冥王さま、異世界に憧れる。~現地の神からいきなり貰った勇者スキルが全く使えない冥王とその妻は破壊神!?~

なまけものたろう

プロローグ

 ここは冥府。

 各宗教、各国に存在する冥界を束ねる所であって、その中心。

 そこにある一つの大きな建物。

 まるで宮殿のような大きくそして、近代的な建物をしたその一部屋に冥界を治める者が集まっていた。

 大きな部屋には円卓があり、それを囲むように数名の人影があった。

 その一つ、上座に立つ男性。

 目は大きいが睨むように尖り、美形の顔立ちに細身で黒髪。

全身黒一色の服装。

 その男性が円卓を囲み座っている者達に向け口を開く。


「俺が、冥王だ……」

「んな事、わかっている。 いつも集まりの時それ、言うんだな」

「それ、始まりの合図になっているわね」

「まぁ、それないとこの集まり、しっくり来ないけどな」


 円卓を囲む者が、口々に話をする。

 今立っている冥王から見てから反時計回りに

ジャッカルの顔をし兎のような長い耳をした茶褐色の肌をしたアヌビス。

 上半身は極々普通の女性だが、下半身は緑色に腐敗していてそんな事気にもせず脚を組むヘル。

 ひょろっとした長身の男、とんがり帽子を被り目の周りを黒くしているオリシス。

 紫色の長髪で艶やかな衣装を纏い、艶美の風情を持った女性エレシュキガル。

 黒い長髪を後頭部で蝶々を形作る様に束ねて、白絹の羽衣を纏ったイザナミ。

 赤く強面に太い眉をして王と書いた帽子に着物をきた閻魔。

 大きな蝙蝠の羽根を生やし悪魔と言えるような姿のアーリマン。

 黒髪で冷たい目付きをし、何故か黒い着物を着ているヘカテー。

 冥王の後ろには、黄白色の長髪にツリ目の凛とした顔立ちに細身の冥王の妻であるペルセポネが座っていた。


「皆、よく集まってくれた。 今日の議題は連絡した通りだが」

「人の魂が無くなっている事だろ?」

「そんな事あるし」

「だいたい何で今頃なのだ?」

「今回は、魂が融合してしまったり、人間界に漂っていたりとかでなく。 完全にこの世界から消えているという事だ」


 冥王の言葉に、不満を漏らしていた皆が疑問を持った顔になる。

 だが、直ぐに静まり返える。

 すると冥王は、そのまま話を続ける。


「ここ最近、短期間にしかも数多くの魂だけか、肉体毎消え去っている」

「有り得んだろ。 そんな事」

「誘拐? そんな事無いし」


 アヌビスやオリシス、ヘルと続きエレシュキガル、イザナミもこの話で眉間に皺を寄せる。

 閻魔やアーリマンも同じかもしれんが、常に皺を寄せている為わからないけど。

 冥王は、少し手を上げヘカテーの目の前に半透明の四角形が現れそれを触り操作している。


「みなさん、今送りました。 スクリーンを見てください」


 円卓を囲む全ての者の前に、ヘカテーと同じ目の前に現れた四角形と言われるスクリーンが現れる。


「何じゃ」


 ヘカテーや冥王以外その窓に映った内容に目を通すと、みな補足した難い顔をし始める。

「魂か現存の人間が異世界に転移している?」

「異世界?」

「そうです。 異世界に」


 ヘルが、呟くと直ぐに冥王の返答に、座る者再び聞き返してくる。


「というけど、異世界ってなんだ?」

「初めて聞くぞ」

「ここ最近わかったんだけどな。 まぁ、わかりやすいと言えば……。 これ読めばだ」

「本?」


 机の上にドサッと冥王が出してきた数冊の本。

 その本の表紙には、可愛らしい人物のイラストや、少し負を感じさせる物まである。


「これは、そう、人間界の本でライトノベル、略してラノベと言われる物だ。 これらのラノベには異世界って単語が多く登場するんだ」

「ライトノベル?」

「ああ、そうだ。 これらの事だ。 どうした?」

「これ、日本語だよな……」

「表紙にも、異世界転生……って書いてあるな」


 皆、冥王の出した本を手に取り目を通している。


「私も聞いた事しか無いが、今流行っているのだろう異世界に行ってどうたら、という物語だな」

「うむ、ワシも分からんが、そう言う話は聞く」


 イザナミと閻魔が、次々とページを捲っている。


「この話の良くある展開は、不慮の事故や病気とかで全く違う世界に生まれ変わったり肉体のまま、転移してしまう冒険の話だ」

「王よ。 なぜこの本なのだ?」

「この本、ラノベを見せたのは……。 今回の問題の原因は、異世界転生が行われていると分かったからだ」

「まさかぁ〜」


 冥王の言葉に信憑性が無く、呆気に囚われ背もたれに寄りかかる数名。

 そしてまだ、まじまじと読んでいる者。

 それぞれ分かれていた。

 冥王の左隣に座るヘカテーの声を上げる。


「つい先日、調査に行ってきたので報告の結果を、皆様に送りました資料の中にあります」

「資料の中?」

「鈴木ゆかり……」

「その日本人、鈴木ゆかりが数週間前に突如居なくなり、異世界先に転移していた事が分かりました」

「私、この人間知ってる……」

「動画でアップされてたな。 それもニュースになってたぞ」

「ホームから突き落とされ電車に轢かれた……」

「だけど、肉一片、血も無く。 所持品され見つからない」

「おおそれか! それなら、オレも知ってるぞ」

「お前ら、どんだけ人間界に入り浸っているんだ」

「そういう、アーリマンこそ頷いてたでは無いか!お主もユーチーイブ見ているのであろう」

「ムムッ」


 世界的に有名な動画投稿アプリのユーチーイブ。

 ここにいる全員見ているのは当たり前と言う顔をしている。


「皆様の言う通り、その鈴木ゆかり当人はその瞬間、異世界に転移してました。 突き落とされる前と変わらずの姿で異世界に生存しています」

「で、その鈴木ゆかりは、間違いなく本人か?」

「間違いなく。 本人と断言出来ます。 若干の誤差ですが魂と肉体が向こうの世界に書き変わっていましたが」

「まぁ、コレ見ちゃぁ本人で間違えないわ。 で、王よ。どうするん?」

「向こうの神と話でもして止めてもらうのか?」

「私が、向こうの神と話が出来るか試みたんですが……」

「ヘカテー!?」

「ええ、会えませんでした。 向こうの世界には神が三柱居るみたいで」

「向こうの数えも柱か? まぁどうするんだ、王よ?」

「向こうの神がどう出るか分からんが、会うには何かしらあるのだろう。 ココは俺自ら、向こうの世界に行ってみて面会を求めてみるとするか」

「違う世界なのだ。 もし、戦とかなったら我々の力が通じんかもしれん」

「戦争とか起こす気は無いが……。 ヘカテーの報告では、向こうでも通常に力使えるから大丈夫だそうだ」

「ヘカテー!本当か?」


 冥王とペルセポネ以外の全員が、疑いの眼差しでヘカテーをみる。


「ええ、私、普通に神力使ってみたけど違和感が無かったし、体に異変なども無かったです。 人間界でいる時と変わらないですね」

「神力使えるなら、誰が行っても……」

「でも、行っても向こうの神に会えないし、向こうのから出向いても来ないんじゃぁね」

「向こうの神が、アホなのかもしれんぞ」

「神がアホって有り得るかもな。 神の力自体感じない鈍感なのかもな」


 アヌビスやオリシス、エレシュキガル達が、談笑しながらヘカテーが送った報告書を見ていた。

 すると、冥王が徐ろに立ち。


「だからだ。ヘカテーが行っても向こうが出てこないんだ。なら、俺が行ってこようと思う」

「ハッ?」

「王よ、突然何を言うのだ?」

「行こうって? 向こうで何かあったらどおするんだ?」

「そ、そうよ。 何かあったらじゃ」


 すると、冥王が少しだけ息を吐き、手を軽く出し一同の言葉を止める。


「俺が行くしかない。 俺が行っても向こうが出てこないなら強硬手段にでる。 後、俺以外皆それぞれの冥界を守るべき役割を持つ者だ」

「王にもこの冥府を守るという……」

「それは、ヘカテーにやって貰う。 一時的だが」

「だ、だけど……」

「オリシス。 俺たちはそれぞれ業務があるんだ」

「そうだが……」

「オリシスっ。 みんな分かってるんだよ。 言いたい事。だけど私たち誰かが行っても、ヘカテーと同じって事」

「あぁ」

「ヘルの言う通りじゃ。 王が行けば向こうが動くかもしれんじゃ」


 オリシスも納得したようで、部屋が一度静まるが直ぐにイザナミが、言いにくそうにしながら冥王の後ろをチラチラ見る。

 それに気付いたのかエレシュキガルが、冥王の後ろに座るペルセポネを見て。


「ペルセポネは、どうするの?」

「もちろん、置いていく……」


 冥王の一言を聞いた一同は、目を丸くする。

 驚いた顔をしている一同を見た冥王は、疑念を抱く。


「どうした? ――――今回は、危険と遭遇するかもしれない。ペルセポネを、危険な目に合わせる訳には行かない」

「だが、奥方には……」

「そ、そうだ……」


 今まで黙っていたペルセポネは、少し目を細め冥王を越して円卓を囲む者達を睨む。

 皆、口を閉ざし下を向いた時。


 ピコーン。


 冥王とペルセポネ、ヘカテー以外皆スクリーンを覗き込んでいる。


「ホッ」

「ウム」

「……」

「これなら安心じゃ」


 冥王は、何を見ているのかという気がかりの顔をしているが、その後ろにいるペルセポネと円卓には、安堵の顔する者、胸を撫で下ろす者がいる。


「閻魔よ。 何が安心なんだ?」

「いやいや、王が奥方を大切にされている計らいが」


 閻魔の饒舌な返答に周りの者も頷いている。

 ペルセポネも、少し頷く。

 それを見て冥王の顔が綻び。


「――――皆、そういうことだ。 俺だけだが、その異世界に行ってくるぞ」


 冥王の言葉でこの会議は終わる。


 安心して各冥界を守る者達は、冥王に挨拶をしこの部屋を後を去っていく。

 部屋の外から高い声が部屋に響く。


「――――タピオカいくー?」

「行く。 ここ、出来てたん?」

「そう、この前SNS上がってた」


 女性陣は、部屋を出た途端はしゃいでいて、後ろにいたペルセポネもそれを聞いて直ぐに部屋を出ていく。

 それを見て冥王は、少し苦笑いをする。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る