第155話 一階(地下)を調べてみる

第155話 一階(地下)を調べてみる



 迷宮の入り口は確かに見覚えがあった。

 入り口をふさぐ巨大ながれきは確かに俺が穴をふさぐのに使ったやつだ。


 出入口はやっぱり俺がぐりぐりやりすぎて崩れたところだった。

 一応埋めたんだが、何かの拍子に中から崩れたらしい。


 というか迷宮化してしまったためにそこに穴が開いたんだろうか?


 不思議なことに穴は狭く、大人でも入るぐらいは余裕だが全くただの地面の穴という様相で入るの大変そうである。


「あの穴までが迷宮で、形を変えることができないんです」


 なんと、そういうことか。


 地面に開いた穴にロープが垂らされていてそれを頼りにもぐっていくような感じだ。

 その前にプレハブ風の建屋があるのでどこかの工事現場か発掘現場かという感じ。


「ここは冒険者でない方が入らないようにするための検問で、同時に入っていった冒険者を記録に残す窓口でもあります」


 この建屋には三人ほど人がいて、入っていく人をチェックしていた。


「新しい迷宮って何があるかわからないですから入場した人の確認は必要なんですよ」


 ここで名前と予定、何日ぐらいもぐるのか? とかそのための準備がどのぐらいあるのかとか書類に残していく。

 もし帰ってこなければ何かあったのかと分かる仕組みのようだ。


「えっと、予定は日帰り、余裕は…一〇日分ぐらい?」


 ちょっとした様子見だからすぐ戻ってくる予定。

 俺が申請書を書いていたら巻き付いていたラウニーが俺の名前の下になんかミミズがのたくったような模様を描いていた。

 多分名前だろう。なんとなく読める。ような気がしなくもない。うん。


「よしよしいい子だ、じょうずだよ」


「あい、きゃいあ」


「かわいいーーーっ」


 これは事務員の女性だ。


「よう、奇遇だな」


「おっ、ロイド君じゃないか」


「あー…名前何だっけ? 百花繚乱と一緒にいたのは覚えているんだが…」


 手続きをしていたら横から声をかけられた。

 薄情者だ。いやロイド君だ。


 周りから『きゃーーーーっ』とかいう女性冒険者の黄色い悲鳴。

 それに反応するかのようにリリ嬢が周囲を威嚇している。相変わらずだ。


「今日はネムちゃん一人なの? というか独立したのかな?」


「ご無沙汰しています璃々さん。実は結婚したんです。百花繚乱の方はミルテアさんが引き継いで再建してます。

 ここに来る予定ですよ。あと数日かな?」


「そうなんだ…懐かしいわね…

 冒険者なんてやっているとお友達がいきなりいなくなったりとかするし、残ったやつらは元気にやってかないとね…」


 とこちらは女同士の話。


「よう、マリ坊。せっかくだから一杯やらんか? 今晩にでも」


 となれなれしい薄情男。


「そっちも二人だけか?」


「ああー、まあな。ちょっと英雄とか祭り上げられて忙しくなっちまってよ。今は二人だ」


 ふむ、あの時他に四人いたと思うんだが…

 まあ、結構時間もたつしな。


「最近は金にゆとりがあるからよ、ワインもいいのがのめるのさ、あとシャンパン? あれいいな。あれはうまいぜ。高いけどよ。

 ここにいい酒を飲ませる店があるのさ。

 最近はあればかりだ」


 ほう、ワインは苦手だが、シャンパンはいいな。

 まあ、夜になってからだが、ちょっと…


「あう。めっ!」


 飲みに行ってもいいかなと思ったらラウニーに怒られた。

 〝めっ〟とか言いながら俺の頭をぺちぺち叩いている。

 これには勝てないか。仕方ないなあ。


 まあ、行ってきて状況次第ということで。


「うわー、かわいい、ラミア族の子ね?

 どうしたの?」


 リリ嬢がこっちに寄ってきてラウニーに手を伸ばした。

 ラウニーは彼女に何を見たのかすぐににぱっと笑ってリリ嬢に抱き付く。

 何を見たのかは明白だった。

 それはおっぱい。


 子供はおっぱいが大好きだ。


 そしてリリ嬢は巨乳で露出が多い。

 ほおずりしている。


 リリ嬢は嬉しそうだからまあいいだろう。


 と思ったら見ていた周りの男どもが鼻の下を伸ばしている。


 一方ロイド君は興味ない様子。しかも『そうか、ミルテアさん来るのか』とかほざいていた。


 前回あったときもミルテアさんに気があるようなそぶりがあったが、結構真剣なのか?

 いや、その場合リリ嬢はどうするんだ?

 うまくいってないのかな?


■ ■ ■


 そんなトラブルがあったが俺たちは適当に切り上げて迷宮に入った。

 迷宮はなんというか雰囲気ばっちりの場所だった。


 まず縦穴を降りていく。

 その穴は途中から少し斜めになってて進んだ先に建物がある。


「ここが一階層ですね。なんか不気味な建物です」


 うん、不気味だ。

 一言で言うと…


「学校」


 そう、これはどう見ても校舎に見える。

 コンクリートの飾り気のない昔ながらの校舎。

 しかも土に埋まった校舎だ。


 窓の外は岩、あるいは土砂。

 そのうちの一枚が割れていて、入ってきた穴はその窓に通じている。


 当然外から入ってくる光などはなく、天井が光ることで視界が確保されている。

 そんな教室の一室。


 廊下側の窓やドアは程よく壊れていて廃墟感がすごい。


 廊下に出るとその廊下はどこまでも続いていて、果てが見えない。

 そして教室も同じように並んでいる。


 これはいくない。


「あー、俺って怪談は苦手なんだよね…」


 はっきり言って嫌い。

 同好の士を求めて同じ感覚を味わっているであろうマーヤさんを見たらすっげーワクワクが顔に出ている。


 どうも彼女とは趣味が合わないらしい。


 教室の中は片側に積み上げられた机といす。

 その鉄パイプのジャングルジムの中に光る眼がいくつも。


 それは子犬サイズの、いろいろな動物のスケルトンだった。

 別にスケルトンとか怖くないんだけど、場所が怖いぜ。


 ちょろちょろと走り出てくるそれをシアさんが盾を使って叩き潰す。

 簡単に砕けた骨はあっという間に解けるようになくなり、あとにはただ魔石だけが残る。


 こういうことは冒険者がいる限り数限りなく繰り返されているはずだ。

 事実、そうしている冒険者もちらほらと見える。


「やったー、こんなに弱い魔物からこんなにいい魔石がとれるなんて」

「おい、そっちも行ったぞ、叩き潰せ」


 なのにスケルトン小動物は際限なく現れ、魔石を残していく。


「こんな小さな魔物のわりに魔石は立派ですね。ワンランクかツーランク」


 シアさんが足元の魔石を拾ってそんな簡素を漏らした。

 多分この場所の魔力が濃すぎるせいだろうな。

 そのせいで魔石が…


「魔石が大きいのに魔物が弱いとかあるのか?」


「あまり聞いたことはないですねえ。魔石が大きいとその魔物も強くなるのが普通です…あっ、でもどっちが先なんだろう?」


 つまり魔物が強くなるから魔石が大きくなるのか。魔石が大きくなるから魔物が強くなるのか。という話だ。


「魔物の強さと魔石の大きさは比例すると読んだことがある。

 今バランスが取れてないということは、これからバランスが取れるということ?」


「なるほどもっともだな。つまり魔物はこれから魔石に見合うぐらいに強くなっていく。ということか?」


「稼ぎ時というのはあるもの」


 うーん。そうかもしれない。

 しかし魔力濃度で魔物が強くなるなら、ちょっとやばくね?

 この下にあるのは長年封じ込められた莫大な魔力だぞ?

 魔力を集めていたコアは俺とあいつで壊しちゃったし。


 あの巨大なペークシスを壊したときにこの場所の魔力濃度は一気に跳ね上がった。

 もともとただの人間だった俺が仙人みたいな暮らしができるほど魔力が濃かったのだ。そこの魔力があの源理力バーストで一気に跳ね上がった。


 それが漏れてここが迷宮化したわけだ。

 しかも見た限り俺が脱出するときに通った研究所といった規模からなんかものすごく大きくなっている。

 これって大丈夫なのかな?


「もう少し奥に行ってみる」


 その後俺たちはこの第一層を歩き回った。

 歩き回った2時間ぐらいは歩き回った。

 魔物をつぶし、教室を確認。下に行く階段を見つけたときにはたぶん4~5kmぐらいはあるいた。かなり広い。しかも廊下の端にはとうとうつかなかった。

 どうなっとるねん。といいたい。


 下への階段を除いてみたら今度はオフィスみたいな場所だった。

 ワンフロアでどこまでも机の椅子が並んでいる巨大な空間。


 そこにいた冒険者たちは事務机の下から出てくる魔物を屠りながら机の引き出しや机の上のものを確認している。


「あった、お宝だ…ああっ、崩れてしまう…」


 そんな声が聞こえてくる。

 大昔の事務用品はここで見つかったのかもしれない。

 ただここにこんなに机なんかないはずだから、本物ってことはないと思うんだよな…


 そろそろ時間切れだ。今日の所はここまでにしておこうか…


「みんなそろそろ…『ぎゃあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ』かえ…なんじゃ?」


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