第202話 グージェル戦① 脳筋

第202話 グージェル戦① 脳筋



「まいったなあ…」


 今のプラズマ弾は俺がやったのをそのままマルッとまねされた結果だ…

 ひょっとしてこいつってば受けた攻撃をそのままマネできたりするんだろうか?


 嫌な予感しかしないけど、これって確かめないとだめだよね…さて、どうするか…


「ちょいと、下手な攻撃をして真似されたら大変なことになるよ」


「わかってる」


 俺が危惧しているのはまさにそこだよね。

 天より降り注ぐものとか、地より沸き立つものとか真似されたらどんな被害が出るか、それどころかブラックホールとか真似されたらヘタすると世界が壊れる。


 あ、なんかくらっと来た。血の気が引くってこういう感覚か…

 本当にさーーーーっという音が聞こえた気がしたよ。


 こいつが真似するかどうか確かめないと攻撃もできない…

 さて、何をするか…


「まずは軽くファイアボールかなんかで?」


 火球を作り出してぶつけてみる。

 さて真似するか?


 と思っていたら案の定、六本の腕…というか長く伸びているのでもう触手だけど。それがうねうね動いて火球を撃ちだしてきた。

 それだけではなくて空気を吸い込んでのプラズマ球も時折撃ちだしてくる。


「ああ、これはマネというより攻撃方法を学習しているんだね…」


「悲観的な意見をありがとう」


 だがもう一つ確かめないといけないことがある。

 飛び上がるとうねくる触手から撃ちだされる火球を躱して上に回る。そこで剣を取り出して落下しながら切りかかる。

 剣には重力場をまとっているんだ。

 言ってみれば重力サーベル。


 バインというような弾力のある感触があって、剣が弾かれた。


「やっぱり重力系の防御力場だな…おっと」


 触手の一本が振り回されて向かってくる。

 さっきまではなかったのに今は重力場をまとっていた。


 今度はさっきの逆。

 俺の歪曲フィールドにぶつかって弾かれる。


「ああーーっ、やっぱりこいつは俺や〝あいつ〟と同じで空間属性だ…」


 弾かれたのを利用して俺はそのまま後方に流されつつその場を離脱。

 ガリガリッて音がしたけど…あっ、剣がぶつかったのか。


 しっかしこまったなあ…こいつが空間属性ってことは俺の攻撃をほとんどマネできるってことだぞ…

 まかり間違ってマイクロでラックホールとか使われたら本気で世界が壊れてしまう。


 一体どうすりゃいいのさ。

 攻撃手段がない。


「ここはお得意のどつき合いか?」


 ぶんなぐるだけなら真似されても問題ないだろう。

 うん、とりあえず殴ろうか。


 なんか自分がおバカキャラになった様な気がするが、仕方ないよね。


◇・◇・◇・◇


 俺はグージェルの攻撃を避けつつ肉弾戦の準備をする。

 平たく言うと龍気鱗。


 正確に魔力を編み上げ、魔力の鎧を構築していく。実体化するほどに密度を高めていく。


「あんた、わざわざそんなことして…」


 後ろでイアハートが心配しているけど、これも駄目となるとなかなか厳しいものがある。

 それにこれに関しては大丈夫じゃないかな? みたいな期待もあるのだ。


 案の定グージェルは俺の龍気鱗を真似して…そして失敗した。


「よし、うまくいった」


「こりゃどういうことだい?」


「これはもともと獣王国の王様が使っていたやつでさ、まず完全に自分の身体に合わせた術式の構築が必要なんだよね」


 そう、これは人間の形に完全にマッチしていて、しかも俺の身体にアジャストさせてあるのだ。

 グージェルが俺と同じぐらいの大きさでしかも人型なら行けたかもしれないが、形も大きさもぜんぜん違うから。

 グージェルが龍気鱗これを使おうとするなら最初から土台になる術式をくみ上げないといけないのさ。

 つまりマネしても意味がない。


 もしこれが昔の、魔力を無理やり固めて身にまとう形だと簡単にまねされたかも。

 今度獣王さんにはラーメンでもおごろうじゃないか。


「というわけで準備完了! イアハートは離れてくれ、しばらく全力戦闘だ」


「あいよ」


 俺はイアハートが返事しきる前に全速で突っ込んだ。


 うまいことにグージェルは龍気鱗を真似しようと何度も何度も試して魔力の無駄遣いをしてくれた。

 まあ、あまり魔力が減ったようには見えないけど、ないよりましでしょ。


「そーれ」


 何の技術も仕掛けもない全力パンチ。

 手に伝わる感触はゴムを殴ったような〝ドムッ〟という感じ。

 これあれだよ、バリア。


 最初はわずかに押されるような感触があり、距離が近づくと幾何数級的に力がかかってくる。


「こいつの防御力場は斥力場だね」


 幸いなことに俺の使っている歪曲フィールドは真似していない。

 できないのか必要ないと思っているのか…理由は不明。


「せーの」


 グージェルの頭の後ろ辺りに殴る蹴るの暴行。

 もちろん斥力場ではじかれるんだけど、その反発力は俺の歪曲フィールドで中和。

 襲い掛かる力を均一化フィールドで分解して押し込んでいく。


 距離が本当に近くなるとやっぱり押し負ける感じでそれ以上進めないけど、防ぐためにまた魔力をガンガン使ってくれる。


 こうやってこいつの魔力を削っていけばいつかは力尽きるんじゃないかな?

 たぶんそんな感じで行けると思う。


「おっと」


 どういうつもりか六本の触手がすごい勢いで突っ込んでくる。


「離脱!」


 もちろん避けます。

 そしたら一本目の腕がグージェル自信の頭に突っ込んでいった。そのままダメージが…とはいかなかったな。

 腕が斥力場ではなく重力サーベルのまねで重力場に包まれていたせいだろう。


 火花をつらして互いのフィールド削り合って最後はずれた。

 そんなのが二本目三本目と続き、四本目から俺の追撃に復帰した。


「これはあれだな。総身に知恵が回りかね…ってやつ」


 反応が鈍いのはありがたい。

 ここは畳みかける場面だ。

 いったん大回りして十分に力をためてーーーーっ、突貫!


 体当たり気味で突っ込んで見たら結構吹っ飛ばせた。

 斥力は双方にかかるけど、俺にかかる力は歪曲フィールドで中和できるから向こうが吹っ飛ぶだけだ。


 全力でキックもしてみた。

 これもおんなじ。結構吹っ飛ばせるな。

 しかもグージェルは反応できていない。


 単純作業だがこれしかできることがない。

 まねされなかったら大技とか、新案があるんだけど…


 そんな地道な作業を続けていたら、グージェルがいきなり逃げ出した。

 地面の中に。

 じたばたジタバタしながら潜っていく。


 何事?


「たぶんちからが減ってきたせいじゃろうよ」


 いつの間にかそばに戻ってきていたイアハートの推測では、攻撃で力を消耗したから力を回復するために逃げたんだろうということだった。


「しかし、もう、あいつに供給される力は…」


 ないはず。


「なに、地中には魔力溜りがあるじゃろうて、それを食えばまだ回復は出来るだろう」


「えーーーーっ」


 すっごい徒労感。

 でも放置もできない。


 とりあえず剣を抜いて近づいて滅多切り。できるだけ力を削るのだ。

 もちろん弾かれるけど…あれ?


「どうしたんだい? いきなり攻撃をやめてはなれたりして、調子でも悪いのかい?」


「いやー。うん、ちょっとおもしろいものを見ちゃったよ…」


 改めて下を見るとグージェルはもうほとんど地面に潜ってしまっている。

 ここで大規模な重力攻撃とかできないからこっちもいったん撤収だね。

 立て直しだ。


「それがいいね、私も面白いことに気が付いたよ」


「よし、仕切り直しだ!」

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