第193話 龍脈

第193話 龍脈



 前後左右、そして上下に揺れる感覚。

 波に翻弄される感覚に似ている。

 いろいろな方向からそれが押し寄せてくる。


 よく見れば地面や建物は揺れていない。

 この波動のせいで揺れているような錯覚を起こしただけだ。


 周囲で見ていた獣人たちも平衡感覚を失って尻もちをついたり手をついたり。


 獣王さんはちょっとふらつきながらも耐えている。

 というか魔力の鎧が波に対抗しているようだ。しきれていないけど。


 ドラちゃんズは魔力を開放してやはり波を打ち消している。

 セーメさんたちもへたり込んで立てないである。ネムは…立っているね。


「おっととと。なにこれ? なに?」


「あうー、ぐにゃぐにゃ」


 ラウニーは姿勢を低くして手をついて耐えている。こちらも影響は少なそうだな。


 俺はと言えば影響を受けていない。

 見えない力の波が押し寄せているのは見えているが、龍気鱗に触れると波の方が砕けて崩壊していく。


 俺はネムの隣に移動して家族を保護する。


「と言っても物理的な被害はないかな…」


 力の波は建物のような無機物はすべて透過しているようですべて無視。

 影響を受けているのは生き物に限定されるようだ。つまり魔力を持っている物か。


 そしてそれは唐突に終わった。


「ううっきもちわるい…」

「ずいぶん長く揺れていたような…」


 いや、実際は三十秒ぐらいだ。

 そしてものすごく遠くからだ。


「何だったんだ…いまのは…」


「ひどく遠くから、この方角から何かの力が押し寄せたみたいだね。

 建物なんかには被害はないと思うけど、人間は例外なく揺さぶられたと思う。

 年寄りや子供は心配だからお遊びはここまでだ。

 すぐに被害の確認に動いた方がいい」


「むっ!」


 困惑していた獣王さんの顔が一瞬で引き締まった。

 そして兵士たちに活を入れ、町の確認を急がせる。

 本当にけつを蹴り飛ばしている。


 さて、俺たちもこうしてはいられないな。確認しなくちゃいけない場所がいくらでもある。


 俺たちはセーメさんに帰還する旨を告げる。なかなか楽しいお祭りだったが、最後まで楽しくとは行かなかったみたいだ。

 だがセーメさんも楽しかったと返してくれた、それと治療に関する礼も言われた。

 来た甲斐はあっただろう。


 ネムやラウニーに帰る準備を支持して、その間に周辺を俯瞰する。

 町に被害が全くない。とはいかなかったようだ。

 直接の被害はやっぱり人間…いや、いきものばかり。


 ひっくり返った拍子にケガをした人とか、お年寄りが心臓マヒを起こしたりとか、あとは騎獣がパニックになって大暴れして巻き込まれたけが人とかは出たみたいだ。

 気にはなるがこの国に対する責任よりも自分の家に対する責任が優先だからな。


 獣王さんともまた是非やろうと握手をして俺たちは帰路についた。


 ◇・◇・◇・◇


 帰路は当然空を選ぶ。

 車はあるが今は悠長に走っている場合ではない。


 なので黒曜に龍形態になってもらってネムとラウニーをその背に預け、俺はティファリーゼをいつものように抱え上げる。


「うううううっ」


 さすがに緊急事態なのが分かっているのか騒がずにいる。

 とはいっても目を閉じで丸くなってじっとしているんだから怖いのは相変わらずらしい。


 そして全力飛行。


 少しコースを変えてターリの上空を通過する。上空で町を確認。


 ここまでも自然環境の被害というものは全くなかった。一部森の奥で動物や魔物がパニックを起こしているようなところも見えたがそれも落ち着きつつある。

 あの波が消えたせいだ。


 町の方も物理的な被害はないように見受けられる。


 ただなんか所が火事は起きていて、消火活動などに駆けまわっている人が見える。


 陣頭指揮はアレイシアさんだな。

 放っても置けないので上から魔法で水を大量にかけて消火のお手伝い。


「おー、ドラゴンだ」

「美しい竜だ。竜が消火を手伝ってくれたのか…」


 はいそうですね、黒曜が一番目立ちますよね。

 ならそれはそれでいいだろう。挨拶とかで時間を取られても困る。


 消火がかなり進んだのが確認できたからお暇しよう。


「次はロイドシティーに行くよ」


 これだけ大きな魔力変動だ。迷宮のあるあそこが影響を受けていないとは思えない。


 空を移動して…


「あ…あの…おろして…」


「あれ? 限界?」


 ティファリーゼからか細い要求。


「じゃなくて、私は走ってイアハート様の所に…」


「あー、うん、それか」


 確かにこれからロイドシティーを確認して、そのあと俺たちはフレデリカさんの所に行く。

 そしてベクトンの状況次第ではそちらに行くのが遅くなる可能性はある。

 あそこにはシアさんのママであるマルグレーテさんとかもいるし、ドワーフの親方衆も何人か移り住んでいる。

 確かに確認は欲しい。


 俺はイアハートと図って状況の確認と、周辺住民の保護というか見守りを頼んでティファリーゼを下におろした。


 即座にドラゴン形態に戻って走り出す。颯爽と…あっ、ふらついてこけた。

 うん、こういう締まらんところが実にあいつらしい。


 颯爽と街道を爆走するドラゴンのうわさが周辺地域を激震させるだろうが、まあ、今はそんなことを言っている場合ではない。

 向こうを頼んだぞ。


 スライムたちもまあ、家族っちゃ家族だからな。


 そしてやってきましたロイドシティー。

 ところがこちらはほとんど問題がない。


 黒曜も麒麟形態に戻して、ネムが騎乗する形だ。ラウニーは手の空いた俺が抱っこしている。

 そして地上に降りるとギルマスのセルジュさんが仮説の指揮所で陣頭指揮を執っていた。

 何かはあったんだろう。


「やあ、よく来たね」


「セルジュさん、こちらは問題ないようですね」


「こちらは?」


 そして情報交換。

 この町でもあの波は押し寄せて来たらしい。そしてみんながふらふらした。

 だがここは出来たばかりの町でしかも迷宮目的の腕に覚えのある者ばかり。他も若いものが中心で影響は少なかったようだ。


 屋台でひっくり返って火傷したのが出たくらい。


 ただ森の方から魔物や獣が押し寄せてきたということはあったらしい。


「スタンピードかと思ったんだがね、一過性で一度撃退してしまえばあとは問題がなかった。

 迷宮の方も問題ないよ。

 それよりもターリだね、緊急依頼で少し冒険者を派遣するようにしよう」


「ええ、それがいいと思います」


 俺は賛同した。

 なぜならこの辺りの地面から感じられる魔力がかなり薄くなっているからだ。


 地面の下にあった魔力の吹き出しぐ他の感覚が、無くなっているわけではないけどほとんど感じとれないぐらいに小さくなっている。

 大急ぎで迷宮を除いてみるけど結果は同じ。

 ここに吹きだしていた魔力が格段に減っている。これなら迷宮が氾濫するようなことはないだろう。


 ということはこの世界の下を流れる龍脈になにかあったということだ。


 流れが変わったとかそんなのがあったのかもしれない。

 それでたぶん、どこかでまとめて吹きだして、その波動があのグラグラの正体だろう。


 ただ方向的に…帝国の方なんだよな…

 ちょっと嫌な予感が…いやいや、気のせいだよね、予感なんてたいていは当たらんさ…

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