第23話 スポークって一本くらい足りなくても大丈夫じゃないか?
アキラが缶コーヒーを買ってきたころには、ルリはローマを分解していた。まあ、分解と言っても後輪を外した段階。修理はこれからだ。
アキラが奢ってくれた缶コーヒーを持って、店の端に行く。そこにあったのは待合室代わりの丸テーブルと簡素な椅子。そこで症状を説明するつもりだ。相変わらず、カタログやチラシがたくさん載ったテーブルである。
「まず、タイヤですが、幸いにもパンクはしていません。ゴムタイヤにも、チューブにもダメージはなさそうですね。実際、空気漏れなども検出されませんでした」
「よかった……っていうか、何かが刺さったわけじゃないんだからさ。パンクはしないんじゃないか?」
アキラにとってパンクと言えば、やっぱり釘や画鋲が刺さるイメージがある。しかし、ルリは首を横に振った。
「いいえ。何も刺さらなくてもパンクすることはありますよ。アキラ様が前に乗っていたママチャリも、特に何も刺さっていませんでしたから」
「あ、そう言えば……」
アキラが思い出す。あの時はいちいち確認している時間もなかったし、すぐにルリが買い替えを勧めたので、原因が分からなかったが……
「あの時のパンクの原因は、スネークバイトでしたね」
「スネークバイト?」
「はい。別名をリム打ちパンク。タイヤの気圧が低かったり、段差に高速で乗り上げたりすると発生します。だからタイヤには、適正な空気圧を入れておく必要があるのですね」
ルリは店の奥から適当な紙を取り出し、簡単な図を描く。以前のステータスオープンでも思ったが、ルリはこういう書き物が好きなのだろうか?
「例えば、タイヤが衝撃や体重で潰れたとします。すると、中のチューブが潰れますよね。そのせいで、金属製のリムと、アスファルトの地面がぶつかるのです。ああ、地面は石でも砂でも同じだと思ってください」
「お、おう。それで?」
「こんな感じで潰れると、リムとアスファルトの間にチューブが挟まります。そして、チューブが切断されるのですね。リムが包丁で、アスファルトがまな板。そう考えると分かりやすいでしょう?」
即席で図に書いた内容は、アキラも理解しやすかった。こうやって以前乗っていたママチャリをダメにしたのか……と、いまさら理解する。もっと空気をちゃんと入れていたら、あんなことにはならなかった。
もっとも、その場合はこの店に立ち寄ることもなく、ルリと仲良くなったり、クロスバイクと出会ったりもしなかっただろう。過去とは振り返ると、どこかでうまく繋がっているものである。
「ちなみに、そのスネークバイトっていうパンクを避ける方法は無いのか?」
今回は大丈夫だったが、次回も無事で済むとは限らない。念のためにも聞いておいた方が良いだろう。
「そうですね……チューブがあるからパンクするんです。いっそチューブをなくすのはどうでしょう?」
とってもひねくれた答えである。
「いや、俺は真面目に聞いているんだが……あー、もしかして、真面目に答えてた?」
「はい。冗談を言ったつもりはありません」
いつでも真顔だから分かりにくい。ユイをからかっていた時も、アキラを惑わせていた時も、大差ない表情だからだ。発達障害でも持っているんじゃないだろうか。
「それで、そのチューブのないタイヤって何?」
「そうですね。大きく分けて3種類あります。一つがノーパンクタイヤ。一つがチューブラータイヤ。そして最後の一つがチューブレスレディタイヤですね」
「結構あるんだな。選択肢」
「まあ、今回の修理には関係しない話ですが、せっかくですので説明しましょうか?」
「頼む」
「まずは、ノーパンクタイヤですね。空気の代わりにウレタンが入っているタイヤで、ママチャリなどによく使われています。スポーツバイク用の規格も、少数ながら存在しますね」
「ああ、なるほど。これならパンクしないな。なんかの宣伝で見たことがある」
そもそも、空気さえ入っていないなら抜けることもない。この画期的なタイヤは、パンクしない事だけに特化していると言える。
「ただ、表面がすり減ってくるのは普通のタイヤと同じです。やがて溝がなくなり、ゴムが削れて、土台となる布地がむき出しになります」
「寿命はあるって事か。でも、交換すればまた使えるんだろう?」
「はい。ただ、相当手間のかかる交換になりますね。普通のタイヤなら、新しいものをはめ込んで空気を充填するだけ。普通の空気入れで交換できます。一方ノーパンクタイヤの場合は、ウレタン注入用の特殊機材を使って注入し、均一に入れる必要があります」
「あ、そっか。盲点だった」
「まあ、このノーパンクタイヤはヘビーユーザー向けではなく、たまにしか自転車に乗らない人向けのような気がします。あとは、乗り心地が悪い事も問題点ですね。天候に合わせて気圧を変えることも出来ません」
ルリのようなヘビーユーザーは、天気や路面温度に合わせて気圧を調整する場合がある。
例えば直射日光でアスファルトが焼けていた場合は、タイヤ内部の空気が膨張することを視野に入れて、わざと空気を抜く。また、雨で路面が濡れている場合は、グリップ力を上げるために空気を抜く。それによってタイヤを潰し、表面積を稼ぐのだ。
そういった調整ができるのは、やはり空気が入っていてこそ。ウレタンでは真似できない。まあ、メーカーもヘビーユーザー向けに作っているわけではないので、織り込み済みの設計だろう。
「次に、チューブラータイヤですね。これはタイヤとチューブが一体化したものです。簡単に話すと、チューブの表面に
「そんなのもあるのか」
「はい。普通のタイヤは、中にチューブが入っていますよね。仮にタイヤを靴、チューブを靴下だと例えるなら、チューブラーは地下足袋です。当然、チューブ自体がタイヤと同じ強度を持ちますので、そう簡単にはパンクしません」
もちろん、何かが刺さればアウトだが、スネークバイトの危険は少なくなる。全くないわけではない。
「そのチューブラーってやつは、俺のローマにも取り付けられるのか?」
アキラはちょっと興味を惹かれた。値段次第では購入しようと思うくらいだ。
「はい。リムセメントと呼ばれる接着剤を用います。なので、剥がすときが一苦労ですね。こちらもタイヤがすり減った時の交換は、非常に面倒な作業になってしまいます。コストは数倍ですね」
「マジか?」
「しかも、パッチで修理する『パンク貼り』と言われる修理ができません。したがって、一度パンクしたら二度と使えないと思ってください。画鋲なんかを踏んだら捨てるしかないので『使い捨てタイヤ』と揶揄されることもあります」
もともと、競技で結果を出すために開発されたレース用タイヤだ。あまり街中での運用を想定されていないし、修理という概念の元に設計されていない。極端な話が、一試合だけ持てばいいという考えのタイヤだ。
「最後に、チューブレスレディです。これはタイヤを直接リムと接着固定して、その中に空気を入れる方式ですね。普通のタイヤと違って、中にチューブを仕込みません。そのため、軽くてダイレクトな走り心地を楽しめます」
「でも、交換が面倒なんだろ?」
「よく分かりましたね。これに至っては空気を全く逃がさないように接着するので、取り付けも取り外しも専門的になります。乗り心地だけで言えば最高なので、多くのMTBライダーから愛好されています。コストは数倍かかりますが」
「やっぱりお高いんじゃないか」
構造としては、自動車と似たような形になる。こちらもレースを想定したタイヤなので、すり減ったらどうするかなど考えていない。
「まとめると、クリンチャータイヤ(普通のチューブ入りタイヤ)が、
走り心地:3
対スネークバイト性:1
導入コスト:およそ2000円~
ノーパンクタイヤが
走り心地:1
対スネークバイト性:5
導入コスト:およそ4000円~
チューブラーが
走り心地:4
対スネークバイト性:3
導入コスト:およそ8000円~
チューブレスレディが
走り心地:4
対スネークバイト性:3
導入コスト:およそ8000円~
そして表面が削れるまでの寿命は大差ないですね。結局は溝がなくなったら交換です」
「ちなみに、ルリは?」
「基本的にクリンチャー派ですね。山などで棘付きの枝を踏んだりすることはよくあるので、応急で修理が出来なければ役に立ちません」
「へえ。ルリでも避けられないことがあるのか」
「まあ、隣を自動車に幅寄せされていなければ避けられますよ。もっとも、自動車だって自転車一台を追い抜くのに、これほど手間取るとは思っていないでしょうけどね」
自転車を遅い乗り物だと思って追い抜きにかかり、意外と速いことに気付くドライバーは多いだろう。
「そういう走りをしないレーサーであれば、チューブラーやチューブレスレディも選択肢としてアリだと思います。実際、私もレースイベント用にチューブレスレディを持っていますし」
「え?マジで」
「はい。アキラ様にも以前お見せしましたよね?あのサイクリングロードに行った日です」
まったく気づかなかった。そもそも外見上の違いが全然ない。
「あの時は、走り慣れた道でしたからね。落下物を踏むこともないだろうと思って、チューブレスレディを使ってみました。やっぱり走り心地は良いですね」
「そうなのか。俺のローマも、チューブレスレディに出来るかな?」
「お値段が高くなりますよ。」
「あ、やっぱり」
まだ大学生という身分であるからこそ、使える金額は限られてくる。もっとも、大人になってくると金銭面でゆとりができる反面、時間と体力に制限が出てくるのだ。これはもうどうしようもないか。
「さて、本題です。壊れているのはホイールの方。それもスポークですね」
合計で32本もあるスポークのうち、2本にルリが指をかける。そのままスッとつまむと、片方のスポークが動いた。
「このように、リムの近辺で折れてしまっています」
「本当だ。でも、一本だけなら大丈夫じゃないか?あと31本は無事なんだろう?」
「いいえ。たしかに折れたのは1本だけですが、問題は全体のバランスです」
ルリは、そのホイールを台座に固定した。振れ取り台と呼ばれる機械だ。車軸をしっかりと固定して、ホイールを回転させる。
「分かりますか?一部が歪んでいるので、綺麗に回らないんです」
本来なら、中央でまっすぐ回転していなければならないはずのタイヤ。それが左右に揺らぐ。
「本当だ。でも、少しくらいなら大丈夫じゃないか?」
「今は少しですが、これから先、だんだん大きなブレになってきます。それが車体の重量バランスやコントロール性を損ない、フレームの歪みやタイヤの過度な消耗に繋がります」
ここまで数キロ走ってきただけで、もうこの歪み具合なのだ。これから毎日乗っていたら、どの程度まで歪むのかは想像に難くない。
「ちなみに、自転車のホイールが歪んだ時、スポークの張力で押し戻すことができます。
と言って、ルリは先ほどの一本を手に取る。
「……この状態ですから、締めようがないのですけどね。そうなると、左右のバランスが崩れます。現在、32本あるうちの1本が折れました。右側が15本。左側が16本。これだと、左側の引っ張る力が強いので、どんどん左に曲がっていきます」
逆に言えば、上手く6本か8本抜くことでバランスを取る手もある。が、メーカーは推奨しないし、店舗でもサービスとしては提供していない。ルリだって不安があるし、やめた方が無難だろう。
「……なので、この一本だけ買い直すことをお勧めします。手数料は無料で構いません。部品代に至っても、まあ、私のポケットマネーから出しますよ」
「わ、悪いな」
「いえ、スポークなんて安いものですし、私は未熟なので、本当なら修理費を取っていい立場じゃありませんから。それに……コーヒーも、ご馳走になりましたし……」
たかが130円のコーヒーなのだが。
「ちなみに、正規の値段でスポークを買うと、1本で何円なんだ?」
「そこは相場がありませんね。そもそもバラ売りを前提としないので、メーカー希望小売価格が存在しないんです。だから、結構お店次第ですよ」
通常は、36本セットなどで販売されることが多い。そして……
「当店では、1本100円で販売しております。安いところだと、50円で売っている所もありましたね」
コーヒーのお礼としては、遠慮する必要がない値段だった。まあ、所詮はアルミニウムの棒である。アルミ缶と大差ない材料費で、アルミ缶以下の加工費ではあるのだろう。
「意外に安いな。ちなみに、工賃は?」
「当店だと、取り付け費用が1000円。振れ取りが2500円です。
「そっちがメインか」
「はい。高いですよね。合計で3500円。私の日当に匹敵します」
「お前の日当が安くないか?」
大学が終わった後、夕方から閉店までの4時間ほどの業務。場合によっては30分の休憩をはさむ。実働は3.5時間。時給は800円。土日は朝から入れるが、ルリの給料は思ったほど高くない。
それなのに、アキラが自転車を購入する費用を、半額負担してくれていたのだ。自分のアイローネを11速にしようと貯金していた分だったのに。
「それでは、早速修理していくわけですが……」
ルリはエプロンの上から、自分の胸を触る。
「んっ?――あ、あれ?」
「どうした?」
「いえ、あの……ニップル回しが無くなってまして……落としましたか?でも……」
ニップル回し。聞きなれない単語に、アキラは首をかしげる。
「どんな奴だ?」
「え、えっと、ニップルを摘まんで、キュッ……ってするやつです」
よほど慌てているのか、ルリの説明にいつもの平然さが無い。
(はて、ニップル。確か……)
ニップル【nipple】
1.乳頭。哺乳瓶の乳首
コトバンクから引用。
それを回転(ローテーション)させるとなると、つまりあれか。
「それを、付けてたのか?」
「はい。たしかにここに……でも、落としたらさすがに気づくと思うのですが……」
右胸をしきりに触りながら、確認をしていくルリ。
いや、まあ、なんだろう。今探す必要があるものなのか?無いと落ち着かないのかもしれないが……いや、分からん。よりによって整備中に、しかも人前で堂々と探す理由はなんだ?
「ああ、思い出しました。自転車をジャッキアップする際に、邪魔になるからテーブルの上に……」
なんと、そう言ってルリが見たのは、アキラが何となく缶コーヒーを置いていたテーブルだった。
「アキラ様。それです。取ってください」
「え?ああ、おう」
アキラが慌てて、テーブルの上にピンクの球体を探す。しかし、そこには小さな灰皿みたいなものしかない。
いや、これは灰皿じゃないな。手のひらにすっぽり収まる小ささのそれは、真ん中に穴が開いている。穴は指が入る程度の大きさ。どう見ても灰皿として使えるものではない。
まさか、この金属の塊がニップル回し?そう思って手に取ってみると、ズシリと重い。見た目から察するに、中までぎっしり金属だ。
「こ、これか?」
アキラがおずおずと差し出すと、ルリは小さく頷いた。
「それです。よかった。いつもは、整備用エプロンの胸ポケットに入れているんです。これが無いと作業が出来ませんから」
それを手に取ったルリは、折れたスポークの付け根にニップル回しを噛ませる。
スポークとリムの間には、ちょっとしたネジがあった。ほとんどスポークの太さと変わらないそれは、一見してもネジだとは気づかないだろう。それを、ルリがゆっくりと捻っていく。
ニップル【nipple】
2.ねじのついた継ぎ管
コトバンクから引用。
そっとスポークを外し、新しいスポークをハブに入れる。スッと通しただけのそれは、宙ぶらりんの状態だった。
その先端にニップル――ねじのついた継ぎ管――を差し込み、リムと接合していく。ゆっくり、慎重に回してつなげた。
「さて、ここからが重要ですね」
台座の横についているハンドルを回す。するとリムの横に、針のようなものが接近した。どうやら目盛りの役割を果たすらしい。
その状態でホイールを回転させると、少しだけ、針の先端にリムが当たる。
「これを、常にギリギリ当たらない状態にしなくてはなりません。当たったタイミングで止めて、その場所が左に歪んでいる場合は、右から生えているスポークのニップルを締め込みます」
まるで楽器の調律のように、丁寧に締め込んでいく。その間も、アキラが手持ち無沙汰にならないように、ルリはずっと喋っていた。
ここから次の行間まで読み飛ばすことを推奨します。
「ちなみに、スポークの組み方には大きく分けて3種類の組み方があります。JIS組み、イタリアン組み、逆イタリアン組みの3つですね。マニアックなものだと逆JIS組みというのもありますが、非常に少ないです。
イタリアンは、進行方向に向いている方のスポークが内側。これによって加速時の負担に耐えられるようになります。代わりに、ブレーキ時の負担には弱いですね。多くのスポーツバイクがこの組み方を基準にしています。
逆イタリアンは、進行方向のスポークが内側。ブレーキを掛けるときの負担に耐えやすいです。なので、MTBのフロントホイールなどに使われることがあります。
JISは、進行方向のスポークが左側。つまり、左右非対称のデザインになります。これは単純に、組みやすいからやっているだけですね。安い自転車によく使われます。整備する方としては、仮に裏返しのまま作業しても問題ないので、やりやすいです。
逆JISは、最近では中国から流れてくるルックバイクなどに多いですね。元々JISが日本の規格なので、中国では逆の規格があるのでしょう。
あるいは、ブレーキディスクが左に付くため、そちらを逆イタリアン。そしてコグが付く側を正イタリアンで組んだ結果が逆JISなのでしょうか?仮にそうだとしたら、中国は日本より優れた技術を持って自転車を生産していることになりますね。
ああ、ちなみに、リムから見て隣り合っているスポークを、ハブまで辿ってみてください。その時、ハブ側でスポーク穴の間隔が何本空いているのかによって、強度と重量が変わります。数字が多いほど、強度も重量も上がりますね。
やはり、軽くて丈夫というわけにはいかないのでしょう。軽さを求めれば丈夫さが無くなり、丈夫さを求めれば軽さが無くなります。
間隔が2本開いているときの呼び方が、四本組(2クロス)です。4本開いているなら、六本組(3クロス)。6本開いているなら、八本組(4クロス)と呼びます。これらを総称して、タンジェント組みホイールと言いますね。
一方、まったく間隔の開かない組み方もあります。それがラジアル組み。タンジェント風に言うなら零本組(0クロス)と言ったところでしょうか。一番軽い代わりに、一番脆いです。
私のアイちゃ……アイローネは、フロントがラジアル。リアが24本スポークの3クロスですね。後輪駆動ですので、どうしても加速時に後輪に負担がかかります。それに耐えるために、後輪だけ強度を上げているようです。
フロントは強度をなげうって軽量化しているようで、ラジアルですね。でもフロントが壊れた経験は一度もないです。やはり、それだけリアに負担が集中するのでしょう。
フレームにも、そのコンセプトは表れていますね。ダイアモンドフレームはクロモリ合金で、フロントフォークはカーボンコンポジット。リアの負担がどれだけ大きいか、分かりませすね。自動車に例えるなら、ミッドシップでRRみたいな構造ですからね」
ここから読んでください。
ルリの話は全く頭に入って来ない程マニアックで、眠気を誘う。声は綺麗なので、聞いていて疲れることは無い。
(いつか俺も、この話を理解できるようになるのかな。いや、いつか俺が、誰かに同じ話を語る日が来たりして)
焦らず、無理せず、勉強していこう。そう思っている間に、作業が完了したらしい。ルリが振れ取り台からホイールを外し、持って立ち上がる。
「アキラ様。これで作業完了です」
いつもと同じ調子で、淡々と言う声。しかし、その口元や鼻には、黒いオイルが付いている。手なんか真っ黒だ。
ただ、それを指摘したら、またルリはディグリーザーで手を洗うんだろうな。
さっき聞いた、本来なら工賃だけで3500円という話。あれは決して高い値段ではないのだろう。そう思えた。
「さて、次はチェーンのさび落としと、ディレイラーの調整もしてしまいましょう。ここについては、アキラ様にもぜひ覚えておいてほしいところです。
走っている最中に違和感を感じたら、すぐに調整できる方法ですから」
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