46話

「おいっ! そこの商隊。 荷物有り金ぜーんぶ置いていけっ。 そうすれば命だけは助けてやってもいい」


 俺たちを乗せた馬車の進行を止める20人程の群れ。その筆頭に一人伸びた無精髭をし禿げ面、スキンヘッドではなく頭部の脇、耳の上には髪がしっかり生えている男性が、意気揚々と声高らかに警告をする。

 この男性を含めた全員が立派な武器を携え、防具もしっかりと着こなしている。一見山賊と見えないそ程の姿だ。


 この場所、岩肌がむき出しにされた高い山が連なりその山間の道を通ると、その行先にはヒグマクス王が構える城と街がある。まさに岩山に挟まれた道にでこの団体に阻まれた。という事はこいつらが依頼にあった山賊で間違いない。


「間違いない。 あいつら既に俺が売った武器を持ってる」

「山賊っぽい格好ならわかりやすかったけど、明らかにあいつら冒険者だな」


 幌から覗き込み阻む者達を眺めるフェルトとコベソ。依頼達成するなら先に進んでヒグマクスの城下町で完了報告すれば良いとコベソの提案により、俺達はこの国に到着した馬車よりも減らしの三台で動いている。

 グマナ伯爵の兵が、敗走しこの場から居なくなるのを確認し、すぐに馬車を進めたのだが。


「ヤツら疲れても無いな」

「傷とかある者もいるけど……」


 すると、ひょっこりユカリも外を眺め、コベソと同時に目を青く光らせて【鑑識眼】を使用する。


「あーあのハゲが、一番レベル高い」

「でも、みんな15前後」

「という事は、私やミミンより低いけど人数的に無理。 リフィーナがいてある程度行けると思うけどやはり多勢に無勢」


 分析しだすフェルトの後ろでリフィーナが、「私にも見せろ」と言っているようだが後ろからミミンがリフィーナの口を両手で塞いでいるので、全く声が届かない。


「御者さんが、困ってるので早く取り掛かりましょう」

「そうね。 ユカリの言う通りだわ」

「よし、やるかっ」


 肩を回していち早くでるリフィーナと続く三人。俺とペルセポネもその後出るが、今回は本職通りコベソ達この馬車の護衛。四人を見守りつつだが優先するのはコベソ達だ。



 どこにあるか分からないアイテムバックから武具を取り出したリフィーナ達三人にユカリは、決まってスキルの空間収納から取り出していた。


「女共だ!!」

「ヒョゥーッ。 殺すでねーぞ」

「とっ捕まえて楽しむんだ」

「良いかお前らっ!! 相手多分冒険者だっ。 手練だぞっ。 心してかかれっ!!」


 先頭の禿げ面男が、大声を上げ周りに伝えると、部下なのか周りの山賊が一斉に「りょーっかいっ!!」と合わせて怒鳴る。


 真新しくした武器を構えて、合図を待つ山賊に対峙するユカリ達四人は、リフィーナの声が上がる。

 フェルトは、前衛にて大盾を持ち防御に徹した構えになり、ミミンは、後衛にて杖を構え何やら呟いている。そしてリフィーナとユカリは二人の間に立ち、武器を構えいつでも攻撃に転じれる様にしている。


「フェルト!! いつもの。 ユカリとミミンで支援した後攻撃。 守り固めたら私とユカリで相手を蹴散らしつつ、ミミンが援護で」

「おーい、丸聞こえじゃん。 俺達といい事したいって聞こえるよー」

「おお、あの声の女耳先尖ってるぅ。エルフじゃん。俺のが熱くなるぅ」


 山賊共の卑猥で歓喜な声が上がり盛り上がるが、禿げ面と周辺の山賊の声。


「エルフだと? そして大盾の群青に、二股とんがり帽子……」

「冒険者ギルドが、何故冒険者を寄越すっ!!」


 ざわめきが起きる山賊とは違い、着実に臨戦態勢に持ってきているユカリ達。


「損害庇保殻膜!!」


 リフィーナ達にまとわりつく光に続いてミミンの声。


「多重障壁!!」


 更に直ぐに見えなくなるが三枚程の薄い板が四人に付与される。


「全能力向上! 獅子心王!」


 ユカリの言葉が、この山間に響くと、トンドの口から「獅子心王って新たなスキルか?」とコベソに尋ねているのを俺はこっそり聞いている。


「あれ、勇者スキルの一つだろう。 別名ライオンハート。 弱腰にならない為の勇敢な心を持たせる仲間へのスキルだな」


――――【破邪】とは別に新たなスキルを持っていたのだが、仲間がいなければ使えないスキルだな。


 山賊の禿げ面男は、驚きの声が響く。


「損害庇保殻膜だとっ!! 聖女が使うヤツだろ。 アイツ聖女か?」

「マジかよォ。 聖女様がこんな場所にかよ」

「とっ捕まえて楽しむだァ」


 周りの山賊が、悦びと共に変な踊りをする者も現れるが、禿げ面男とその近くにいた数名は少しだけ下がりだす。


「よし、おめぇら恐れるな。 女だっ。 好きに遊べぇぇえっ!!」


 雪崩のように武器を掲げて押寄せるように突撃する山賊を前に、フェルトの強く発する声は、リフィーナ達に届く。


「リプロシールドっ!!」


 フェルトの構える大盾と同形状の盾らしい板が複数現れると、それらが順々に横へ広がりフェルトが、次のスキルを発動させる。


「ランパート!!」


大盾が、連なり城壁を思わせる強硬な壁となる。


「なんじゃぁこりゃっ」

「力推しでいけぇ」

「硬ってぇ!!」


 武器を振るう山賊達だが、城壁と化した大盾に阻まれ四人に攻撃出来ない。


「ま回り込めっ!!回り込んでその大盾の女を倒せっ」


 禿げ面男の言葉に、山賊達が大盾への攻撃を辞めて回り込もうとするが、ここにフェルトが大きい声でスキルを使う。


「プロヴォウグ!!」


「おいおいおいっ、なんだよっこれぇぇっ」

「この盾ぇっ!! 調子こくんじゃぁねぇ」


 回り込もうと動く山賊達は、良くも分からない状態になりフェルトのスキル出来た盾の壁に群がり、ひたすらそれを叩き落とそうと必死になっている。


「おっお前らっなぁーにしてるんだぁっ!! 回り込めっ回り込めっ」

「いやぁお頭っ。 この盾がムカついてっ」

「この盾、調子こいてるんっすよォ」


 禿げ面男の顔が焦りに変わると、隣にいた太いもみあげの男を呼んでいる。


「ちぃっ。大盾のスキルってヤツか……」

「なんだ?」

「嫌な予感がする。 アイツら呼んでこい」

「分かった」


 太いもみあげ男は、そう告げ奥へ行ってしまう。そして禿げ面男は、無駄に武器を振るっている山賊を一喝する。


「おまぇらぁぁっ!!」

「なっ、なんだっ」

「ちっ、やりやがったな」

「回り込めっ回り込めっ」


 大盾の壁に群がり攻撃していた山賊達が、フェルトのスキルから解放され一斉に動きが変わる。


「よし、かける」

「リフィーナっ!!」

「これで、攻撃開始っ。 リジェネ!!」


 ユカリ達四人の体に緑色の光が数秒纏うと、リフィーナの掛け声でユカリと共に左右に別れ、フェルトのスキルから解放された山賊達に斬り掛かる。


「女ぁッ」

「こいつぅっ!! 強ぇぇ」


 リフィーナの持つ武器、手の甲を覆う金属が装飾された細身の両刃剣が、素早い速さで何度も斬り付け山賊に傷を被わせ崩れ倒していく。


「数でいけぇー。 数でっ!!」

「お頭ぁ!! この盾に引き付けられるんだぁ」

「くっそぉっ!! あのエルフもだけど黒髪のぉ」


 ユカリもまた、リフィーナと同じく自前の剣で迫り来る山賊達を次々に行動不能へ陥れている。


「リフィーナ……リフィーナ……。どこかで」

「うぎゃぁぁぁぁああああっ」


 山賊達の悲鳴と錆び付いた匂いが、徐々に増えつつ考え込んでいた禿げ面男の目にその光景が映る。


「こいつらっ!! ランクBの【青銀の戦乙女】だぁぁぁっ。おめぇらぁ、注意してかかれっ」

「まじぃかぁ」

「くっそぉっ」

「ランクBだとぉ」


 山賊の驚きと悲愴の声が、山間の壁に響き渡るが彼らも引くにひけず、無言で武器を振るうユカリとリフィーナに迫り掛かる。


 だが、レベルの差が物語っており、武器を持つ事さえ出来なくなった山賊達が、呻き声を上げ地面を這いつくばっている。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る