第115話 ドラゴン
第115話 ドラゴン
「うおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」
どうせ戦闘になるだろうと思ったので先制攻撃を選択する。
途中から加速して、重力場を武器にした全力パンチだ。
すでに音速は突破していてあたればかなりのダメージが…
どん!
外れました。
突っ込んでいったらドラゴンが気が付いてしまったのだ。
そしたら瞬時にブレスの連射。
火炎放射見たいなやつじゃなく砲弾のような炎の塊がドコドコと飛んできた。
どうせ歪曲フィールドで弾けるだろうと高をくくってそのまま突っ込んだら意外と圧力がすごかったよ。
何発か当たるうちに軌道がずらされてしまった。
「なかなかやるな」
俺はドラゴンの脇をすり抜け反対側に抜ける。
「でも注意は引けたようだな」
ドラゴンは飛行する俺を追いかけるために方向転換をした。これでネムたちの所から引き離すことに成功した。ということにしておこう。
「しっかし、強いな
飛行能力はワイバーンよりもずっと上、火炎のブレスは極めて強力。しかも連射性能が半端ない。
俺の動きに追随しながらどんどん火炎弾を撃ち込んでくる。
慣性無視で急旋回急加速ができなかったら絶対直撃していたと思う。
そして空中を移動しながら相手を観察。
「こいつは『火竜』というやつだな。そんで黒竜だ」
俺はその翼の形を見てあたりをつける。
ドラゴンというのはよくわからない生き物といわれている。
大別すると『火竜』『地竜』『水竜』『風竜』に分けられて、同じ生き物といわれるわりに姿や能力が大きく違う。
なのに昔から『ドラゴン』とひとまとめにされているのだ。
考え方としては『あれはなんだろ?』『たぶん竜だべ』『んだ、よくわからねえけど竜でよかっぺ』みたいな?
でも見分けるための特徴はある。
例えば地竜は翼をもたない竜だ。地面をはしり、あるいは地中を進む。でも浮遊はできるらしい。
水竜は当然水の中で暮らしている。翼はなく、代わりに鰭を持っている。これもあまり飛行が得意ではないといわれるが飛べることは飛べる。鰭を翼みたいに使ってね。
風竜は鳥のようなたくさんの羽毛を持った大きな翼をもっているのが特徴。そして飛ぶことがものすごく得意だ。
火竜は蝙蝠のような皮膜の翼を持っている竜のことをいう。
つまり目の前にいるこいつだ。
ビジュアル的には一番オーソドックスなドラゴンといえる。長い首と尻尾。胴体はイメージよりもスマートだね。後ろ脚が大きめで前足は少し小さい。
これが火竜。
あと、段階的な分け方もある。
成長して進化していくのだ。
順序としては『幼竜』『成竜』『老竜』『上位竜』という感じらしい。
ただこれはあくまでも進化段階で、その個体がどんなドラゴンになるのかはまたいろいろあるらしい。
例えばティファリーゼ。
彼女は地竜の一種で『陸皇亀竜』と呼ばれる竜種らしいのだが、段階としては『成竜』になるらしい。
この竜種の本来の特徴は亀のような頑丈な甲羅を持ち、動きが遅いが防御力と火力は無茶苦茶高い。という感じの竜だそうだ。
老竜になれば100メートル近い巨体になってぶっちゃけ動く災害の様なもの。
なんだけどティファリーゼは走るのが速く、起動力が高い。ちょっと変わった成長をしているらしい。
なので次の進化はたぶん別の竜種になるのではないか? とイアハートは言っていた。
つまりドラゴンというのはそのように割とフリーダムに違う竜種になってしまうらしいのだ。
そう言うことを踏まえて目の前のドラゴンを観察する。
翼やスタイルは火竜の特徴だが、体は真っ黒だから黒竜と呼ばれる竜だろう。あと火竜ってこんなに飛行能力が高くないと聞いていたんだが…
でもまあ火竜だよね、たぶん。
そしてこいつの今の状況。
ひたすら魔物を食うことを優先するその行動パターン。
「進化中だな」
俺は断じた。
進化のために大量のエネルギーが必要で、それを確保するために手当り次第に魔物を食べているのだと思う。
ちょっと危なかった。
魔境の奥なら強い魔物が沢山いて、こいつの欲求を満たすことができるだろうがこいつは結構浅いところまで来てしまっている。
原因はわからないが、この辺りの魔物では十分なエネルギーにはならないだろう。
そう言うドラゴンは町に行って人間を襲ったりするのだ。
なぜか人間は魔力的なエネルギー効率がいいんだってさ。
魔物が人間を好んで襲うのはそれを本能的に知っているから。
このまま町の近くに行ったら大惨事になるところだった。
「てことはやっぱりおれが戦うしかないのか…」
ちょっとしんどそうだ…
■ ■ ■
といっても俺も今や守るべき家族を持つ身。
このドラゴンを放置した場合襲われるのはまずベクトンだろう。
町に帰って救援を要請してどうにかなるような相手じゃないし。まあ、仕方ないかな。
「よし、行くぞ」
俺は気合を入れる。
気合を入れると体内の魔力が活性化するのだ。核からの魔力供給が上がっていく。つまり出力が上がるわけだ。
それを自分の周りにまとうようにとどめていく。
歪曲フィールドの中に詰め込むように。
「歪曲フィールドの出力も上げないとだからねっファイアボルト!」
減らず口を叩きながら魔法をぶち込んでみる。
ぺちぺち。
「うーん、見事に鱗ではじかれた」
加熱の魔法もアイスフィールドの魔法もやつがまとっている魔力の壁にさえぎられてうまく届かなかった。
そして平気な顔(といってもドラゴンの顔なんぞ分からん)で突っ込んでくる。そして突っ込んでくるときにあ~ンと口を空く。
この野郎、俺を餌だと思っているな。
「せーの」
俺は重力制御点を飛ばしてドラゴンを捕まえる。
動きを抑えようとしたのだが…
「重い!」
なんか力づくで振り切られた。
そして戦闘機みたいに旋回してまた突っ込んでくる。
ならばこれだ。
もう一度重力制御点を飛ばしてドラゴンにとりつかせる。そして今度はドラゴンの動く方向に引っ張ってやる。
『ぎょえ?』
いきなり加速したからびっくりしただろう。
そのまま巻き込むように引っ張って…かかった。
「重力旋風投げ!」
ジャイアントスイングよろしくグルんぐるんと振り回し、最後は頭上でめちゃくちゃに回転させて上に打ち上げる!
そして落ちてくるところを…
「ありゃ、落ちてこなかった」
ちょっとふらふらしているけど上空で姿勢を立て直してしまったぞこいつ。
「こいつ本当に火竜か? 飛行能力高すぎなんですけど」
どうすっかな~。
■ ■ ■
「うわー、すっごい逃げてますね」
「んっ、大騒ぎ」
私たちは石の木の家にこもって窓から外を眺めている。なかなか珍しい光景が見れてます。
石の木というのは魔物に嫌がられる素材で、しかも向きとして魔物の流れの上流の三角形の頂点が向くように配置してくれたので自然と魔物が割れて左右に分かれます。
さすが私の旦那様。
「でもマリオン様が飛んで行ってから魔物の量が増えたような…」
「たぶん暴れている」
マーヤさんとシアさんがそんな話をしています。
たぶん正解ね。
おそらくだけど最初から戦闘突入するつもりだったと思うのよね。
私たちを置いていったのは間違いなく気遣いでしょう。
でも獣人の娘としてこれはつらいものがあるわ。
私も戦いたい。
そんな思いがある。
でも私ももう人妻だから、雄が返ってくるところを守るのも仕事ではある。
うーん、でも、あの人だけ戦いに行かせるのは嫌だし、でもそれが群の雄の役目だし…
この状況の…
「何が悪いのかしら…」
「武器がない」
「ぶーきー」
それね。
今回の探索ではやはり攻撃力の不足が目立ってしまったわ。
技量には自信があるけど、それでも武器が通じない魔物は多い。
私の剣は良いものだけど構造が短剣だから軽いのよね…
「らうもぶきほし」
「そうね」
それはいい考えなのかもしれないわね。
攻撃力が上がれば一緒に行ける。きっと行ける。
うん、いい考えだわ。
短剣はやめるとして…どんな武器にしようかしら。
私はラウの頭をなでながらどんな武器がいいのか思考を巡らせた。
マリオン様の心配はしていない。絶対に大丈夫だから。
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