ」
俺の声が届いたのか一瞬振り返ろうとしたが、直ぐに取り掛かる。
紫色の人の形が、オルトロスの撒き散らした紫色のオーラと同じように破裂音と共に爆風が起き、ユカリ達に襲いかかる。
オーラに溶け込むスケルトンの残骸。
ペルセポネは、神力を使い紫色のオーラを防ぐ透明の壁を作りだしその進行を防いでいる。
「何! この煙」
「見て!! スケルトンの骨、消えてる」
フェルトとリフィーナが、騒ぐ中で吹き荒れていた紫色のオーラは消えて、紫色の人の形が一歩一歩ユカリ達に迫っている。そのユカリ達は、紫色の人の形に向け震えながら武器を持つ。
無言のユカリは、スキルを展開しフェルト達にかけ、フェルトもリフィーナにミミンは、既にスキルや魔法で能力向上など終えていたが、疲労困憊の中万全な状態じゃなく、最低限の防御姿勢だ。
そしてジリジリと間合いが狭まる、紫色の人の形とユカリ達。
紫色の人の形は、右腕を上げると表情は待ったく無いがその雰囲気からは、余裕綽々の態度でそれに向け広げた手には、大人一人あたりの幅ぐらいの紫色の球体が出来上がる。
おぞましく感じ取られるその球体と紫色の人の形の存在にフェルトは、持っている盾を紫色の人の形に向けユカリとリフィーナを護る。
「あれ、やってきたらこの壁持つか……」
「紫色の攻撃が、効いてないんだ信じるしかない」
「そうです。 大丈夫です」
ユカリの『大丈夫』の言葉に胸を撫で下ろすも、紫色の人の形の球体から発する悍ましい気配を感じるリフィーナやフェルト達にとって脅威である。
紫色の人の形は上げていた右腕を球体と共に俺たちのいる方向へ傾け始めたその時、広がる紫色のオーラが止まり掻き消える。そして、剣を鞘にしまう音が二つなると紫色の人の形が掲げていた球体が収束しそれも消えると、紫色の人の形が苦しみ出す。
「なになに! 何が起きた?」
「ペルセポネっさん?」
驚くリフィーナ達は、ユカリの言葉でペルセポネのいる方を振り向く。
何とも言えぬ悲痛で苦悩の叫び声が空に響く。
静かに二つの細い線が紫色の人の形に入り交わると時間が止まったかのように紫色の人の形とその叫び声がピタリと静止し――――更に無数の線が現れ交差し紫色の人の形が細々に崩れ消滅した。
「邪魔なのよ。 魔石も無いしというかスケルトンぜーんぶ武器持ちじゃん。 スケルトンメイジとかリッチ、ノーライフキングとか魔石持ちないの!!」
呆れて遠くにあるセレヌの街を眺めながら深くため息をつくペルセポネ。
「うぇーん。 おねぇさぁ〜まぁぁあぁ……スハスハァ」
「いつまでしがみついているのミミン?」
そして、頬をペルセポネの胸近くでスリスリしているミミンは、鼻の穴を大きくしたりし呼吸が荒い。
俺とペルセポネと共に疲労でふらふらになりながら歩くユカリ達。これ見逃しかミミンは、ペルセポネの腕にしがみついて離れようとしないが、ペルセポネは、歩きづらそうにミミンの腕を振り払っている。その状況ながら俺達はゆっくり馬車の元に戻る。
勇者のスキルで回復済まし平然と歩くユカリは、一度振り返り後方にあるセレヌの街を見て口を開く。
「さっきの紫色の……。 魔物じゃない」
ユカリの一言にリフィーナ達は目を丸くし驚いている。
「魔物じゃないって!」
「魔族……。 あんな目も口もない紫色の魔族がいるって事」
「気持ち悪っ。 生き物じゃないのに」
馬車に近づき少し気が楽になったのか次々に話だすリフィーナ達だ。俺とペルセポネは、無言のままその会話を聞いている。
「あの紫色、スペクターって名前だった」
「「スススススススススペクター!?」」
「ええ、魔物出なく霊体……死霊?」
「おお、戻ってきたか」
馬車に着くとコベソが、笑顔で出迎えるが引き攣った顔をするリフィーナ達を見て首を傾げている。
「どうしたんだと言いたいが、良くあんな紫色倒したな」
「それは、ペルセポネさんが……」
「あぁ、そうだろう。 あんな高レベルのスペクターなんぞなぁ」
「笑う所じゃないわっ。 あんなバケモン死ぬ所だったのよ。 スケルトンでさえキツかったのに」
笑いながら言うコベソに、リフィーナが怒るがそれに対してコベソは、ニッコリと微笑む。
「まぁ結果。 生きているでは無いか!! それにオルトロスを操っていたスペクターだ。 難なく退けて良かった良かった」
自分勝手な解釈で納得するコベソ。『オルトロス』の言葉を聞いたリフィーナやフェルトは、口を開け固まっている。
「でも、オルトロスの素材手に入らんくて残念だなぁ。 それにしても、オルトロスに取り憑くスペクター。 それを手懐ける魔王……今回の奴は随分強そうだ」
笑って作業をする御者の元に行くがコベソは、ユカリ達に「中で休めよ」と伝えていた。
「オルトロス……ランクAよ確か。 魔物のランク」
「それに憑依するスペクターは、何なの」
「いや、フェルトそこじゃない。 そこでもあるけど軽々と倒せる魔物じゃないわ」
「むーっ。 確かに私達じゃ倒せない」
「オルトロスって……」
「そうユカリ。 オルトロスは二つ頭を持つ犬の魔物」
「ワンちゃん」
「そんな可愛いのじゃないわと言いたいけど、見た事無いし見るなんてそうそう無いから」
「ランクAだし、スペクターなんて未知よ未知」
「でも、ハーデスさんが倒して」
ユカリ、リフィーナ、フェルト、いつの間にかペルセポネに引き離されていたミミンの視線が俺に向けられると、ペルセポネが、グイッと俺の前に来て視線を合わせる。
「オルトロスでましたのね」
「あぁ、だがこの世界の魔物だ」
「そう、それは良かった」
「そうだ、ペルセポネ君にコレを」
俺は、ペルセポネの手を取り渡すとそれを見てにこやかな顔をするペルセポネは、ゆっくり俺の視線に合わせる。
「素敵ですわ。 あなた」
「君が喜んでくれるなら……」
俺はペルセポネの腰に手を回し引き寄せ更に顔を近づかせウットリし頬を赤くするペルセポネ。
だが、そこに四つの咳払いが入り次々に横を通り馬車に入っていく。
「お二人さん、そういうのは見えないところで」
「そうですわ」
「むーっ。おねぇさまは……良いですがそれ以上はむーっです」
「す、すみません」
膨れっ面のリフィーナとミミン、少し紅潮するフェルトは、肩で息をしているように疲れ果てて馬車に乗り込んでいたが、ユカリは会釈をして恥ずかしそうに潜り込む。
「おーい、出すぞ」
コベソの合図に俺とペルセポネは、笑顔を交わし馬車に乗り込んだ。
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