41話
朝からドタバタと音を立てる程従業員に指図しているコベソは、今日グマナ伯爵に納品する武具の検品をしているし、トンドもエビナ支店の建物の奥に籠り、朝から顔を出してない。
そんな状況を離れて見ているユカリに【青銀の戦乙女】のリフィーナ達。
俺は、ペルセポネとこの場に着くと、それに気付くコベソ達に軽く挨拶を交わす。
「ペルセポネが、冒険者ギルドに行きたいと言ってたからな。 これから行こうと思うんだが」
「あぁ、確かにそう言ってましたな。 これらをグマナ伯爵んとこに納品しなきゃいけないし……」
「お待たせしました」
笑顔で、まだ靴も履ききれてない慌てぶりしながらやってくるユカリと、その後ろに欠伸しながらやってくるリフィーナとあと二人。ペルセポネが、呆れた顔をしてやってくる四人を眺めている。
「勇者のユカリが、冒険者ギルドに行くって言うもんだからさっ。 私達も付いていってあげるわ」
「いや、結構!」
「冷たっ! ……って普通こういうのワイワイとっ」
「ユカリは、来るって言ってたけどあんた達は、私達が帰ってきてから行けば?」
「田舎の冒険者が、他の土地のギルドに入ったら舐められるわよ。 私達Bランクの冒険者がついて行った方が身のためだと…… 思わない?」
リフィーナは、したり顔でペルセポネの顔を覗き込むとこめかみに力が入りイラッとするペルセポネは、少し鼻を鳴らすと。
「まぁ、そんなに着いてきたかったら、金魚のフンの様に着いてくればぁ!?」
「フッ!フーーーン!?」
「私は、着いていくわぁ。 お姉さまァ」
「ちょっとミミンっ! そんなべっとりくっつくとぉ」
二又のとんがり帽子を深々と被るミミンは、照れた顔をしてがっしりとペルセポネの腕を組むが、ペルセポネは、ミミンの腕を振りほどこうとし、睨みつけながら腕を動かす。
そして、そのミミンを引き離そうとフェルトがミミンの腕を引っ張って引き離し注意をしていた。
「コベソ俺達行くから」
「あーっ、そうだ。 『南の方に行く』とか『輩を退治』とかあったら受けないで二、三日放置してくれ」
「なんでだ?」
「まぁ、勘だが。 今回のこの納品と何かありそうな予感でな」
「わかった。 そう妻に伝えておくか」
「特に、リフィーナっ!!」
「な、何よ?」
「受けるなよ」
「分かったわよ。 『南の方の依頼は受けるな』でしょ!」
「良し、それでいい」
「何よ! まるで私がバカだと思ってない?」
「そうじゃないのか?」
「私はエルフなのよ。 ハイエルフなの!! しかも貴重な存在アーク種なのよっ。 バカな訳がない。 絶対に」
コベソの言葉に反応しリフィーナはコベソに苛立ちをぶつける。しかし周りの人、そして俺もペルセポネもコベソの言葉に肯定しリフィーナを見つめている。
「みんなで何よ? 今一度言ってあげるわ。 私はバカじゃないわっ」
胸を張ってドヤ顔をするリフィーナに、呆れてしまい、その場を離れて冒険者ギルドに向かった。
今までみた冒険者ギルドとそんなに大差の無い建物。俺を先頭にその中に入る。
中にいるのは明らかに冒険者と分かる格好をした者とは別に背負子を抱える旅商人の様な者もいる。
そして、その冒険者達は俺に続くペルセポネとユカリを見るや否やニヤニヤと不快な笑みを浮かべているが、その後からやってきたリフィーナ達の姿が目に入るとざわめきが起きる。
『おい、あれ』『あの青銀の髪』『あととんがり帽子の魔法使い、群青色の髪の戦士って』等小声で話しているつもりだが、筒抜けである。
そんな事すら気にせずにペルセポネが、まっすぐ依頼が貼ってある壁に向かい、その壁に貼られた依頼書を険しい顔で一つ一つ確認している。
「ふん、やはり私達が居て良かったんじゃない?」
「リフィーナも、見なくていいの?」
「なぁーに、私たちに見合う依頼なんて……」
「でも、リフィーナの言葉。 お姉さまに伝わってないわぁ」
眺めるペルセポネと合わせてユカリも一つ一つ依頼を順々に見ている後ろで【青銀の戦乙女】三人がペルセポネに言っていたが耳がピクリとも動かないペルセポネ。
すると、リフィーナが、依頼書をひったくって取りペルセポネに渡そうと持ってくる。
「田舎の冒険者の貴女なんてこれで充分……」
「ユカリ、これでいいわ」
「それって!!」
「ムグッグッ」
リフィーナの言葉と姿を無視し、一枚の依頼書を引き離しそのまま、カウンターへ持っていく。
ユカリも、ペルセポネに付いてカウンターへ向かうと、その後に続くミミンとフェルトに、俺も何を取ったか気になる。
カウンターに依頼書を叩きつける音が、ギルド内に響くと受付の真面目そうな顔をした女性が、驚いてはいたが、その依頼書を手に取り直ぐに仕事に取り掛かる。
「ここの依頼…… 書ですが。 大丈夫ですか?」
「大丈夫よ。 早速、魔力呪判するわ」
そそくさと緑色の石を取り出し依頼書の上に重石の様に置くと、ペルセポネがその石に手をかざす。
「えっ、そうですね。 ランク外なら受付な……ん……ってぇ」
「これでこの依頼私のねっ」
石を払い除け依頼書をひったくりそのまま腰のバックにしまう。目をまん丸に見開いた後、瞬きをし大声でここにいる全ての人の耳に入る。
「そっそんなぁあぁっ。 ロック鳥の討伐の依頼受理されるなんてぇぇぇっ!!」
その受付の人の声に驚くここに居座っていた冒険者達と【青銀の戦乙女】三人。
リフィーナが、しかめっ面しながら受付の人に詰め寄る。
「ちょっとぉっ。 何か不正でもしたんじゃないの?」
「なっ。 してませんし、魔力呪判ですよ。 魔力呪判っ。 できるわけないじゃないですか!!」
「そそうだけどっ。 田舎の……が出来るわけっ」
「ギルド舐めないでっ」
受付の人は、カウンターを両手で叩きつけリフィーナに迫ると、たじろぐリフィーナは、顔を引き攣りだすとミミンが顎に人差し指を付け考え事を言うと、フェルトもランクAの存在を話し出す。
「ははっはっ。 そ、そうだよね」
「ランクAって、帝国のあの人と……」
「もう一人、聖国の偉い人ってのもいるけど、最近二人程現れたって聞いた事ある」
「フェルト、その一人があの……」
「そんな噂。 でも呪判出来たんだからそうかも」
「おねぇさまぁが、ランクAなんて……ステキ」
「分からないわっ。 不正よっ不正。 この目で強さを見極めなきゃ」
リフィーナは、ギルドの壁を向かいに依頼書と睨めっこしているペルセポネを親の敵のように睨んでいる。
その後ろから受付の人が「不正じゃにゃいっ」と噛みながら怒鳴るが、全くリフィーナの耳には入らなかった。
ペルセポネは、壁に貼られた二枚の依頼書を引きちぎり、依頼書の上を親指と人差し指でつまみ、それを嘲笑うかの様にリフィーナに見せる。
「あんた達【妙珍の馬鹿るちぃ】は二つのうちどっちの依頼が良いの?」
「おねぇさま。 【青銀の戦乙女】ですぅ」
「高ランクからの……。 今までの事思い出しら何も言えない……」
落ち込むミミンとフェルトだが、鼻を鳴らし尖った耳の先と顔が茹でダコのように真っ赤になるリフィーナが、怒りを露わにする。
――――依頼書の一枚は、山賊討伐?でもう一枚は……。
「こっちよっ!!受けてやろうじゃない」
リフィーナは、ペルセポネから山賊討伐の依頼書をひったくると、それをそのまま足音をドンドンと響かせてカウンターに突き出す。
「ふーん。 こっちの方がお似合いだと……。 あれ?『雑草採取』……。 薬草採取じゃなくて除草作業……」
取らなかった依頼書を見て少しキョトンとするペルセポネに、ユカリも「そんなの冒険者ギルドへの依頼であるんですねぇ」と呟いている。
「そうね。 案外冒険者ギルドって人材派遣なのかもね」
カウンターで、光るとフンフンと鼻を鳴らし再び戻ってくるリフィーナ。
「くっ、先ずはあんたの、そのロック鳥討伐一緒に行って見極めてやるわっ。 ランクAなのかっ!!」
「ねぇ、なんの依頼受けたの?」
「そうだよ。 勝手に受けるの辞めてって」
「あっあぁ。 ごめんだけどコイツが」
「おねぇさまぁの事、コイツ呼ばわりしちゃぁ! モゴモゴッ」
「ミミンっあんたまどろっこしい!! それより、リフィーナ何の依頼?」
フェルトは、後ろから抱きつくようにミミンの口を両手で抑えリフィーナに内容を確認する。
先程の依頼書を広げてみるリフィーナの顔が青ざめていく。
「ご、ごめん。 本当に……」
「なにがゴメンよ? どんな依頼?」
「討伐とは見えたんだけど……」
「討伐?」
「南の山間に潜む山賊討伐……」
「み、南って。 コベソから『受けんな』って言ってたやつじゃん」
「リフィーナっ!!」
「だから、ゴメンなさぁーい」
目がウルウルと泪が溢れ出そうになるリフィーナに、叱るフェルト。
それすら気にせずにペルセポネと、続くユカリが冒険者ギルドから出ていく。
「ハーデス戻るわよ 。あと【妙珍のバカたちぃー】も」
背中を見せ手を振るペルセポネと共に俺とユカリは、ギルドを後にすると、しょんぼりしながら足取りが思いリフィーナを励ましながら叱るミミンとフェルトだった。
――――それにしても、【帝国】【聖国】と不穏な言葉が出てきてたのもあるが、異世界物として冒険者ギルドの定番依頼【薬草採取】、俺最強的な主人公が採取してきてギルドの受付嬢が、『こんなに取ってきたんですか!!』等と大量に採取して凄さをアピールなんて……正直できたら、やってみたかったなぁと心の奥底で思っていたんだ。でも、まさかの薬草でなくて雑草……除草作業依頼が、あるなんてな。異世界何があるか分からんな。
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