第3話
俺とペルセポネは、平原を後にこの先にある筈の街へ向かっている。
小石など少し残ってはいて段差はあるがしっかりと整地されているこの街道を進むが、やはり突っかかっている疑問をペルセポネに投げ掛ける。
「どうして、この世界に来た?」
「えっ? ファンタジーの世界だし、異世界だし気になっちゃって」
「気になっちゃって――――ってじゃないんだ! 何があるか分からないんだ。危険だろ!?」
「まぁ! 心配してくれるなんて――――やはり冥王さまは、優しい旦那様」
「そりゃ……そうだろ。 俺の愛する妻の為だからな」
「――――浮気してたのどうしようっかなぁ〜」
「浮気じゃない!! と言うかそもそもしてない」
「ハイハイ……。 そうしときますよ」
俺は、ペルセポネの返答に呆れて少し黙るが、何故かペルセポネ自身満面の笑顔だ。
それに、もっと肝心な事を聞いてない事に気付く。
「それはそうと、何故その格好なんだ?」
「だから、ファンタジーだし異世界ですよ。 この格好がベストじゃないですか!」
「ベスト?」
「……って言う前に冥王さまは、そんな格好で大丈夫ですか?」
「大丈夫だろ。 こんな自由に動きやすい格好なんだから」
俺は、襟の高いフード付きのアウターに、少しゆったりなパンツと、どんな路面にも対応できる様にブーツを履いている。しかも全部ほぼ黒色だが。
「確かに動きやすい格好……。 武器とかは?」
「武器? それならあるぞ」
俺の手の届く所に異次元の窓の様な物が宙に浮いてその中に俺は手をいれる。
これは異世界物のラノベに良く出てくるアイテムボックスと同じ感覚と捉えて貰ってもいい空間で、そこから俺は、何の変哲もない極々普通の剣を取り出した。
「はぁ。 冥王さまぁ〜」
「なんだ? その……。 俺が残念そうな感じは」
「――――まさに、残念」
「え? ……この剣がか?」
ペルセポネは、剣を取った俺をみて頭を抱え溜息を漏らす。
俺は、冥界冥府でやっていた当たり前の事をしたまでなんだが、それがダメらしい。
「その剣なんて、どうでもいいんだけど。 それの取り方がダメ!」
「なんでだ?」
「アイテムボックス〜な感じで、取り出したかも知れないけど、この世界ではアイテムボックスとかの空間収容能力スキルが有るの転移転生者ぐらいか、この世界の人は極小数ですよ」
「――――えっ? この世界の、アイテムボックスと言うスキル……無いのか?」
「さっき言った通り、ほぼ極小数よりも皆無」
異世界物に於けるアイテムボックスのスキルは、転移転生者にとって最高のスキルだと思っていた。でも、ペルセポネの表情を見てこの世界のアイテムボックス等のスキル保持者は、扱いが悪いのかも。
ペルセポネは、背中いや腰に手を回すと、そこには小さなポーチがありその中からポーチよりも大きい瓶を取り出した。
「これ、凄いでしょ?」
「おい、なんでこれが入る? その小さいやつに?」
「これ、マジックバック。 アイテムボックスのスキルより入る数や重量の制限あって劣るけどこの世界の人族は、これ使ってますよ」
そういう事は、あれだ、アイテムボックスのスキル持っててもそれを、羨ましいと思うのは極小数で、アイテムボックスのスキル自慢をこの世界でしても余り意味無いって事だな。
「だから、冥王さまも街に着いたら初めにバックを買いに行きましょ」
「そうだな……」
俺は少し残念な気分になり鞘を左腰に着け剣を入れたら、ペルセポネの言葉に驚く。
「バックなんてマジックバックじゃ無くても良いんですけどね。 だって取り出す時にバックから取ったぞってすれば、誰しもマジックバックね〜ってなるからですよ」
「……」
「マジックバックのデザイン悪いし、ほら私達の人間界のバックの方が可愛いし」
「ペルセポネ?」
「なんですか?」
「お前、この世界――――俺が知る前から来ているだろ?」
ペルセポネは、キョトンとした顔をすると俺の問いを左から右へ受け流す。
「……」
「おい?」
無言のまま、スタスタと前に進むペルセポネを追いかけるかのように着いていく俺だが、何度も何度もこの世界に来ているかと聞いていた。
だが、聞こえない振りをしているペルセポネの歩みは、少しだけ速い。
平原を抜けたのか、草木が多くなり次第に森の側を歩いていた。
「なぁ、森の横を通るのが街道なのか?」
「道きちんとなっているから、そうじゃないですか。 私達の人間界でもあるじゃないですか!」
「でも、あれは森を伐採して作った道とかだろ?」
「ここ異世界ですからね。 そんな事気にしてたらダメですよ。 魔法を見て『なんで出来るんだ!』とか森から魔物が出てきて『急に襲ってきたぞ』なんて言ってたら疲れますよ」
「そりゃそうだけど……。 って魔物出るのか?」
「えーっ!? 冥王さま。 異世界ですよ、異世界。 ラノベ読んでたら魔物いるって可能性あるじゃないですか!」
また、ガックリな顔をして俺を見るペルセポネは、少し小さな溜息を吐く。
だが、俺はそれを気にもせずペルセポネの言葉に魔法や魔物と言った言葉が並んで再び、心が踊る。
「ペルセポネ。 なんでこの世界詳しい?」
「ヘカテーの調査で。 資料に載ってたじゃないですか! もぅ、私だって初めてこの世界に来たんですからっ」
先を進むペルセポネの言葉は、とても軽く薄っぺらく感じる。
だが、俺はその言葉でペルセポネは、何度もこの世界に来ているだろうと思い、そのまま街道を進んでいた。
それにしても、この森は、人の行き交いを妨げる様としているのか木々が入り乱れてるし、枝葉の多さで陽射しが通ってなさそうな程奥は暗い。
そして、魔物がいるとなると、かなり危険度が高いと感じるし何か怪しげなエネルギー、邪気というか、そんな気配と言った方がいいが、そういうのが伝わってくる。
「なぁ、この森。 怪しいな」
「この森。 あれですよ。 異世界物で良くある魔の森とか迷いの森とかの類い」
「あぁ、偶に見掛けるというか、読むなぁ」
「この森、【異界の樹海】と言う名称で、森を越えると魔族の国だって」
「へぇー。 ペルセポネは詳しいな」
そんな事、ヘカテーから送られてきた資料には載ってなかった筈。
詳しい地理や地名もそんなに無かった。
最近の転移者がいる事や、転移転生者がおよそ何人いるかとかの数字だったのを覚えている。
「まぁね。 このペルセポネ、色々調べ――――」
ペルセポネは、声も出ない程、何かに驚く。
何気にペルセポネの裏をかいていた筈の俺自身、その事さえも気づくのが遅く、騙されたと思ったのか、ペルセポネは睨んでムクれていた。
「――――ヘカテーからの報告。 ……で すよ」
ペルセポネは、ムクれたまま、ひたすら先を進む。
俺自身、正直になればいいのに……。ってそうペルセポネを見て着いていった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます