第4話

 遠くから何やら怒鳴っているのか、はては叫んでいるのか分からんが男性数名の声と共にドタバタと激しく動く音と、それに何が爆発や衝突した音も聴こえる。

 そして、犬?いや狼の吼えているのも聴こえてきた。

 その音は次第に強まってきているという事は、この先で何かが起きているのだろう。


「冥王さま、この先やってる!」

「あぁ……。 って何が?」

「お決まりの戦闘ですよ。 お決まりの」

「なんで? お決まり? テンプレなのかこれ?」

「どうせ、ここで『助けてー』って女の声が……」

「……」

「……」

「……」

「無いな。 テンプレ」

「ですね……」


 異世界物で、よく見かけるテンプレート、つまりテンプレお決まりと言うやつだ。

 主人公が、異世界の地に降りた時女性の助けを求める声を聞きつけ女性を助けて……。

 そんなお決まりパターンがあるんだけど、俺の異世界旅には無かったな。

 そして、俺自身、ペルセポネには隠しているが、そのテンプレ少し期待していたんだけどな。

 その間でも、競り合っている声や音が聴こえていた。


『御者!隠れていろ』

『犬の魔物がぁ!』

『足っ。腱を狙って』

『狙ってるし、動き止めようとっしている』


 魔物と戦っている者が数名いるみたいだ。

 そして、犬の魔物ってと、そろり俺とペルセポネは近づいていく。


「冥王さまっ」

「なんだ?」

「一旦、ここは様子見しましょ。 どんな攻防するか」

「ん? あぁ、そうするか」


 ちょうどこの位置から戦いが見える所を探して隠れてた俺たちは、向こうから見つからない様に森の木々の影に隠れて、そっと隙間から様子を見始める。


「あれ、コボルトですよ。 コボルト」

「コボルトって、人の身体に頭が犬ってヤツだよな?」

「でも、この世界だと二足歩行の犬で、手いや前足だけ人と同じ様な腕と手なんでよね」


 コボルトを数えると八匹、一匹の毛が全身茶色で他は灰色。

 そして、対する人族は五人。

 バスターソードと思える大きく幅広の剣を持つ男性と、戦斧と体の半分程ある盾を持つ男性二人は、コボルト達に近づいていた。

 そして、小柄と言うか身長の低い短剣を持った男性だろう。その者が時々コボルト達の動きを乱し掻き回している。

 森側には幌馬車と馬があり、そこに一人御者と思える男性が身を隠していそうだが、上半身見えている。

 その幌馬車を守るかのように一人の女性、如何にも神官か僧侶と思える身格好の者と、フードを被りローブを纏ったこちらも、魔法使いや魔術師と思える男性がいる。


「よし三匹倒した。 後五だ!」

「この、犬コロっ!! 二匹倒した」

「マイクっ、その調子でヤツらの動き乱してくれ」

「了解ッ!」

「みんな」

「障壁ありがとさんっ」

「ダナー! あのブラウンだけ、近寄らせるな」

「単発だが、遠ざけているから任せろ」


 素早そうなコボルトの目の前に一人の小柄な子が現れコボルトは、それを追いかけるが直ぐに見失っている。

 そして、その隙に小柄な子の短剣がコボルトの足、腱を狙って切り付けている。

 すると、コボルト達の機動力を失い剣と斧を持つ二人から狙われ倒されている。

 だが、残りのコボルトも倒されている仲間をみすみす見ている訳でなく、その時に拳を突き出して攻撃を仕掛けている。

 だが、女性の魔法で造られた壁で弾かれて、コボルトの方が隙を生んで倒されていった。

 数では優先だったコボルトだが、この五人のパーティの連携がそれを覆したと思える。

 そして、最後に残ったのが、男が声に出していたブラウンだ。


「ダナーどうだった?」

「いや、狙い定めて単発で何度かやったけど、素早い。 全部避けられた」

「えっ、うそ」

「マジか!ダナーさんの魔法で避けられちまうなんて」

「マラダイ、まだまだ俺なんて」

「ダナーさんのあのスキル持ってでもすると!」

「そうだ、奴は俺たちより強い。 マイクさっきと同じ戦法だが、危なかったら身を引けよ」

「リーダー。 了解」

「みんなも、防御を優先でやるぞ。 ライカ回復と防御魔法頼む。 使い切ってでもいい」

「はいっ。 わかりました」


 じわじわと迫ってくる茶色のコボルトの口は少し笑っているように見える。

 ライカと呼ばれた女性が、口を動かしては手が光ると、ライカを含めた五人全員同じ光を一瞬纏う。


「ライカ、後二回掛けてくれ。 その後回復優先で!」

「了解です」

「ダナー、魔法で援護頼む」

「任せろフォルクス」


 魔法使い風のダナーが、フォルクスと言う名のバスターソードを持つ男性に向けてサムズアップする。

 茶色のコボルトの目の前を小柄な子マイクが通り過ぎると、それをコボルトは、追いかける。

 だが、火の玉が数発コボルトの目の前で破裂し、煙が立ち込める。

 そして、コボルトが何も見えない所に剣を持つフォルクスと、戦斧を持ったマラダイが飛び掛り茶色のコボルトを切り付け、離れいく。

 その時、再び一瞬だけ光を纏っていた。

 煙が晴れると、胸に少しだけ赤い血が滲んでいる茶色のコボルトがフォルクスとマラダイを睨んでいる。


「かってぇぇ」

「マジか! 思いっきり全身込めて切ったのにアレかよ!」


 二人とも高く飛んで全身込めて斬りつけたと、この光景を見ている者なら誰でもそう思うだろう。

 灰色のコボルトを先程まで数匹倒してた二人だがそれでも、コボルトに少しだけダメージを与えたに過ぎないのは、気を引き締めて立ち向かった五人なのだから茶色のコボルト方が強いのだろう。


「でもなんで、ブラウンがいるんだよ!」

「あぁ、ヤツらの生息域なんてココじゃない筈なのに」


 小柄のマイクと戦斧のマラダイが悔しそうな顔をしている。


「そうさ、だが、現実俺たちの前にブラウンがいるんだ! やられる訳にはいかないんだよぉぉ」


 五人全員光を一瞬纏ったら、バスターソードを力強さそうに持ちフォルクスが、そのまま茶色のコボルトへ向かっていく。

 石粒が何粒もコボルトにあたり、そのまま火の玉も当たるとコボルトは、痛々しい声を上げ少しだけよろめき、後退している。

 そこにフォルクスのバスターソードが、コボルトの脇にはいり薙ぎ払った。

 転げ倒れる茶色のコボルト。

 ダナーとフォルクスの連携が、上手く入り他の三人はそれを見て喜ぶと同時に、飛び起きるコボルト。

 石粒と火が当たった所とバスターソードの攻撃が入った所も血が滲み出てきただけで、少しもダメージが通って無さそうだ。


「嘘だろ……」

「あれ、絶対入っただろ」


 怯える五人のウチ大きく目立ったのは小柄なマイクを見た茶色のコボルトの目付きが鋭く睨み、爪を立てマイクに一直線に迫る。

 マイクは、迫り来る茶色のコボルトに動きに反応出来ずただ、尻餅をついて両腕で頭を隠し防御体制を取る。


「「「「マイクッ!!」」」」


 パーティの四人全員が、顔面蒼白になり呼び掛けるが、四人ともマイクを助けるには茶色のコボルトの速さよりも間に合わない。

 その四人もマイクの悲惨な姿を見舞いと目を伏せ、顔を下げる。

 だが、マイクの悲鳴やコボルトの声すら聴こえず、草木や葉が風で擦れる音が流れている。


「あれ、ヤバいぞ」


俺は、後ろで見ているだろうペルセポネに声を掛ける。


「――――ペルセポネ?」


 振り替えるとそこにいるはずのペルセポネは、姿を消している。

 すると、戦闘を行っていた所から、マイクの怯えた叫び声が聴こえる。


「ちっ!血だァァ」


 その声で、四人共マイク、いや茶色のコボルトを見ている。


「何があった?」

「いや、分からない」


 腰を抜かしたと思えるマイクは立てず、ひたすらコボルトから腕を使って下がる。それを見たフォルクスとマラダイは助けに入る。

 茶色のコボルトは、鋭く光る爪をマイクに突き立てながら、頭が地面に転がり首から真っ赤な血がまるで温泉が噴き出したかのように出てコボルトの周りとその体を赤く染めていく。


「ブラウン何が?」

「分かりません。 だけど、私達助かったのかも」


 ライカも腰を抜かしたのか地面にヘタっと座って

ダナーも安堵の息をついていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る