第116話 空中戦

第116話 空中戦



『Kuruooooooooooooooooooooooo』


 ドラゴンが吠えた。

 周囲に広がり震わせるような声。


 その声に合わせて何かイメージが伝わってきた。

 え?


 そこに乗せられていたのは『闘志』だと思う。

 かなり無邪気でなにも考えてない感じ。

『おもしろーい』とか『たのしー』とか『やったるでー』とかそんな感じのイメージだ。


 マジ?


 俺はドラゴンを見る。


 美しいよな。黒く輝いている。つややかな鱗。大きな翼。そして目。

 目。輝く目。


「あー、こいつ知性があるわ」


 意思の疎通は片言だけど、それはこいつの知性が幼いせいか、あるいは人間と違う形だからか…


『いっきまーす。がおー』


 子供っぽいのかな?


 そして始まる空中戦ドッグファイト


『きーーーーーーーん。

 ばびゅーーーーん』


 いや、ばびゅーんはないだろ。


 しかし言葉イメージ通りの加速。

 全長一〇mの巨体でものすごい加速。


 俺は魔光神槍を打ち放つ。


 シャンシャンという音が響き、高速で飛翔する光の槍、それが見事にかわされた。


 大きな翼を自在にはためかせ自由に飛び回る。


「何てアクロバティックな」


『どーーーーーーんっ』


 あっけにとられてもろに体当たりを食らった。

 こいつわざわざぶつかるときに『どーん』ていったぞ。


 もちろんダメージはない。

 ぶつかった質量が大きかったのでお互いにはじかれる感じになったがそれだけだ。

 はじかれた力を利用してそのまま移動を開始する。


 横方向に後ろ向きのまま飛行する。というか落下する。


「加速で俺に勝つのは無理だと思うよ」


『まてーーーーーーっ』


 黒竜はそのまま俺を追いかけてきて連続でブレスを吐き出した。


 黒竜の飛行速度はかなり早い。

 だがブレスの方がさらに早い。

 移動しながらこうやって何かを発射するのなんて言ったっけ?

 その分加速しているのかもしれない。


「だけど音速は出てないな」


 黒竜の飛行速度は時速で…たぶん三〇〇kmぐらい?

 そこからものすごい勢いで火球のブレスが飛んできているから…四〇〇kmぐらいか? もっとか?


 危ないのでさすがに回避しよう。

 歪曲フィールドに自信はあるけどわざわざ試す必要もない。


 そのうえで…よし、出来た。


「いけ!」


 俺は力場で封じられた重力場をばらまいた。


 何かにぶつかるとカバーが外れて一瞬だけ高重力を発生させる。

 つまり爆縮を起こすわけだ。


 それをまき散らしながら移動する。


 それはまき散らされたまま滞空し、空にとどまる。

 俺の後を追いかけてきた黒竜はその中に見事に突っ込んだ。


 ドンドン! ドドン!!


 と音が響く。


『KuruaAaAaaaaaaaaaaaaaaaaaaan』


 ドラゴンの声が響いた。なにを言っているのかはわからなかったな。これは。


「結構効いたみたいだな…爆縮機雷というところか…」


 間違いなく痛かったんだろう。

 血も流れているし必死に羽ばたいて姿勢を立て直している感じだ。


 この隙にもう一つ魔法を組み立てる。

 今度は以前にも使ったやつ。


「【空震魚雷】いけ!」


 改良型である。

 何が改良されているのかというとホーミング機能が追加されているのだ。


 イアハートの所からもらってきた魔導書に載っていた。


 形としてはジャイロコマに似ている。

 核となる空震魚雷をジャイロコマの中心にはめこんだような形になる。

 駒と違うのは中心が止まっていて囲んでいるリングが高速回転しているってところ。


 打ち出された空震魚雷は結構な速度でするすると黒竜に近づき、ぶつかると起爆して空間を激しく振動させる。

 範囲の小さいグラビトンウエーブだ。


 範囲内に高振動による破砕効果と振動による分子運動の急加速で莫大な熱を発生させる優れもの。


『Gyoeeeeeeeeeeeeeeeee』


 爆縮と空震のダブルパンチで黒竜もさすがに姿勢を崩し、墜落していく。


「やったか?」


 当然やってませんでした。


 大きな翼を操り地面すれすれで姿勢を立て直し、手と足を着いて着地。次の瞬間勢い良く地面をけってすべての魚雷をかわしてダッシュ。

 魚雷は地面にぶつかって自爆した。機雷もすでに連鎖爆発でなくなっている。


「うーん、見事に切り抜けられた」


 そして即座に空に飛びあがる黒竜。


『いたーい。やったなー。おこったー』


 そんな意思が伝わってくる。


「うーん、少しは効いたかと思ったのにまだまだ全然元気だわ」


 俺は自然と顔が笑いの型になるのを感じていた。


 このドラゴンは強い。

 鱗は強固だし、しかも鱗に魔力が流されていて力場防御も持っているらしい。

 魔法もあまり効かないしぶんなぐってもはじかれる。


 攻撃力は言わずもがなだ。火球はまるで爆弾のように地面に着弾すると盛大に弾けて周囲を吹っ飛ばしているし、すれ違う時に繰り出されるシッポの一撃や、爪はものすごいプレッシャーを感じる。


 今まで戦った相手と比較してカラスゴリラなんかとは比べ物にならない強さだ。

 イアハートとは?


 比較してどちらが強いか…というと判別がつかない感じだが…イアハートにはこいつほどの脅威は感じなかった。


 うーん…


 まあ、そこら辺の評価はともかく、こいつは強い。ということだ。


「だが舐めてもらっては困る」


 俺だってあれから随分修業したのだ。


 魔法に自動追尾を組み込めるようになったのも一つだし、他にも…


「よし、行ってみようか」


 源理核の出力を上げて圧をためていた魔力。おれの周囲にいい感じで集まっている。

 そしてそれを整えて決まった流れを作ってやる。


 実はまだ練習中ですぐにとか行かないのだ。

 だが時間をかければできる。


 いや、すぐに展開できない時点でダメダメなんだけどね。


「よし、竜気鱗…もどき」


 はい、所詮もどきです。

 そしてはっきり言うと力場で作られた疑似的な鎧です。


「ふははははっ、見たか…あっ、まだ見えないか」


 まだ実体化の途中でした。

 もやもやっとして半透明の霧の様なものが少しずつまとまって鎧を形作っていく。


 鎧といってもファンタジーのような奴ではなくSFに出てくるようなバトルスーツだ。

 頭にはバイザーとヘッドギア。胸部、肘、前腕、足などところどころに硬質な装甲版。

 色はブルー系統でところどころに金のアクセント。


 なかなかかっこいい…はずだ。

 できれば鏡とかほしいな。ないけど。


 ちまちまと一つずつパーツを作っていたのだよ。

 翼も考えたんだけど俺の飛行方法だと翼って邪魔にしかならないんだよね。


 そして俺ってば少し黒竜のことが好きになった。


 だってワクワクしながら待ってんだもん。

 空気の読めるドラゴンだ。


「まあ、自分じゃやらないけどね。無意味だし」


 もちろん俺だったら攻撃するよ。隙だらけだから。

 だけど黒竜は待っていた。


 そして俺の準備が終わったと見たのかおもむろにブレスを吐きながら突進してくる。


 一発目を難なく躱し、と思ったらすぐに二発目が来て直撃。

 爆発はしないが斥力場でそれて飛んでいった。

 と思ったらすぐにビームのような火線が突き刺さってこちらは均一化フィールドで分解される。


「すごいぞ。なんて多彩なブレス攻撃だ」


 強い火球、弱い火球、大きな火球。小さな火球、そして光線のようなもの。

 そう言うのを織り交ぜてマシンガンのようにドコドコ打ち込んでくる。


 俺はそれを時にかわし、時に腕を振るって打ち払ってはじきとばす。


『ぐおぉぉぉっ、このやろこのやろーーーー、落ちろー』


 あれ、俺ってばアニメの敵役みたいになってる?


『うわー、雷みたいによけるなー』


 慣性制御でキュンキュン避けていると黒竜が文句を言ってくる。


「おっ、こいつ今いいこと言った」


 それを聞いていいことを思いついてしまった。





● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● ● 





 書いては書き直しで四回ほど。

 戦闘シーンは難しいです。

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