69話

 遂に俺達を乗せた馬車と後続の二台は、セレヌの街を通らず遠まりしてランドベルクの領内に入ったが再び街道に入るのには暫くかかりそうだとコベソは言う。

 しかも遠まりし悪道を通った為に二日を要してしまった。その事をコベソは『そのままセレヌ通れば……』と悔いていた。


 街道に戻り馬車は、加速しだし城塞都市ローフェンに進んでいる。


「大丈夫だろうか……」

「あんな分厚い壁大丈夫でしょ」

「お前は軽々しく言うんじゃない」

「何よ、心配しているから気を使ってるのにぃ」

「分かってる、分かってるんだ。 だがな要らんお世話だ」


 喧嘩をし出すリフィーナとコベソだが、この中にいる皆野宿生活で心身共に疲れきっている。


『まともなベッドで寝たい』とか呟くリフィーナ達。


――――もし社畜が異世界に転移してこの状況なら、『寝れるだけでも有難い』『寝れる場所ならどんな所でも寝れるぜ』など言ってそうなラノベあったような……。


 俺は、この幌の中を見渡していながらそう妄想している。ペルセポネは、俺が渡したオルトロスから獲得した魔石をニヤニヤし眺めている。


 ここ数日数時間、馬車の中は沈黙で埋め尽くされている。疲れきった表情する者、疲れが取れないのかウトウトとする者、ボーッと外の景色を眺めているが視点が定まってない者、口を開く事が無くなりローフェンに着く事だけをひたすら待っているようだ。そして他の二台の馬車を寝台として使っているが、土砂や悪道で揺れ余り寝付けないらしいし、寝付いてもただ布が引かれているだけで寝る場所は硬く、体が痛いと寝る者みな痛いと言っていた。

 俺とペルセポネは、寝てもいいし寝なくてもどちらでも構わないので俺は、その寝台には行ったこと無い。薦められたペルセポネが「寝る所はやはりふかふかじゃないとね」と言って拒否していた。

 日中、空は赤く緑色の太陽が照りつけるこの街道を俺たちが乗る馬車は、走っている。


 村が遠くに見えるのを御者が発見する。


「会頭、あそこに村が」

「村ァ? いい、そのままローフェンに」


 疲れきった声が行き交うとそこにリフィーナが、怒鳴り声を上げる。


「もぉーいやぁ!!」

「うるせー。 みんな疲れきってるんだ。 黙れ」


 本当に疲れきっているコベソの言葉が、棒読みになっているし、ずっと床を見て声を出ている。


「あの、村に行ってキチンとした布団、ベッドで寝て疲れを取りたい」

「はぁ、ダメだ。 早く行かないと……それにあの村もアンデッドに占領されているかもしれん」

「行ってみないとわからないでしょ。 それにもしアンデッド倒してふかふかのベッドが、あれば休めるし」

「休んでも、時間が無くなる。 ローフェンが墜ちたら元もこうもない」

「よく見ないよ!! こんな疲労状態でローフェン行ったって疲れきってまともに戦えないよっ!!」

「ダメだダメだ。 戦ってもらわないと困るが、とにかく一刻も早くローフェンに行かなくては」


 ため息混じりの声でリフィーナ達を説得しようとするコベソだが、その声すら力なく言い切っても肩で呼吸をしている始末だ。そこにユカリがそぉっと手を上げる。


「あのーコベソさん。 私もリフィーナに賛成です。ここは確りと休んで英気を養って挑みましょう」

「ユカリ嬢ちゃん。 でもなぁ……」


 トンドもフェルト、ミミンも全員コベソの顔を見て視線で訴えかけるとその目に驚いたコベソは、肩を下げる。


「わかった。 ――――おい、あの村に迎え。速度上げるなよ。 もしアンデッドが居たら即離れるぞ」

「りり了解ぃぃ!!」


 元気の良い御者の声を聞いたユカリ達は、笑顔で見つめあっていた。


――――みんな血の気が引いた青白さに目の下に隈が出来ている顔をしているしな、このまま行ってたらユカリ達は、確実に死んでいる。脳の回転が悪くなるし、状況判断も鈍るだろうからな。


 そして、馬車は、ローフェンの方向を真横に遠くに見える村に向かう。


 舗装はされているが、所々石が出て馬車は揺れる道を通る。徐々に見えてくる数十軒の建物と数多く敷き詰められている畑。


 人が、汗を拭って農作業している光景が、みえそうな所を通っているが、一向にそんな人達は見えないどころか人や動物など気配が、感じられないし、建物や畑は荒らされている形跡も無い。


「誰もいなそうですよ。 会頭」

「確か、そろそろ広い場所にでるからな。 そこで停めよう」

「了解しました」


馬車を停車し俺達は、地面に足をつける。


「久々じゃないけど〜」

「ゆっくり地面に足つけられるなんて」

「おしり痛いのよ」


 背伸びしながらリフィーナやユカリとミミンが会話をしている中、フェルトとコベソにトンドは、当たりを見回している。


「やはり、人いなそうだわ」

「駆り出されたか?」

「畑このままにされているって事はそう言う事だろ」


 俺達は、この村で一番大きな民家の前にいる。

 右手に細身の剣を持ち左手にはドアノブに手をかけるリフィーナとフェルトは、ドアの前で大盾を構えている。そして、ユカリも鞘から剣を抜き、ミミンは両手で杖をに握る。


「いい、開けるわよ」

「私が突撃して様子を見て合図するわ」


 二人の言葉に頷くユカリとミミン。

 リフィーナは、勢い良くドアを開けフェルトは、開いた入口を大盾で塞ぐように建物の中に入っていく。


「居ないわね」

「ギェェエエェ――――」

「ぎゃっ」

「――――って来るかも……しれ……ないよって事」


 後ろか聴こえた声に肩を竦めるフェルト、そしてユカリとミミンも小さく驚くと、その声に睨む三人。それに対しペルセポネが、腕を組んでしかめっ面しながら低い声をだす。


「あんた達何しているの? 疲れてるんじゃないの?」

「……窓から覗けば良いのに」


 ペルセポネに続いて口を挟む俺は、この建物のガラス窓に視線を向けると明るい日差しが入っているようで中の様子が外からでも見える。

 リフィーナとユカリは、唖然としているが、それでもフェルトは、隈無く内部を観察している。


「はぁ、この建物……いや、この周辺に人や魔物、特にアンデッドなんて居ないぞ」

「コベソ、油断させるなっ」

「そうだ! フェルトが、私たちの安全の為に慎重に部屋を調べてくれてるんだ」

「そ、そうかい。 ユカリ嬢ちゃん」

「はい、なんですか?」

「これ、鑑識眼で調べれば早い話じゃないか?」

「……」


 コベソの言葉にユカリは、ハッとしたら直ぐに目を青く光らせ建物に目をやる。


「この、建物には誰も何も居ない……わ」

「ユカリ本当?」


 リフィーナの目が外にいる俺達の表情を確認していると、フェルトの背中を押し部屋に入っていく。押されたフェルトは、寄ろけながらもバランスを取り辺りを警戒してリフィーナを睨む。


「痛っ!! なにぃリフィーナっ。 なんで押すの? アンデッド居るかもしれないし」

「アンデッドいないんだってさ。 それよりもベッドぉ」


 リフィーナの声を聞いたフェルトは、呆然とした顔のままユカリを見つめ、視線があったユカリは、フェルトに対し頷く。すると、フェルトは項垂れ崩れるように近くにあったテーブルに手を着く。


「むーっ! もぅ、怖かったし緊張した」


 陽気な声をあげながら建物に入るミミンとそれに続いて外に居た俺達も中に入る。

 コベソが、後頭部を掻きながら中の様子を見回している。


「ユカリ嬢ちゃんもだけど、スキルは有効的に使えよ」

「おい、コベソ。 あいつらが呼んでいる」

「おう、行くか」


 コベソとトンドが、建物から出て御者達のいる所に向かって行くと、ペルセポネも俺の腕を掴んでコベソ達の後を追う。すると、建物の奥に行っているリフィーナの声が聞こえる。


「ベッド四つしかない」

「借りさせて貰うお」

「むーっ!あれおねぇさまは?」

「ミミン、手伝って」



 俺達は、それぞれ空いている建物にあるベッドを借り、休む事にした。


――――布団に入って眠る、これが人らしい生活なのかもな。


 揺れがなく、ふかふかの体を包み込む優しい布団に入る俺は、そんな事を考え夜を明かした。

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