異世界の人族の神
第1話
瞼をゆっくり開け、目に入ってくるのは広い平原に青い空。
そして、ゆっくりと流れる雲に、揺らめく草木。
先程までいた建物が並ぶ都市である冥界とは違い、自然のみ。
鼻をつまむ程では無いが、変な臭いが漂ってくる。
――――正に、異世界に来たんだな。空気の匂いなど環境が違うのは当たり前か。
そう思う俺は、喜びに少し口が緩む。
沢山のラノベを読み心踊った感情が、自分自身で体験……経験できる。
だからこそ、口が緩むのは仕方がないけど、本来の目的を忘れてはいけない。
異世界転移や転生を止めされる為、行っている者が入れば止めるようさせる。
生存している転移者を連れ戻す。
転生者や死者の魂を戻す。
――――この世界にも、神がいる。だがヘカテーでも会えないとなると……。初めは会う為の方法を探さないとな。
そう、考えていながらも正直、異世界ファンタジーが実体験できると、心の中で喜んでいる俺の前に、ゆっくりと俺に向かって歩いて来る一人の女が視界に入る。
金色の長い髪を靡かせながら、唇は真っ赤で、胸元から臍が大きく開いた白いワンピースにベルト多い金色のサンバシューズ。
――――あれは……?
「あら、いたわね」
――――空気の匂いが強く……。くっ、くさっ……。
俺は、この女から鼻が曲がるほどの刺激臭が発せられ、それに耐える事に意識して返答出来なかった。
「次元の歪み、最近起きるの多いのよね。 勇者召喚の影響なのはわかってるんだけどね。 頻繁に起こり過ぎて」
聞いてもいない事を言ってきたが、目の前に元凶が、しかも簡単に見つかる、会えるなんてな。
――――だが、臭い……。
でも、ここで解決と言いたいが、そうしたら俺の楽しみが。
だけど、早めに解決しなくては、でも臭すぎて……。
「悪いわね。こちらから一方的に話しちゃって。
……そうよね、突然こんな所に出てきてビックリしてるわよね。そうそう、ようこそ私の世界へ」
ポンっと両手を併せて笑顔で答える女。
――――この話これで、こいつがこの世界の神で当たりだ。 どうするか? その前にこの臭いをどうするか?
「私は人族の神エウラロノース。あなたは私の下僕、人族を守る為にこの世界にやってきたのよ」
俺は、咳をする振りをして鼻と口を塞ぎ、言葉を返す。
「人族を?」
「そうよ、どれだけ人族が魔族に……。 酷い目にあってきたか」
「なら、神である貴女が助ければ?」
「それは、出来ないわ。 私が出れば魔族の神も出てきてこの世界が滅ぶのよ」
「それで勇者か……」
「そう。勇者を召喚させて、その勇者に私の大切な人族を、そしてこの世界を守って貰っているのよ」
俺の返答に呆れた素振りをして返答する人族の神エウラロノースだが、その後自慢げな眼差しを俺に向けてくる。
「でも、あなた。 勇者召喚の影響下の中での転移なのに……」
「……」
「……」
「 何にもないじゃない……。 スキル、何にも!!」
「スキル?」
「ええ、人族を守る為の能力よ。 この世界に連れてきて何にもやらないなんて……ね。 あんまりにも酷じゃない? しかも勇者として使命を果たして貰う為に召喚させているのだから、何か特殊な能力をあげてるわ。 まぁ、本当は、転移中の肉体や魂をこっちの世界に合せる時に付けてるのよ」
エウラロノースは、転移の仕組みを誇らしげに胸を張って俺を見下すような目をしている。
口を塞いで喋る俺だが、それを違和感なく話すこの女エウラロノースは、話を続ける。
――――この臭い、こいつの体臭なのか?香水とかか? 未だに口から手を外してない事に気付かないのか?
「この世界に来たのだから、貴方の力で人族を守って、勇者に力添えして。 これ私から……」
エウラロノースの手を俺に向け、妙な光が俺を纏う。
だが、弾けるように光が消えると、その光景に目を大きく開いたエウラロノースの口は開いたままだ。
「えっ? あれ? このスキルじゃダメなの?」
――――何でも良いから早く離れたいんだけど……。
「まぁ、顔が良い男前だから、――――こっちの方が良いかも」
ヘカテーの報告で俺の身体は、この世界の人間と同じ体の構造を真似て来ている。
そのスキルと言うのは受け取れるはずだが。
「まぁ、良いわ。 これで……」
俺の身体が、光に包まれ直ぐに消える。
最初にスキルを与えようとした時より近づいていて、臭みが増している。
「こんないいスキル貰った貴方は、良い男なんだから必ず勇者の助けになるのよ。 勇者は、この付近の城か街にいると思うわ。 人族を守ってあの魔族をぶっ潰してね」
そう言うと、エウラロノースは大きく一泊手を打つと俺の目の前から消える。
最後の言葉でエウラロノースは、魔族を潰したいと言う本音が漏れていたが、それよりもヤツが消えた瞬間、あの臭みが少し弱まった。
「はぁ、未だ臭いがぁ。 ヤツがココにいる時よりマシか……。 くっ、鼻に付きやがった!!」
臭いが薄まっても鼻にあの臭いが付いた俺は、異世界に着いてこの臭いと共に旅をするのかと思うと少し萎えていた。
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