第124話 ロマン…ロマン…
第124話 ロマン…ロマン…
起きた。
スライムまみれだった。
まあ、何のことかわからないかもしれないが目が覚めたら連れてきたスライムたちに集られていたのだ。
こいつら排水口とかからも入ってくるからな…
「おっふぁっよう~」
「おはよう、ネム」
隣でネムが目覚めた。ネムの方にはスライムはいない。
俺が体を起こすとスライムがぼてぼてと落ちる。
スライムは俺が大好きだ。たぶん魔力源として。
「あれ~、なんか大きくなってない?」
「ふにい…」
うるさくなったせいかラウニーも起きだした。
寝相悪いね、さかさまだ。
「おっきい…」
寝ぼけてラウニーがスライムに噛みつく。噛みつくがスライムが大きくなったせいか口に入らなかった。
「まぐまぐ」
「これ」
ぺしっ
ぺっ。
スライムをもぐもぐしているラウニーの頭をネムがぺしッとたたいてラウニーがスライムを吐き出す音でした。
それにしてもなんかソフトボールぐらいになっているねえ。
家で勝っているスライムは5種類だ。
光スライム、闇スライム、透明スライム、聖スライム、水スライム。
どれも人畜無害なやつばかり、つまり人は襲わないタイプだ。
水スライムはトイレや排水関係で活躍してくれているがあとは完全に愛玩動物。愛玩魔物か。
おれにへばりついていたのは透明スライムと聖スライムだ。
しかも分裂して増えてるし。
気配を探ってみたら光スライムと闇スライムは黒曜にへばりついている。
これは何なんだろう。
「さっ、シアちゃんたちを起こして朝ごはんにしましょう」
そうだな。ご飯を食べたら出発だ。
■ ■ ■
「いいか、ゆっくりだぞ、今日は散歩だからね。慌てて走ったりしないんだぞ」
『くるるーっ(ぜっこうちょうーーーーっ)』
大丈夫だろうか…
と思いましたが大丈夫でした。
「くよ、がんばー」
ラウニーがこくように声援を送る。
ラウニーの居場所は屋根の上だ。楽しそうに寛いでいる。
そして俺は御者台に座っている。
で、暢気に散歩をテーマにした某アニメの歌なんぞ歌っている。
「今日は大丈夫そう」
「まあね。まだまだ子供ってことだろう」
隣にいたマーヤさんが俺に話しかけてくる。
つまり御者台に二人、屋根に一人お友達がいて、黒曜もみんなとのんびりするのが楽しい。ということらしい。
つまり子供なのだ。
これでも老竜なので知能的なポテンシャルは高いはずなんだけど、まあ、今まで人間と接触と化したことなかったみたいだからね、言語能力とか論理的な思考回路とか鍛える機会がなかったのだ。
それでも黒曜は普通の馬車よりはずいぶん早い30km/時ぐらいで進行している。この分なら昼過ぎには着くだろう。
「やっぱり旅はのんびりがいいねえ」
「いいねーーーーっ」
おや、なんだ。マーヤさんが思いつめた顔をしている。
「マリオンさん、折り入ってお願いがあります」
なんだろう、いつになく真剣な顔。
なんかドキドキしてきた。いったい何の話だ…
「実は」
「実は?」
「私にも武器を作ってほしい」
ずこーっ、そっちか。
「でもマーヤさんにはAUGを貸し出しているでしょ」
「銃火器はいい、ロマンがある」
ああ、はい、ああいうのにロマンを感じる女の子って…もう一人知っているけどさ…
「でも私は、もっとロマンに満ちた武器が欲しい。ロマン武器」
ロマン武器と来たか。
「ロマン武器ねえ…パイルバンカーとかか?」
一般に最高のロマン武器と言われているものだ。
ただ俺はあれにはあまりロマンを感じないんだよね。工事現場とかで現物見たことがあると、あのスケール感の方がすごいように感じてしまうのだ。
あちらの方がよりロマンチックだ。(個人の感想です。ロマンを保証するものではありません)とかね。
「違う、もっとロマンを」
あれ? もっとロマン?
うーむ、あれよりロマン? ロマン…ロマン…
「・・・・・・自爆とか?」
「あれは男のロマン」
そうでした。あれは男のロマンでした。
ここは任せて先に行けとか、倒してしまってもいいんだろ? とかは男のロマンだ。
まあ、女がこれにロマンを感じないというわけではないだろうが、やはり男の見せ場という気はするな。
しかし、そうなるといったい、何が…
「ロ〇ットパンチ」
「それか! そう来たか! そうだな、あれは確かにロマン武器だな!!」
俺様大興奮。
まさかここでこれが来るとは!
そうかー、たしかになー。
マーヤさんは魔法を使い始める前は格闘戦をやってたんだよな。
拳にロマンを感じる人とかなんだろうか。
しかしロケット〇ンチ。素晴らしいな。
しかし作れるか?
いやいや、待て待て。ネムの斧とか、ラウの玉振りとか勝手に飛び回るよな…
すると飛び回って、相手ぶんなぐって帰ってくる大きな手甲とかはできる…様な気がする。
問題は威力?
質量制御を魔法で付与して、あとはスピードか…
十分な威力を出そうと思えば最低でも亜音速。
瞬時に加速させるなら反発を利用して…
ぶつぶつ言いながら俺は自分の思考に沈んでいった。
当然隣のマーヤさんが期待に満ちたキラキラした目で俺を見ていることには気が付かなかった。
■ ■ ■
「にーに、ひと」
ラウニーが片言で注意を促してくれる。
「くるっぽ(にーに、敵か?)」
黒曜がなんか嬉しそうに声をかけてくる。
黒曜のやつラウニーに引っ張られて俺に対する二人称が『にーに』なってんな。
前方に視線を向けるとそこには十数人の人間がたむろしているのが見えた。
「冒険者みたいですね」
あれ? いつの間にか隣がネムになってる。
「くるるっ?(踏み潰す?)」
やめなさい、馬車が汚れるから。
俺もたいがいひどいことを言っているが『かわいそうだから』といっても黒曜は理解してくれないのだ。ドラゴンだし。
馬車を汚したくないんだよーというのは理解できるらしい。
そんなことをしているうちにどんどん集団が近づいてきて、集団のほうも俺たちに気が付いた。
「遅いですね」
「まあね、こんなに接近するまで気が付かないとか、ありえない」
そしたら一人、ちゃんとした鎧を着た奴が出てきて。
「とまーれー」
ごつん!
黒曜に撥ねられました。
「黒曜も馬車も大きいから距離感狂ったんだな」
それも能力的にどうか? みたいな気がするけど。
「きっ、きしゃま! 許せん!!」
とか言って抜刀。黒曜に切りかかった。
キーン!
という音がして剣の先がくるくると飛んでいく。
「うわっ、なまくら」
「うーん、ありえません」
これは不当な非難だな。
普通の竜馬ならそれなりにダメージを与えられるような攻撃ではあったと思う。あれはそんなにレベルの高い魔獣じゃないから。
でも黒曜は老竜だしね。玄麒麟だしね。
普通に暴れたら都市ぐらい簡単に吹っ飛ぶ生き物だから。
あの程度の武器じゃね。
「きっ、きしゃま! 吾輩はニャチワ子爵閣下に仕える正騎士ゴドワンであるぞ、今ここは魔境征伐のために通行止めにゃ!
通りたくば通行料を払うのだ!」
ああ、そういう趣旨だったのか。
「悪いな、俺たちは子爵閣下に雇われた冒険者でな、ここで演習のついでに取り締まりをしているんだ。
ここはおとなしく通行税を払った方が身のためだぜ。
なんかかわいい女ども連れてるようだから女どもに払ってもらってもいいぜ。
なーに簡単さ、ケツ突き出して少しじっとしててくれればこっちで済ますからよ」
前に出てきたリーダーっぽい男がこちらを威圧(たぶんだけど)しながら前に出てくる。
後ろにいる騎士や冒険者っぽいのも武器を抜いて取り囲んでくるが、迫力が足りないな。
「チンピラか~、黒曜、威圧」
「くるるるおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉんっ」
俺の指示で黒曜が嘶いた。盛大に。
チンピラたちはみんな卒倒した。
腰を抜かしてオムツちゃんになったやつ、もんどり打って泡を吹いているやつ。へたり込んで口から虹をまき散らしているやついろいろだが無事なやつは一人もいない。
ここまで効果があるとは思わなかった。
「くるっる~(わーいわーい)」
黒曜大喜び。
黒曜が送ってきたイメージから読み取れたんだがドラゴンの咆哮には対峙する者の勇気をくじくような効果があるんだそうな。
ここからはちょっとカオスだった。
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