40話

 数日が経ち前方に見えてくる街の外壁。

 ここまで、数々の村を巡り、迫ってくる魔物を倒してきたが、ペルセポネが待望していた魔法が扱える魔物には、一切遭遇しなかった。

 そして、ついにたどり着いたエビナの街。

 そこに向かう俺達が乗っている馬車とは違う馬車や人達も向かっている。村からやってくる者もいれば、コベソ達と同じように背負子を背負ったり、荷物を詰んだ馬車で行商しに向かう人達がまばらにいる。

 この馬車も、エビナの街に入る前に衛兵達に検問されてコベソとトンドが、それに対応している。

 だが、そこに明らかに作り笑いをしながら、小太りでシワのないピシッとした襟足のあるスーツに似ている服の男性が、コベソに近づく。


「いやはや、ヒロックアクツ商事――――」


 この小太りスーツの男性が『ヒロックアクツ商事』の言葉を出すと周りの馬車や背負子で入街したもの達がこちらに視線を向ける。


「――――の方ですね?」

「あぁ、そうだが?」

「私、この領地グマナ伯爵の使いの者です」

「グマナ……伯爵……」

「そうです。 我が領主にお会いして頂たい」

「一介の商人が、この地の領主様に会えと?」

「ええ、是非」

「じゃぁ、ここにいる商人ほとんど招待しているって事だな?」


 少し困った顔をするグマナ伯爵の使者は、直ぐに表情を変えまっすぐコベソを見ると、当のコベソが変わる表情に、若干驚いていた。


「――――いいえ、貴方達だけです」

「俺達だけが招待とは……。 まぁいいが、我らも準備がある。 整えてからで良いか?」

「このまま、このまま来て頂けると助かり……ます」


 使者の表情を察したのか、コベソはトンドに目配りすると二つ返事で快諾し二人は、馬車に乗り込む。


「あの使者の後に着いていけ」


 コベソの言葉に御者は、俺達の乗る馬車を動かすと残りの馬車も連なり、当然の様に着いてきている。

 このエビナの街、中に入ると活気のある店や飛び交う声に、人の通りも多い。ランドベルクにあったローフェンなど建物の造りなど若干砂汚れが目立つだけで、他は変わらずと言っていい。

 この馬車の進む方向にしっかりとした塀に、豪邸が見えてくる。

 豪邸に着くや直ぐにコベソとトンドと共に護衛として俺とペルセポネも着いていく。勿論、リフィーナ達【青銀の戦乙女】のパーティーは、馬車と共に留守番で、リフィーナは、その待つことに対し酷く怒っていたが、その豪邸へ向かう俺達はそのまま無視をしたのは言うまでもない。

 大きな窓に、絵画など如何にも高級そうなインテリアに、本棚等仕事部屋として使っている。そして、天井が映り込む程の大理石の様な素材で作られたテーブルに、ソファがあり挨拶を済ませたコベソとトンドも座り、テーブルを挟んで真向かいに、使者よりも気品の高い服装で、微笑む丸顔の男グマナ伯爵がソファに腰掛け、そのソファの後ろに茶髪おかっぱ頭でヒョロっとした眼鏡を掛けた男性が、一人立っている。

 俺とペルセポネは、別に用意された椅子に腰掛けて、グマナ伯爵との会合に立ち会う。


「じつは、まさか世界第三商社のうち一社がここの街エビナに着くとは、まさに夢のようだ」

「グマナ伯爵。 早速で悪いのだが用とは?」

「世間の話、この国とこの街の話をしようと思ったのだが、やはりコベソ殿はせっかちだと、昔に噂で聞いた事あるが……」

「商人は、時間を無闇に使う訳には行かないのです。 どこにどんなチャンスが落ちてくるか……。 分からないものなのです」

「そうか……それなら。 いまお主らが運んでいる荷の中に武器や防具はあるか?」

「もちろん、有りますが」

「それを、我らに売って欲しい」


 グマナ伯爵は、顎を下げコベソへの視線を逸らすと、コベソは少し前かがみになりポケットから紙とペンを取る。


――――その小さいポケットから出せたなそのペンと紙、それに明らかにサイズ感違うし、コベソの体型なら本当にそのポケットから出したならその紙、若干湿ってるだろ。


 コベソは、何か書いた紙をテーブルに置き、ずらすようにグマナ伯爵へ差し出す。


「伯爵、分かりました。 コレで」

「うむ」


 前に出された紙を受け取り、書いてある文字に目を動かすグマナ伯爵とその後ろにいる茶髪おかっぱメガネ。


「なっ!バカな。 貴様っ」

「これでしか、取引できないですな」

「ここ、グマナ伯爵の……」

「止さぬか!」


 数字を見て眼鏡がズレるほど眉間にシワ寄せ紅潮する茶髪おかっぱメガネは、前のめりになり唾を噴霧しながら喋るが、それをゆっくり手を挙げ制止させるグマナ伯爵。


「ですが……」

「コベソよ。 悪いがこの量でこの値段は……」

「でしょう」

「きっ貴様っ!!『でしょう』とは何だ? 馬鹿にしているのか?」

「これ、止さぬか」

「その武器や防具は、【魔鉄】を含有量が半分の物ですから」

「ま、魔鉄!?」

「これが、量産している鉄のみの……」


 コベソは、紙を二枚先程と同じように差し出すとグマナ伯爵は、それを受け取り再び目を動かしている。

 そして、後ろにいる茶髪おかっぱメガネもグマナ伯爵と同じように頷いていると、もう一枚の紙を見たグマナ伯爵と茶髪おかっぱメガネも目を丸くする。


「コベソよ、これは」

「違法では?」

「でしょうな。もし閣下がその下に書かれている文言を守って頂ければ、その金額で譲りますが……」

「この金額なら……」

「確かに、この金額なら傷ついた兵も直ぐに回復し、再び向かう事が出来るでしょう」

「だな」

「ところで、何故そんなに武器や防具を?」

「いや、それを答えるわけには」

「閣下、わかりました。 今日の取引した品は、明日こちらにお持ちします」

「そ、そんなに早く……出来るのか?」


 驚くグマナ伯爵とその後ろの茶髪おかっぱメガネを見てコベソが、すぐに快諾の返事をする。


「ふぅ、ヒロックアクツ商事のコベソとトンドよ。 助かった……これで」

「私どもは買っていただければそれで」


 コベソとトンドに着いて俺達もこのグマナ伯爵の豪邸からヒロックアクツ商事のエビナ支店に向かうと、やはり口うるさいリフィーナが、一番に開口する。


「ちょっと! なんで、何も言わないっ。 何があったとか」

「なんで、リフィーナに言わなきゃならん」

「そりゃぁ。 私達の雇い主だからっ」

「確かに、アテルレナスからカツオフィレの護衛は。 【青銀の戦乙女】に依頼しているが、今は違う」

「はぁっ!? 違っても今こうして同じ馬車に乗ってるんだから言ってくれても」


 コベソと言い争っているリフィーナの耳が徐々に赤くなり、少し目と目の間も紅潮している。そこにトンドが、リフィーナに告げる。


「商売の話しさ。 武具と薬を売っただけさ」

「こんな大きな街なのに武器とかなんで、このヒロックアクツから買うの?」

「知らん。 だが、ここ最近何故かうちの支店でも在庫が減っているからな」


――――コベソ、お前は支店の在庫状況わかるのか?


「そういえば、さっきから武器屋とか『売り切れ』の文字が多い」

「確かに、そんなに武器売れるのか?」

「ちょっと二人とも何?」


 リフィーナの仲間ミミンとフェルトが、リフィーナの後ろから口を挟むと静かにトンドが、呟く。


「何かこの国……このグマナ伯爵の領内で何か起きているんだろう。 だから武器や防具が必要なんだろうな」

「まぁ、リフィーナさんも皆さんも良いじゃないですか! 早く大きな街に着いたんですから早く休みましょうよ」

「ユカリお嬢ちゃんの言葉が正論だな。 リフィーナ、俺達が戻って喚き散らすより、この言葉が聞きたかったな」

「う、うるさいっ。 私だって……」


 言葉に詰まるリフィーナは、モジモジしながらミミンとフェルトの間にスっと静かに座ると、ミミンが、リフィーナの頭をポンポンと軽く叩いていた。


「そうそう。 私とハーデスは、明日冒険者ギルドに行くわ」

「明日なら納品だけだからまぁ、良いですが」

「ユカリも連れて行って大丈夫?」

「ユカリお嬢ちゃんが、良ければ」

「私は大丈夫ですよ。 行きます」

「コベソ、よろしく」

「はい。……ってリフィーナ」

「なっ何よ。 黙って聞いていれば急に」

「お前達も冒険者なんだろ? 行かなくて良いのか」

「も、勿論行く予定だったわよ。 ねぇ?」

「えっ」「あっ、そうだね」


 急にリフィーナから振られ慌てて回答するミミンとフェルトは、少し目が泳ぐ。


「冒険者なんだから、ギルドに顔出さなきゃ。 良い依頼があったら受けるし」

「納品が終わったら、直ぐに出るかもしれないんだぞ?」

「何言ってる? この領内で何かあるんだからそうそう簡単に出発出来ないんじゃない?」

「おぉ、リフィーナにしては冴えてるな!」

「そうだな。 あのリフィーナにしては」


 リフィーナを見ながら笑うコベソとトンドに、リフィーナ自身若干苛立ちをしている。


「うるさいっ! 超寿命のエルフだし、しかも私ハイエルフなんだからっ」

「はい? エルフ?」

「クソつまんねぇダジャレすんなっ! トンドっ」

「まさか、ハイ……エルフなんて居たのか?」

「居るわよ。 しかも私は、ハイエルフの中でもアーク種だから」

「アーク種? 初耳だな」

「そりゃそうでしょ。 エルフの中でも秘密だし」


 リフィーナは、腕組みをしどこか勝ち誇ったような顔をして俺達を見るが、そこにトンドのため息。


「はぁ、それ秘密なら言っちゃぁいけないんじゃ?」

「はぁっ? あっ!!!!」


 目をひんむいてたじろぐリフィーナと、その周り全員がため息を深く吐き出す。


「って、忘れなさいっ。 忘れなきゃ今回の売買の話で薬っていう話も言い触らしてやるわ」

「というか、ハイエルフだのアーク種? だの言っても誰も信じないし、憶えもしないだろ」

「なんでよ? エルフの事だよエルフの。 トンドも気になるでしょ?」

「俺自身は、気になるけど……。 リフィーナを見てるとな」

「エルフってこういう人なんだって。 ユカリお嬢ちゃんはどうだ?」

「リフィーナさんは、明るいですもんね。 エルフってみんなそうなんですか?」

「さすが勇者。 エルフは、皆そうなんだよ」

「ちょっとぉっコベソ!! エルフってのは。 気高く、心情深く。 そして気も長いし口も固いわ。 エルフはこうなのよ。 わかった?「」ユカリ」

「分かりました。 エルフってのはリフィーナさんみたいな人を言うんですね」

「そ、そうよっ」

「ユカリお嬢ちゃん。 気をつけろよ、エルフは気短いし、直ぐに口滑らせるからな」

「分かりました……」

「ちょっとぉおっ! コベソっ」


 ミミンとフェルトと共にコベソ達も笑いながら、少し肩を落とすリフィーナは、ゆっくりと座席に腰を下ろしている。

 リフィーナは、エルフの印象を落として?しまったことにショックする。


――――【ハイエルフ】っているんだ。しかもリフィーナが?異世界に来て初エルフがリフィーナだったし。そういえば、【タリアーゼ】の確かマイクかな『エルフにハイエルフなんて居ない』と言ってた気がするが……。まぁ居たんだなぁって。

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