第150話 到着、ロイドシティ
第150話 到着、ロイドシティ
「とりあえずその生き残りというのにあってみましょう」
それは迷宮内部における冒険者未帰還事件の話だった。
原因不明のままここまで来たが、今回はかなり浅い階層で被害がでて、しかし階層が浅かったがために目撃者が生還した。ということだった。
だがロイドシティからきた伝令だけでは要領を得ない。
そこでネムが直接行ってみようと言い出したのだ。
「そうだね、迷宮関係は依頼ではないけど、気になるよね。行ってみよう」
俺はそう決断した。
幸い野宿のつもりで宿屋は手配していない。
「向こうに行くならこの子たちも連れていってくれない? 馬車の荷台でもいいから」
急いで準備しているとアレイシアさんが二人のギルド員を連れてやってきた。若い女の人と中年のおっちゃんだ。
優秀な人で情報収集を命じられたらしい。
それほどこの証拠もないまま未帰還冒険者が出る事件は迷宮の運営に大きな影を落とし始めていたのだ。
◇・◇・◇・◇
「やあ、よく来てくれたね、会えてうれしいよ」
ロイドシティについてギルドを訪ねた。
町はまだ新しく、建物はログハウスみたいなものが多かった。まあ、森の中だからね。材木は無限大だ。
樹木の乾燥などは魔法でやるらしいので結構ハイペース。
ちゃんとした壁のある建物は順次製作中。
なので冒険者ギルドロイドシティ出張所は木造平屋のログハウスだった。
ついた時はなんか大騒ぎでギルマスのセルジュさんに面会を申し込んでもなかなかかなわない。
会議中だったのだ。
それに表向き俺たちはただの冒険者でギルド関係者とかではないからね。
そこで活躍したのがギルドからついてきた二人、こういうのはなんというのだ? 蛇の道は蛇じゃないし、同じ穴の狢ではないし…ただ、彼らはギルドの仲間なので話を通してくれたようだ。
そしたら会議が終わってすぐにセルジュさんが来てくれた。
そして俺たちのことを覚えていてくれたらしい。
一時期町に寄っただけの冒険者だったのに。
「なんにせよ実力のある冒険者が参加してくれるのはうれしいよ。迷宮アタックに来たんだろ?」
ん? ああ、そう思うか。
でもハズレ。
「いえ、今回はフレデリカ・キルシュ様の依頼で帝国から来た勇者をぶっ
そう言って紋章を見せたら超びっくりしてた。
そして慌てておくに飛んで行って、また一人別の人を連れてきた。
年のころは二十歳ぐらいの男性だった。
「初めまして、カウナック・キルシュと申します。閣下のお話はおばあさまから伺っています。どうぞよろしく」
そう言って握手を求めてくる。なのでこちらもあわてずに握手。
一言で言うと大企業の若社長みたいな感じ。現場に放り込まれていろいろもまれていい感じに育っているような。
さすがフレデリカさんが見込むだけのことはある。
というのもこのカウナック氏、フレデリカさんが自分の宝具、あの指輪型の収納宝具の継承者に指定したやつなのだ。今回はその宝具【しまっちんぐ3号】も貸し出していると聞いている。
でもしてないみたいだね。
「あれは今兄が持っています。あれはすごいものですからね、兄弟の間でも誰が受け継ぐのかで結構…話題になっているんですよ」
…の所に入りそうになったのは争いとかもめるとかだろうか。
フレデリカさんはなかなか好人物だけど、名君の子が名君とは限らないというのはどうしようもない真理だ。
当然争もあるだろう。
ただ継承者登録は既に住んでいるから無駄な争いなんだよね。フレデリカさんがなくなったら目の前の彼が継承しないとあれはただの指輪だ。
こうなるとこの兄貴というのにも興味が出てくるな。
「兄はエサイアスといいます。先ほど会議が終わった後ちょっと用事で席を外しています」
これはあとでネムが教えてくれた話なんだけどエサイアス氏は次男らしい。
跡取りは当然長男で、これはかなり厳しく育てられてそれなりに使えるようだ。
だが他の兄弟は普通に育てられて、カウナック君は末っ子。しかもエサイアス氏が正妻の子なのに対して彼は妾腹だそうだ。
でも出来が良くてフレデリカさんは期待をしている。
ベクトンを任せられるのはこいつしかいない。みたいな?
いやー、そこらへんは当事者というか公爵だって知らない話だよきっと。
女子会の闇の深さだね。
さて、俺たちは別に彼らに協力するように言われているわけじゃないんだけど、いろいろやるにせよすり合わせは必要だ。
なのでフレデリカさんの指示とかやっちゃえやっちゃえ見たいなノリを伝えておかないといけない。
「おばあさま…」とか頭を抱えていたが、頑張れ。偉い人というのは苦労をするものだ。
でそんなことをしていたらラウニーが飽きてきた。
一応部屋に通されてお茶とお茶菓子は出てきたんだけど、所詮は幼女。
しばらくは俺の膝の上とかネムの膝の上とか這いずっていたけど本格的に飽きてきた。
遊びに行く? 一人じゃだめだよ。マーヤさんとシアさんについていってもらいなさい。
買い食い用のお小遣いを持ってね。
そして残った俺とネムはカウナックさんと打ち合わせ。
「やっぱり勇者はあほですか…」
「まあかなりバカですね。一言で言うとおだてられて図に乗った若造。ですかね」
「大体予想通りですね」
「だから帝国にいいように使われていると…でもその勇者がここに来た目的は何ですかね。フレデリカさんの推測では箔をつけるためということでしたけど」
「それは間違いないと思います。本当はドラゴンも狙っていたと思うんですけど、というかそれこそが一番だったのかもしれませんけど、ドラゴンはいつの間にかいなくなりましたし、あとはこの迷宮の踏破。そしてここには魔族殺しの英雄がいますからそれに勝つとか」
うーん、わからなくもないが…
「そんなに強いんですか?」
「はい、監視させているものの報告ではかなり強いようです、魔法関係は一級品。さすが勇者だと報告がありました。
ただ、なんといいますか…魔法で戦えば強いのになぜかライホーという武器にこだわっていて、それでばかり戦おうとする傾向があるみたいです」
おもちゃが楽しくて仕方がないタイプか。
まあ、銃はロマンがあるからな。
「だがそれでやっていけんの?」
「ええ、今のところは問題なく。彼についている執事がかなりの実力者であるようです。
そして勇者に言うことを聞かせられるだけの信頼もあるようです。
普段は勇者の好きにやらせていて、いざとなれば勇者に魔法を使わせ自分がサポートという感じで立ち回っているみたいですね」
・・・・・・
「じゃあ当面は迷宮のことを調べつつ、勇者がもめごとを起こすのを待ってぶちのめすという方針で」
「はい、いい考えだと思います。勇者のことに関してはフレデリカおばさまが任せろと言っていますから」
勇者をぶちのめすあたりで表情を曇らせたカウナック君だったが、フレデリカさんの話を聞いたら表情が緩んだ。
信頼しているのか、言っても無駄だと思っているのか。
とりあえずこんなものか。
あとはセルジュさんから迷宮の魔物の話を…
『喧嘩だ喧嘩だ! 女の子が勇者に絡まれているぞ!』
「さっそくですね」
ネムが肩をすくめた。
よし、とりあえずどんなやつか見てみよう。
『ラミア幼女が勇者に絡まれているぞー!』
「何だと、うちのチビに手を出す野郎はただじゃ置かねえぞ!」
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