第30話

 冒険者ギルドに入ると壁や辺りに目も行かずそのまま真っ直ぐ受付の所へペルセポネは、向かい空いているカウンターに依頼書を叩きつける。

 小走りで走ってくる受付の人が、その依頼書を見ては周りを気にしだしていた。


「コレ」

「あのー何か証拠の様な物は?」


 前は、ヒロックアクツ商事の印があったからすんなりと完了出来たが、ブラックワイルドボア討伐の依頼では印を貰ってない。

 すると、ペルセポネは腰にある小さなポーチを開け手を入れると黒い大きな物体を振り回すかの様にカウンターに置く。すると、受付の人の姿が見えなくなり向こうは突然現れた謎の物体に騒いでいる。


「うぎゃぁぁぁぁああああ!! なんですかぁ」

「あれ、受付の? コレが証明」

「ふっ普通キバだけ持ってくれば良いのに! なんで頭全部なんですか!!」

「コレ最高の証明じゃない?」

「確かに証明ですけど!! 仕事出来ない! 依頼書取れない」


 ペルセポネはそそくさとブラックワイルドボアの頭部を元に戻しと、不貞腐れていて少し紅潮して怒っている様にも見える受付の人が、依頼書を確認し石を置きお互い完了の作業を終えた。


「これ、完了です」

「それじゃ」

「いや、待ってください。 ブラックワイルドボアのキバは?」

「キバ?」

「えっ? 普通ボア系ならキバはを換金したりとかするのに。 貴女、キバ切り落として頭持ってくるなんて……」

「あぁ、キバならヒロックアクツ商事のヤツに渡したわ」

「ま、またヒロックアクツ商事!! なんてヤツらだ」

「頭蓋骨いる?」

「要りません! キバなら硬度最高品質の武器加工出来るのに。 頭蓋骨、しかもさっきぽっかり穴開いてましたし、脆そうな頭蓋骨要りません」


 プンスカプンして更に紅潮している受付の人は、奥の壁を叩いているが、それすら気にせずペルセポネは依頼を完了して満足気な笑みをしていた。


「さぁ、ハーデス戻りましょ」

「おい、あの人凄い笑顔手を振りながら怒っている顔だぞ」

「それが仕事なのよ。 冒険者ギルドの受付って」


 ペルセポネが、離れた途端我に返ったのか仕事を全うする受付の人は、顔を引き攣ってまでして手を振りお辞儀をして俺たちが去るのを見守っていた。

 ヒロックアクツ商事ゼレヌ支店へと辿り着いた俺たちは、中に入るとソコにはコベソただ一人深く椅子に座ったまま、汗を拭いコップを片手に休んでいた。


「おお、戻ったか」

「ユカリは、どうした? それに何をして……」

「お嬢ちゃんは、奥の広場でフォルクス達と手合わせしてもらっている」

「へぇー。 それどうなの?」


 ペルセポネが興味津々でコベソに尋ねる。


「勇者だけあってお嬢ちゃん、レベルは高いけど、聞いてたら城で訓練受けたとかだけで、そんな戦闘経験無さそうでさ。 冒険者として歴のあるパーティ、タリアーゼと手合わせしたら」

「フォルクス達冒険者としての腕の見せどころか?」

「あぁ、『兎に角汚い手でも使って勝つ』と言う冒険者と『綺麗な訓練』との差だな」

「そうだ、コベソ」

「姉さん、なんだ?」

「いつの間に、ブラックワイルドボアのキバ取ったのよ」

「あぁ、姉さんが頭をしまう直前、ちょっくらと頂きやした」

「受付の凄くキレたわ」

「そりゃそうでしょな。 ブラックワイルドボアのキバ、鋼より硬くミスリルよりも脆いけど、魔鉄より強度高いから武器として最高の素材の一つなんですよ」

「魔鉄?」

「ハーデスさんのそのハルバード。魔鋼鉄で作ってるブラックワイルドボアのキバと同じ硬度だけどな」

「それよりキバはどうしたの?」

「魔鉄、魔鋼鉄とは?」

「お二人共、そんな同時に質問攻め止めてくだせぇ」

「じゃぁ、ハーデスから良いわ」

「そのワクワクしそうな名前の魔鉄とやらなんだ?」

「ワクワク? まぁ、魔鉄は魔力を流す事が出来る鉄です。鋼鉄も魔力を流す事が出来るのが魔鋼鉄」

「ミスリルは、もしかしてよくゲームや物語に出てくる」

「おっ、ご存知でしたか! そうです。 あのままの通り希少価値が高い魔法の金属ミスリル。 あれ鉱石発掘が大変で中々探すのに一苦労で」


 落ち着き汗を引いているコベソは、ゆっくりと話をする。だが、ペルセポネの睨みに少したじろいでいた。


「もぅ良いじゃない鉄の話は! それよりもキバ」

「姉さん。 キバは俺達が大切に使わせて貰います」

「いや、大切に使わせて貰いますじゃなくてどうしたのよ?」

「あれは、そ、そうです。 お嬢ちゃんに武器を作ってやろうと今作業してた所で」

「ふーん。 そうなの。 だけど討伐した私の物なんだから勝手に盗まれたら気分が悪いわ。 ユカリの為になるなら、それならそれで良いけど」


 安堵の息を漏らすコベソは、そのままゆっくりと立ち上がり、コップを置いて別の部屋を案内してくるので着いていくと既にソコには輝かしい剣と鎧が置いてある。


「これがお嬢ちゃんに、時代が違えど同じ日本人だし同郷の好だ。 この世界で勇者として出会ってしまったからな。何もせずに死なれたら胸糞悪い、俺が出来る事ってヤツさ」

「へー。 あんたも考えているのね。 で、あんな短期間でこれ程の物ポイポイと作れるのかなぁ?」


 いい事を言っていたコベソにペルセポネが、グイッと別の角度から切り込んで行くと、目が泳ぐコベソだがソコに、トンドが現れる。


「コベソ。 回復ポーション大量に出来た……ぞ……」

「あっ」


 二人は、驚き少し青ざめ、トンドは、入ってきた時と逆の動きをし部屋を離れて行く。聞かれてな行けない言葉を聞かれてしまったようだ。


「まぁ、良いじゃないか。 二人には何か転生した時に貰ったスキルとかあるんだろ」

「そうね。 詮索は良くないわね。 ハーデス貴方も何か鎧でも作って貰ったら? 異世界記念として」

「異世界の記念……品? 素材あれば良い作れるぞ」

「コベソ気にするな。 ペルセポネの言葉だ。 俺はのハルバード貰えただけで充分だ」


 ハルバードを持ち握りしめ再び礼をする俺はだご良い返事をしたと思っていると、ペルセポネが飽きたのか「ユカリ達の所に行きましょ」とコベソに場所を案内して貰っている。

 フォルクス達とユカリは、休憩をしながら談笑をしていた所に俺達が入る。


「ユカリさん。もう一戦やりますか?」

「そうですね」

「おい、リーダー。 ここは俺達とユカリさんと組んでペルセポネさんと戦うってのはどうだ?」

「ダメだろマラダイ。 そんな事出来んしレベルが違う」

「こっちには勇者もいるし人数も多い。 チャンスあるんじゃねぇ?」

「マラダイの言う事も有るかもな。 ランクAの実力を知るにもうってつけかもな」


 フォルクスがやって来てペルセポネに手合わせをお願いしてくる。


「良いけど、大丈夫?」

「大丈夫? 聞いてみます。 ユカリさんどうでしょう?」

「私は、是非」

「――――まぁ、そう……」


 離れていくフォルクスは、みんなを立たせ指示をする。ユカリも武器を構えているが、みんな持っている武器が木製に見える。


「姉さん、これ」

「あっ、木製なのね。 そうよね。 真剣なら殺しちゃうし、これでも危ないけど良いわよね?」


 二本の木剣を受け取り、手始めに軽めに振っている。

 フォルクスが、ボソッと「これ、やばいんじゃね」と発したらタリアーゼの面子は頷き唾を飲み込んでいる。

 たが、一人勇者ユカリは、意気揚々と剣先をペルセポネに向けて声を出してくる。


「ペルセポネさん。 ブラックワイルドボアを粉々にしたあの時よりも少し強くなったわよ」

「おい!」

「マジで?」

「ブラックワイルドボア……粉々?」


 ざわめき狼狽えるタリアーゼの面子を他所にユカリは張り切っている。

 そりゃ狼狽えるでしょ。ユカリの剣だってブラックワイルドボアの体にはほぼかすり傷程度のダメージしか与えてないのに、それを粉々と言われたらみんなビビるって。


「粉々じゃないわ。 丁度よさそうな肉片の大きさよ。 コベソ持って帰って来たんでしょ?」

「もちろんですよ、姉さん。 猪ですからね。美味しい肉残すわけない」

「コベソ。 彼らが私に勝ったら彼らに武器や防具作って上げて、そしてあの猪の肉……」

「――――わかった。 このヒロックアクツ商事の会頭であるこのコベソが、タリアーゼ全員分の武器と鎧新調させてやろう」

「マジか!!」

「コベソさん直々に」


 目の奥から熱を発している輝きに変わるタリアーゼの面子は、先程まで狼狽えていた態度から急変しやる気に満ち溢れて、ユカリもつられてやる気に拍車をかける様に鼓舞を上げている。

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