第191話 試合➁

第191話 試合➁



 修練場の中心で向かい合う二人。


 ギルデインさんはこうしてみると体が大きい。

 かっしりとした鎧に身を包み、直刀タイプの木剣を持っている姿はそれなりに力を感じさせるね。

 鎧が派手だし。


 対するセーメさんはかなり小柄なご婦人だ。

 動きやすそうなさらりとした服と長刀のような木剣(?)を持っている。


 これはセーメさんの本来の武器が青龍偃月刀だからだ。

 見せてもらったけどかっこいいかっこいい。

 それに近いものということで練習用に長刀のような木剣があるわけだ。


「本物じゃないんですね」


 ティファリーゼが二人の装備を見てそうこぼした。


 これはラウニーの時に本物の武器が使われたからだろう。


 でもこれは仕方がないことだった。

 ラウニーは自分の武器を使うわけだし、刃物でないとはいえあれはかなり高度な武器だ。攻撃力も高い。

 武器の評価としては変だが、防御力も高い。


 それでもブレードが付いていないので木剣で相手をする。というような話もあったんだけど、それはラウニーが嫌がった。

 確かにそれはラウニーの側から見れば不公平で、バカにされているように感じたのだろう。なのでそのまま本物が使用された。


 まあ、相手としては戦うのがかなりの使い手なので本物の剣を使ってもラウニーにケガをさせるような事はない。という判断もあったのだ。


 でも今回は最初から双方訓練用のを持っている。平等なので問題ない。

 ないはずなのだが周りはざわざわとざわめいている。


『こうしてみるとセーメ様は小柄だな』

『ギル様が大柄だから一層そう見える』


 ギルデイン氏は腹のあたりとか、太ましいので余計そう見える。


『しかし、武神セーメ様の戦いを見られるとは』

『そうですね、あの方はお隣のフレデリカ公と冒険者として名をとどろかせた方ですからね』

『いや、しかし、御怪我をなさって引退したと聞いたが…』

『ええ、確かですよ、冒険者としての最後の冒険の時にものすごい魔獣と戦ったとか、皆さんそれなりにお怪我をなさって辛勝だったとか』

『セーメ様も足を痛められて引退なされて、でもしばらく不自由なところは見かけませんでした』

『うむ、普通に動いておいでだったよな。ただお年を召してから足を引きずるようなところは何度か見たことがある』


 観衆の話は興味深いね。

 まあ、ロッテン師とかも加わって大暴れしていたみたいだからね、いろいろあったのだろう。主にヒャッハーな方向で。


 一方でセーメさんの方も盛り上がっていた。


「まったく、なんなのその腹、もう少し鍛えなさいよ」


 あれは鍛えた結果ではなく中年太りなんだろうか…

 食生活もかなりカロリー高そうだったしな。


 そのギルデインさんは足を抜くように上げ、指すようにおろし、剣を構えたままにゆっくりと右に回っていく。


「なんのなんの、儂も誇り高いフォーレシア公爵家の当主、戦闘に支障のきたすようなことはありませんぞ、母上殿こそ膝は大丈夫でありましょうか?

 最近は動くのが辛そうだと聞いておりましたが」


 そのセーメさんは気負った風もなく流れるようにギルデインさんの反対側に歩いていく。


「あらありがとう、問題ないわ」


「あとで膝のせいで負けたなどと言わないでくだされよ」


「そんなこと言わないわよ、あなたこそ手加減しないからその気でおいでなさい、本当に訓練では強気なのに実戦だと腰が引けるところは変わらないのね、本当に家のバカ長老どものせいで気概が足りなくなっちゃって」


 うん、確かにそうだ。

 ドラゴンの前では完全に及び腰だったのに今は何というか、ちょっとコミカルではあるが自信に満ちているように見える。


「えっとですね、昔から父は実戦で命がかかるとちょっと腰が引ける人でして…ですのでこういった命のかからない訓練の時はとてもつよいんですよね…」


 ネムがちょっと恥ずかしそうに教えてくれた。

 よっぽど恥ずかしかったんだな、しゃべり方がですます調になってるぞ。


「うーにゅ?」


 お、ラウニーが伸びあがってネムの頭をなでている。

 尊い。


 だが決闘の方はそのまま膠着…『カタン』…


 何かが落ちたような音がした。その瞬間。


「うおおおおおおおおっ、もらったーーーー」


 ギルデインさんが突っ込んだ。

 しかも剣は下段、セーメさんの足を狙っている。

 容赦ないな。


 そのまま〝ブオン〟と剣が振られ!


「うおっ、きえた!」


 いや、消えていない。

 振りぬいた剣の上に悠然と立つセーメさん。


「ははうえ、足は?」


「婿殿に治してもらったのよ、すごいわよね、あんな古傷まで完全に治療できるなんて」


 まあ、多少の外科知識があれば、けがをしたときに砕けた骨の処理が不十分だったんだよね。

 見て分かったからちゃんと魔法と外科的な治療で治しましたとも。

 骨の補強にミスリルの板とかも使ったしね、かなり自信あります。


「行くわね~」


 そこからはセーメさんの嵐のような連撃だった。

 駒のように回転するケリ技、竜巻のように唸る木剣。

 蝶のように舞うご本人。


 シュタっとセーメさんがポーズを決めた時、打上げられてくるくると回るギルデインさんが地面と熱い抱擁を交わし、そして会場が大歓声に包まれた。


『うおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ』

『女神の復活だー!!』


 太鼓が鳴らされ、ラッパが鳴り、花吹雪が待った。

 裏を話してしまうと実は紙で吹雪を作るより本当の花びらを使った方が安上がりなのだ。


 そしてギルデインさんは結構なケガをして担架で運ばれて行きましたとさ。

 めでたしめでたし。


 というわけにはいかなかったな。


「マリオン殿、ぜひ余と手合わせを頼む」


 獣王様が武器をもって修練場に進み出てきた。


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