47話

「フェルト、引き付けありがとうっ」

「まぁ、私の役割だし、当然」

「それにしても、フェルトのスキル凄い」

「まぁね。 それよりユカリの剣筋というか動きやはり凄い。 リフィーナに比べて」

「そりゃ、そうですよ。 こうレベル差があっては例えエルフでもムリムリ」

「あの〜」

「いや、ミミンの密かな支援魔法も」

「えっ? ミミンしてた?」

「おーい、リフィーナ。 ミミンかけてたよ」

「てっきり、ユカリのスキルで……」

「ユカリのより大幅ないけど、上乗せされてた気がするし」

「うぅ、フェルトまで。 どうせぇ、どうせ私の魔法なんて」


 山賊として禿げ面男とその周辺三人しか立っていなく、20人近くの山賊の男共が「うぅ〜っ」「あぁぁ」と呻き声を上げて体をモゾモゾと動き地面に這いつくばっている。


「うるさい。 しぶとい、やつらだなぁ」

「リフィーナそんな目でみてやるな。 こいつら、もう立てないだろ」

「そりゃぁそうでしょねぇ。 手や足ちょんぎっているし。 むしろユカリの方のヤツら痛がってそう」

「でもぉ。 このままだと出血で……」

「大丈夫でしょ。 ミミン。 死んだって良いって、こいつら」


 転がっている山賊達は、リフィーナ達の会話を耳に入れると青ざめ、悲観な思いにふけった顔になる。

 地面を見ては【青銀の戦乙女】達を見て周辺を見渡す禿げ面男は、周りにいる部下に指図をする。


「お、お前ら、攻めないか?」

「えぇっ! お頭ぁっ。 無理でっねぇ」


 ユカリ達に向かって指をさす禿げ面男は、周りの部下に怒鳴り散らしていると、その奥から太いもみあげ男が、息を切らしてやってくる。


「おっ、いけるか?」

「ハァハァ……大丈夫……」

「貴様ァらぁっ。 もぅ許してと言っても許さんっ」

「何あいつ、急に強気になって」

「ユカリ、リフィーナ一旦私の後ろに」

「何よっ」

「フェルト、分かった」


 大声を出す禿げ面男は、ユカリに告げると何かを察知したフェルトは、ユカリとリフィーナを下げさせる。そして、禿げ面男は手のひらを空高く上げる。


「いけぇえっ」


 その叫び声と共に、山の高台から数多くの矢が雨のように射られる。そして、ユカリも禿げ面男の声でその矢に気付く。


「プロトシールドっ」

「多重障壁」

「なになに、どこから湧いてきた!!」

「損害庇保殻膜」

「間に合えぇぇ。 ランパートぉぉ!!」


 地面にどっしりと構えたフェルトの大盾からスキルで出来た盾が、複数現れ縦横へと巨大な盾の様になると、それに合わせたミミンは、すぐさま障壁を掛けるが、その枚数は一枚から二枚ほど。

 その雨のように迫る矢を見て目を大きくひん剥くリフィーナは、体を丸くし地面へうずくまる。

 だが、矢は障壁に阻まれる物もあるが、直ぐに破かれ、フェルトの作ったスキルの盾に弾かれていく。しかし、その盾も次第にヒビが入る。

 ミミンもリフィーナの傍で、地面へとうずくまると、上部にあるスキルの盾が、破裂して割れていき粉々になる。


「きたっ」


 フェルトの大盾から一気に城壁の強固な壁が大盾に宿る。


「数多すぎて、耐えれるか……」

「ちょっとぉ」

「フェルト、耐えて」


 数が多く降り注ぐ矢が城壁と化した盾に弾かれるが、元々ヒビが入っていたところが次第に欠けていく。

 禿げ面男の汚い声が、降り注ぐ矢の音をかき消す程の大声を荒らげる。


「ぐっはっはっはぁっ!! 攻めろ攻めろっ!」

「よぉ、あれかぁ。 今日の獲物」

「おお、我が同士よ」


 禿げ面男の横にやってきた男は、袖から見える腕で分かる程の筋骨隆々の体型とスキンヘッドに高身長だが、軽装備でやって来ていた。

 そして、そのスキンヘッド男の後ろには、がっちり装備を固めた者達が勢揃いしている。


 その者達が目に入ったコベソは、ふと俺とペルセポネに話し掛けてくる。


「あれ、俺が売った武具もあるが、違うのもあるなぁ」

「ねぇ――――」


 ペルセポネの一言で、俺もだがコベソとトンドも一斉にペルセポネを見る。


「――――もう飽きたんだけど。 魔法使う素振りもないし」

「でですが、ペルセポネさん。 山賊討伐はリフィーナ達の依頼じゃぁ」

「でもね。あの弓の、矢切れるの待つしかないし。 そんな事より魔法使えるヤツいないの」

「俺もただ待つだけなのは飽きてきたが、ペルセポネ。ここは……」


 俺の言葉の途中で、道の端から物音と共に草木が揺れる。


「ひゃっはぁっ!! 死ねぇやぁ」

「死ねぇぇえぇ」


 10人程の山賊が、剣を構え俺たちと馬車に飛び掛るよう襲撃してくる。


「どこにいた!!」

「隠れて……いや、魔法か?」

「魔法!! コベソ探して」


 トンドとコベソは、山賊の襲撃に焦りも見せてはいたが「身を潜めっ!!」と御者達に指示を出し

、「おうっ」とペルセポネの依頼に目を青く光らせて、襲撃してくる山賊を馬車中から覗き込ん確認している。


「こうもあろうかと、お前らの馬車奪わせて貰った。 人質取れば貴様らなんぞ」

「人質かぁ。 今は無駄な抵抗やめて、この後お楽しみの時抵抗してくれ」


 禿げ面男とスキンヘッド男が、卑猥な口元と目付きでユカリ達に大声を出す。


「ハー……!!」

「何なの……あの……」

「あ、おねぇさまぁ……」


 ユカリとフェルトにミミンが、禿げ面男の声で俺達のいる馬車へ振り返ると、安堵の息を漏らす。

 そして、禿げ面男とスキンヘッド男は、空いた口が塞がらず唖然として俺たちのいる馬車を見ていた。


「遅いのよ」

「なんで、こう言うヤツらって、声出して襲いかかってくる」

「律儀なのよ。『襲うわ〜』って教えてくれるのよ」

「律儀すぎるだろ。 もしだが隠密的な魔法使ってまで襲うなら、黙って馬車を襲撃するだろ」

「そんな魔法あるなら……。 コベソ見つかった?」

「このぉ、中には居なかった」

「そうよね……」


 俺とペルセポネは、その場から離れていない。多分、周りから見たら一歩も動いてないと思われるだろうが、実は数歩武器を振るう為に動いている。

 そして、現状。馬車の周りには襲撃してきた山賊10名の肉体は無く、地面には少しの肉片と共に赤く染った地面と若干の血の池が残る。


「あの場所にはいない?」

「魔法を使った形跡が無いし、レベル……あのもみあげ男」

「もみあげ!!」

「あれが魔法を使うのか?」

「何かやろうとしているな」

「そう……」


 ペルセポネは、その一言を発した後、再びユカリ達の戦いを無言で眺めている。



「ミミンあの矢。 どうにか出来る?」

「届くか分からないけど」

「ユカリ。 リフィーナこっち!!」

「武装してるじゃない!!」

「フェルト、引き付けお願い」

「任せてっ。 ユカリとリフィーナ引き付けたヤツを」

「任せなっ。 ハイエルフのリフィーナが奴らをぶった斬ってやる!!」


 禿げ面男とスキンヘッド男の間を駆け抜けて突進してくる武装集団。まっすぐフェルトの構える盾に、まるで引き付けられるかのように速度を上げてくる。

 そして、ミミンの持つ杖の先の形状は、丸フックの様な形でそれに羽の形をした宝石の様な石が5つ付けられている。

 その石が微かに光ると、ミミンの頭上に数多くの火の矢が出来上がり、高台を目指し発射していく。

 飛んでくる矢に当たり相殺され火の矢は数少なくなる。しかしそれでも高台に届き数名の悲痛な叫び声が、木霊する。

 数多くの武装集団に手こずるユカリとリフィーナは、少し引き気味になり武装集団の攻撃はフェルトの大盾にも向けられる。


「こいつら。 完全武装しやがって!!」

「数がっ」


 振るってくる武器を受け流し避けたりし上手く交わしているが、やはり数多くの手立てで攻めてくる武装集団に対しユカリとリフィーナは、決定的な攻撃が出来ないでいた。


「サンダーアローっ!!」


 ミミンの杖の石が、再び微かに光ると今度はバチバチと弾ける音がする矢が現れ放たれる。同じように飛んでくる矢に阻まれるが、それでも高台に届き「ぎゃぁぁっ」山肌に響き数名高台から転落していた。

 スキンヘッド男の声とその後ろにいた数名が、ユカリ達に向かい歩みを進める。


「俺らが行ってやる」

「い良いんですか?」

「あぁ、馬車にいる奴らは馬車を守っているんだ。 あの四人の女どもの所には来んだろう。 それに……」

「それに?」

「ランクBだろうが、俺達もB寸前だったパーティーだ。 あれ見たら多勢に対して経験少ないって事だ」

「……」

「まぁ、とっ捕まえた後は……多勢に経験豊富になるだろうがなっ!!」


 スキンヘッド男の笑い声と共にその周辺も笑い、大笑いと化す。

 武装集団に手こずるユカリ達に、ランクB寸前のパーティーが、ゆっくりと足を進めていた。

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