第187話 会談から密談へ
第187話 会談から密談へ
「ここが公爵家ですね」
正確には公爵家の上空ね。
「おばあちゃんいるかな…」
ネムはおばあちゃんに会えるのが楽しみらしい。フレデリカさんの友人らしいので俺も楽しみだ。
というかその人がいないとここまで来た意味がない。
俺は直上から屋根に降りて、ネムの案内でそのおばあちゃんの住んでいる所に移動。
「ここって離れ?」
「うん、おばあちゃんは父さんに家督を譲ってからこっちに移って、闘士たちの特訓とか、あとは子供たちに戦闘を教えるような暮らしをしているの」
それは老婦人の隠居生活としてどうなんだ?
魔力視で下を探ると確かに人がいる。
あまり多くはないな。
一番強い反応は部屋の中で座っている小柄な人。その前に立っている人がいるから何かの打ち合わせでもしているのか…
俺たちは窓の所まで行ってそっとのぞき込む。
重力方向を変えてあるから上からさかさまにのぞき込むような感じ。
「なんか、すっごく面白いですね」
「うん、いいね」
ホラー系のコントとかできそう。
空気の振動もある程度の距離で止めてあるので普通にしゃべってます。
そのくせ向こうの声は振動を拾ってよく聞こえるようにしているのだから魔法って本当に便利。
「マリオン様だけだと思うよ」
そうか?
「で、今回の騒動はギルデインが派遣した闘士がドラゴンを怒らせたというのが元なのね」
「はい、両名ともに王宮に留め置かれたので詳しい話までは伝わってないのですけど、それは間違いないと、王宮に送り込んでいるものからの報告ですので」
「本当に何をやっているのかしら。ネムはもともとギルデインのすすめた縁談が嫌で家を飛び出した子よ、もっと政略的な結婚話があるから帰ってこいなんていって帰ってくるはずないじゃない。
絶対もめるからやめとけって言ったのに」
「はい」
後ろ姿だが、ネムと同じ白い髪の虎耳の女性が座っている。声の感じから老齢であることは間違いない。
正面に立っているのは大きな犬耳の女性だな。
メイド服っポイのを着ているけど、革のコルセットみたいのとか、腰当とかあって戦闘メイドって感じ。
「でもなんでネムの所に行ってドラゴンを怒らせるのかしら、フレデリカがドラゴンを飼っている…なんて話は聞かないけど…」
「はい、そこら辺がまったく情報が足りない部分でして…」
「仕方ないわね、事情をしっている人に聞きましょうか」
その人がくるりと振り返った。
目が合った。
ヤベっとおもったけどネムが手を振っている。
まあ、こんなものか。
◇・◇・◇・◇
「なるほどねえ~、ネムちゃんが育ててたちびちゃんが竜族の子だったのね~」
フレデリカさんの手紙を読んでセーメさんが深く頷いた。
俺たちはテーブルを囲み、お茶を飲みながら話をしています。
ちなみにメイドさんは犬耳じゃなくて狐耳だった。名前はニアさん。セーメさんのメイドでお弟子さんだとか。
さっきからすごく警戒されているような気がする。
なぜだ?
「あら、あなたが強いからよ~、婿殿。そんなにプレッシャーをかけられたら誰だって警戒するわ~」
「はて? そんなことしているつもりはないんですけど…」
いや、本当だよ。
魔力も重力も影響を与えないように抑え込んでます。
「なるほど~、ということは婿殿は私が思っているよりずっと戦闘力があるみたいね」
「「?」」
「ネムは全く感じないのね、まあ、そういうものかもしれないわね~。つまり私たちが勝手に恐れているということなのね…
ネムは想像以上に良い婿を見つけたわね~」
「ありがとうお祖母ちゃん」
ぎゅっと抱き合う二人。
「でも今回の話って何なの? お前の結婚が決まったから帰ってこいとか…帰ってくると思っているのかしら」
「それ以前に何としても帰ってきてほしいってことだと思うわ~。ネムはナルハラ国って知っている?」
「ここからもっと東にあるお金持ちの国」
「まあ、そうね、相変わらずおおざっぱな認識だけど。
そこが最近さらに羽振りがいいのよ~、いろいろな魔道具を開発していてね。
そこが南の帝国の進出に脅威を感じているらしくて、獣王国と〝ゆるぎない友好関係を〟といって皇太子のお嫁さんをこの国から迎えたい、と打診してきたのよね~」
ああっ。
帝国は晶の作った銃火器で周辺を開拓しまくっていたからな。それに危機感を覚えたというわけか。しかし、この時期に魔道具の開発、しかも羽振りがよくなるほど…となるとその国にも異世界人がいるのではないか?
「でも思い切った提案ね。正妃なんでしょ。私が言うのもなんだけど、普通の国に獣王国出身の正妃なんて、国のありようが変質しかねない気がするけど…」
「ああ、ね、あそこは金とか宝石とか沢山取れて羽振りはいいけど、国自体は小さいでしょ。当然兵力もないから、そこら辺をこの国との友好関係で補いたいのだと思うわよ~。
獣王国との婚姻政策がうまくいったということであれば牽制にはなるもの。多少王家が武断的になるぐらいは許容できる欠点。と考えたんじゃないかしら。
ただ今回の騒ぎでどうなるか…」
チラッチラと俺を見るセーメさん。
話が面白いね、自分たちの特性をよく理解している。さすがという感じか。
そして言いたいこともわかる。
ドラゴン相手に兵力を減らしたりしたら本末転倒なわけだ。
「それは分かったけど、なんで私なの? 私結婚したって連絡したよね」
「したわね」
しれっと、しれっと。
「まあ他にも候補はいるのよね。うちだって結構大きい国なんだから。
でも、貴族間の権力バランスとかってあるでしょ~?
ネムがダメとなるとリール公爵家のお嬢さんが有力なのよ」
「あーあーあー、覚えてる。私より二つ上だっけ」
「そうそう、ちょうど王太子と同い年ね。あの娘もお転婆で嫁の貰い手がなくて…あなたと一緒でね~」
「おばあちゃん、人の事売れ残りみたいに言わないでよ。私は自分の納得いく相手でないと嫌って言うだけ」
「ねえ、この通りうちの娘たちは実力があるとすぐに自分より強いやつ、自分より優れているやつって始めるから縁談がまとまらないのよ」
まさかこんなに早く男を見つけるなんて思わなかったわ~と楽しそうに宣うセーメさん。
運がよかったわね。
運だけじゃないわよ。
楽しい会話だ。仲いいね君ら。
まあ話をまとめると、リール公爵家とフォーレシア公爵家というのがライバル関係らしい。フォーレシアは虎でリールは狼だそうな。
で伝統的に仲が悪い。
駄猫、野良犬と呼び合う仲。うーん。
で今回の婚姻話でもしリール公爵家の何とかさんが嫁に行くことになると勢力バランスが一気に向こうに傾くことが考えられる。
その国の実力はこの国に輸入される魔道具ではっきりしているので、リール家がそれを取り仕切るようになると金銭的に、そして発言権的に看過できない事態になる。
とネムの父親のギルデイン氏は考えたということだ。
「でも意外ですね。獣人の国なので勢力争いがあるにしてもそう言う方向だとは思いませんでした」
「そうなのよ、私もそう思うの~、どっちが上かなんて殴り合いで決めればいいじゃない? それなのに婚姻政策とかお金儲けとか」
「あとドラゴンと戦って勝つとか?」
「そうそう、それができれば権勢は盤石よね。でもうちの息子は私に似ないでそこらへんは自信がないみたい。
勝てなそうでも一当てやってみなきゃわかんないのに、すぐに日和って平和だ、平穏だって… 今回だって国王様に『お前の所がやったんだからお前が先頭に立て』って言われなかったら兵士に任せて隠れてたわよ。
本当に誰に似たのかしら」
「おばあちゃんが無茶をしすぎたせいじゃない? 反動?」
「あら~、大したことはしてないわよ」
ネムの発言は正しいような気がしてきたな。
まあ、これでだいたい状況は分かった。あとは
「とりあえず明日の昼前ぐらいに進攻してきますね。西側でやると畑がひどいことになりそうなんで、南の平原のほうからきます」
「やめるという選択肢はないのかしら~」
「残念ながらないですね。とりあえずケジメはつけないと」
「そうよね、ケジメは大事よね」
はー、ため息をつくセーメさん。うちの連中もこの人なら仲良く…
おっ、そうだ、いいこと考えた。
いや、ほんと大したことじゃないけどね。
俺は不思議そうにこちらを見て首を傾げる老婦人にそれを提案してみる。
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