49話

「もみあげ男から魔石は頂いたわ。 貴方は用済み」

「ううっ」


 ペルセポネの剣の穂先が、禿げ面男の鼻の先に当たり血が垂れる。


「ペルセポネさん。 こいつらを、ギルドに渡さないと!!」

「そうよ。 殺してもいいと言ってたけど……人族を殺すのはねぇ」

「うーん、でも殺しても良いんじゃ……」

「ダメでしょ!! ここの人……山賊、生きている者は、全員連れていくから!!」

「そうです。 ペルセポネさん、無駄な殺生は……」

「魔石持っていない……悪党なのに?」

「魔石は関係ないと……。 どんだけ魔石を!! 分かるけど」

「そうです。 悪党だけど、人族なのでダメです!!」


 ペルセポネの『意味わからん』という顔をしながらユカリとリフィーナから説得を受けている。

 だが、そのやり取りで隙が生まれたのか禿げ面男とスキンヘッド男は、一瞬しゃがみ地面に転がっていた武器を手にした途端、ペルセポネとユカリ達から遠ざかる。


「フフっ。 あまちゃんだなぁ」

「これだから、女はっ」


 体に見合ってないがショートソードだろうか、それを振り回して威嚇する禿げ面男とスキンヘッド男。


「ユカリ……いやアホが、うるさいから!!」

「何ぃっ私のせいだと……? ってぇぇ私、アホじゃない!!」

「でも無駄な殺生ですからぁ」

「そんなのあの城での出来事で、話したじゃない」

「ですが……」

「まぁ、あいつらが逃げられたら溜まったもんじゃ無いわね」

「そうです。 早く捕まえなと」

「って!! 言うかぁっ。 二人とも私を無視するなっ」


 剣を突き出し、牽制するペルセポネ達三人に、意気揚揚と手にした武器を振り回す禿げ面男とスキンヘッド男。

 その状況の中、コベソとトンドは、馬車から出て来ている。そして、コベソは俺に聞いてくる。


「ペルセポネさん、もしかして攻撃出来ない?」

「まぁ、そうだな」

「やはり、そうなのか」

コベソは、俺の回答に頷くが、トンドは眉間に皺を寄せて尋ねてくる。

「おい、なんでだ?」

「そりゃぁ、あれだ」

「ペルセポネが手を出せば、あいつらを確実に殺すからな」


 俺の発言に納得するコベソとトンドは、呻き声が連なる倒れた山賊共の景色を見渡している。


「でもよ。 コベソ」

「なんだ?」

「この人数、捕らえて連れてくんだろ?」

「あぁ、そうだな。 トンドどうした?」

「……食糧大丈夫かと思ってな」

「あ〜ぁ〜そっちか!! 正直無理だな。 こりゃ戻っても進んでも全くと言っていい程、足りんな」

「なら、俺が口減らしてくればいいか? あの二人だけで、その証拠が充分なんだろ?」


 俺の提案をすんなりと受け入れているコベソとトンドは、改まって俺への言葉を付け加えてくる。


「そ、そうですが。 ハーデスさん、良いんで?」

「まぁ」


 不安な顔をするコベソとトンドだが、俺はその顔を気にせず返事をすると、二人が小声で伝えてくる。


「お願いですが、奴らの武具を回収したいんで……」

「出来たら、武具を傷付けないような……」

「あ〜、分かったが。 まぁ出来る限りそうするさ」


 その言葉を残し俺は、ハルバードを片手に近くにいた山賊を見下げる。

 その山賊は俺の顔を見るや涙目の顔をしながら「うぅ〜っ。 痛い、助けぇ」情けない声で助けを乞うが、その言葉を俺の耳に届く瞬間、水風船が破裂する音と共に俺の足元が赤く染まる。

 そう、ハルバードの穂先で山賊の頭を貫き地面に刺している。


――――こうすれば、まぁ武器や防具に傷付けないだろう。


 そして、俺は近くで倒れている山賊に足を運び、再び「助けぇ〜」と乞うが、ハルバードを振り下ろし次々に地面に赤い水玉模様を描いていく。


――――これ、靴が汚れるのが欠点だな。


 俺の黒い靴が徐々に赤い液体が付き、靴の色が焦げ茶になっていく。

 それをお構い無しにどんどんハルバードを突きつけ、当たりを見渡すとコベソとトンドにその従業員やらが「おいっ!! どんどん回収しろっ」「汚れた手袋は直ぐに取り替えろよ」などせっせと死体から武器や防具を外して回収している。

 そして、ペルセポネの方も少し動いたのか禿げ面男とスキンヘッド男の声が聴こえる。


「おおおおっいいっ!! あの男っあの変な槍を地面に突き刺していると思ったらァ。 俺たちの部下殺してるんじゃねぇかぁっ!!」

「あいつぅっ。 狂気の沙汰じゃねぇぞぉ!! 人族を殺すのって!!」

「あんた達も殺したんじゃないの?」

「あぁっ? 俺たちは殺してなんかねぇよっ」

「殺さん。 奪うもん奪ってぇ。 はい、さよならだっ」


 リフィーナが、睨みながらスキンヘッドの顔に唾を吐きつけるぐらいの勢いの言葉だが、彼等も自分の正当性を自称して来た。


「さぁ、どうだか……」

「奪われた人達が、その後どんな苦しい生活をしたか……。 もしかしたら生活出来なくて亡くなってしまったとか」


 ユカリの考えを受けた禿げ面男は、冷たい目でユカリを睨み返す。


「ふん、いやいや。 死んで当然。 奪った奴らからは命は取らんかったさでもな。 城にいるヤツら貴族の奴らは死んで当然!!」

「それは聞いたわ!!でも……」

「でもではない。 国王とその周りの貴族共は自分たちの利益しか考えてない。 ならその利益が近づかず無くなっていくのが奴らに取って苦しい事だろう」


 魔族討伐に義兵を募る国王、それに手を挙げた数名の冒険者。そして、援軍を送ると約束した国王だが、その国王と貴族達は、魔族討伐で兵を失う事が損失、援軍は送らず魔族討伐を冒険者で募った義兵に委ねる。


「俺達が死を覚悟した瞬間!! 正に奇跡。 ロック鳥が頭上を旋回したし、魔族は引き返し俺たちは魔族を退けたんだ」

「そうだ。 たがなぁ、俺たちの仲間の中にはなぁ、魔族襲撃で滅ぼされた村に家族が住んでいるヤツもいたんだ」

「だからっ、俺たちが、国に民を裏切るとどうなるか思い知らせてやるんだ!!」

「そ、それはっ!!」

「でも、犯罪は犯罪でしょうがっ!!」


 リフィーナとユカリが、少しずつ構えて突きつけている武器をほんの少しだけ下ろしてしまうが、ペルセポネは、あっけらかんとしている。


「ふーん。 まぁでもあんた達は、な〜んにも被害ないんじゃない? 家族が殺されたのも別の人だし、魔族と戦ってたらこの場に居ないし」

「う、それはっ」

「うるさいっ!! 俺たちだって索敵やらあったんだ」


 スキンヘッド男と禿げ面男は、急に目が泳ぎ始めると、下がっていた武器を再び上げるユカリとリフィーナ。


「まぁ、兎も角、あんた達はもう用済みだからさぁ。大人しく捕まりなよ」

「うるせぇ!! 捕まって貯まるかよォ」

「冒険者ギルドまで依頼は依頼で受け付けているがよォ。 受けたらギルドはそいつらに適当に説明して、やってきた奴らを俺たちは搾取する。 こっちは、ギルドに守られているからよぉ。 最高だよっ!!」


 じわじわと目に活気を取り戻しているスキンヘッド男と禿げ面男は、何時でも武器片手に攻撃できる体全体動き始めた。


「ちっ!! すげぇ、正論言っているかと思ったら。 本人全く関係ないし」

「……二人とも観念しなさいっ。 そして捕まって罪を償いなさい」

「ふんっ!! なーんで俺達が捕まんなきゃならん。 俺たちは殺してなんかいないからなっ」

「ここでお前達を殺せば……俺、俺たちは晴れて無実!!」

「無実?」

「こんな状況でも、あんな行動しているあの男よりは、俺達は、マシだぜ」


 スキンヘッド男は、顎で俺のいる場所を示すと、リフィーナ達は一瞬だが、俺の方に目をやる。

 俺は、もちろんお構い無しにハルバードの穂先を死にかけの山賊共の頭に突き刺している。

 まるで作業の様に、突き刺しては頭が破裂し移動、そして突き刺すと……。

 そんな視線を気にせずに淡々と俺は、その作業をこなし、あらかた終わったのだが、ふと山の高台に目をやる。


「おい、ペルセポネ!!」

「何?」


 俺の呼び掛けに、普通に返事をしてくるペルセポネだが、その隣のリフィーナとユカリは、瞬きすら無いほど俺を直視している。


「うぉっ!! 隙だらけだぜっ」

「余所見してる余裕あんなぁっ!!」


 禿げ面男とスキンヘッド男の怒号が、山肌に伝わると、更に反響が増幅しリフィーナとユカリは、まごつき、咄嗟に武器を構い直す。

 だが、山賊の二人は、武器を大きく振りかぶってユカリ達に迫り渾身の一撃を振り下ろす。

 大盾を持ち攻撃を防ぎに入るフェルトに魔法を放とうと構えるミミンだが、やはりレベル差が大きく別れている。ユカリの動きは、リフィーナよりも早く、禿げ面男とスキンヘッド男の攻撃を自前の剣で払いのけ、激しい金属音が山肌に反響し二人の武器が、弾き飛ばされた。


「手を挙げ!!」

「「はっはいぃぃぃぃっ」」


 ユカリは、禿げ面男とスキンヘッド男にむけ切っ先を向け、武器が無くなった二人は、ユカリの動きで力量不足を思い知った用で、両手を高らかに挙げて、涙ぐんでいた。

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