第110話 ラウニーと森に出てみる

第110話 ラウニーと森に出てみる


 何か作るのに頼るとなるとドワーフだろう。

 ということで俺はギベオンさんを訪ねた。


 石の木の家を作ったときにお世話になった木工職人のドワーフだ。


 カンゴームさんとはあまり打ち解けた関係になれなかったのだが、ギベオンさんとは結構仲良くやっている。

 一緒に飲みに行ったりしてね。


「うーん、馬車かい」


「そう、ラミア族の子を乗せて運べるようにね」


「おう、あの子か。確かにな、そのままじゃ街中じゃ目立つよな…よし分かった。馬車職人を紹介しよう。

 人間だがなかなかやり手だ。頼りになる」


「職人さんなんだろ?」


「いや、工房の経営者かな。馬車ってのは足回りや装飾に金属を使うし、内装に革だのウールだのを使うからな。ああいうのはドワーフには手に余る。ドワーフってのは基本的に凝り性だからな。

 ああいうごちゃごちゃしたのを作っているのは人間が多いな。職人を何人か抱えてやってんだ。

 まあ、俺は頼まれれば内装品を納品したりしているな。

 魔物素材が多いんだが、中には木でできた馬車がいいとかいうやつもいるしな」


「へえ、高級品だね」


「まあそういうこった」


 ドワーフというのは一つのことにのめりこむことの多い種族で金属加工とか、武器防具の制作とか、木工関係とか、一つの分野に入れ込むやつが多い。

 ギベオンさんも木造建築がメインだが建具なんかで芸術的な分野でも知られている。

 ほら、あれだ。北欧の高級家具みたいなやつ。


 そんなわけで翌日彼と取引をしている馬車の工房に出向くことにした。


 そして出てきたのはちょっと体格のいい中年のおばちゃんだった。筋肉がすごい。


「や~あぁ。キベオンさん、よく来てくれました。納品にまさかギベオンさんが来るとは思わなかったよ。

 お弟子さん?」


 お弟子さんと聞かれたのは俺のことだ。

 ギベオンさんが工房に納品があるというのでついでに俺が持ってきたんだよね。


「いや、友人だ。実はお前さんに仕事を頼みたくてな」


「何だい。納品じゃないのかい。おっと失礼。お客さんに文句を言いたいわけじゃないんだよ」


「まあ、気にするな。そんなけち臭い事を言うやつじゃねえ。実はたのまれてた荷物はこいつに運んでもらったんだ」


 俺はその言葉を受けてしまうぞう君から荷物を出して、自己紹介する。


「どうも、マリオンです」


「あらあら、こりゃご丁寧にどうも。収納持ちか…いいね。それがあるとないとじゃ何をやるにしてもやりやすさが違うからね。

 おーい、ぼけっと見てないで奥に運びな」


「「「へ~~~い」」」


 工房から三人ぐらいガタイのいいおっちゃんたちが出てきて俺が運んできたものを奥に運んでいく。

 馬車にとりつけるチェストの様なものらしい。


 もちろんこの工房にも職人はいるが高級品はギベオンさんに依頼が来るようだ。

 これが結構すごいことらしくて例えば町の建具屋に頼むのをやめてアントニオガウディーに仕事を依頼するような感じ。


 その後見本になる馬車を見物しながら工房内を見て回る。


「つまりラミアのお嬢ちゃんが乗り降りできるように出入り口を大きくしたいと。うーん、あんまり扉を大きくするとかしいだりするからねえ。それに物自体も大きいだろ」


 デザインで選んだのはクラッシックな箱馬車だ。

 こちらが付けた条件は『出入り口を大きく』『前側の見晴らしを良くすること』『馬を繋ぐギミックを取り外しにすること』


 だったのだけど待ったがかかった。

 よいものを作ろうとなるとやはり制限はあるらしい。


 あーでもないこうでもないとやり合って、デザインを決め、ギベオンさんの口利きで仕事を急いでもらうようにお願いして一か月後ぐらいの完成を目指す。


 ここは専門の工房なので車のシャシーに当たるパーツなどはもともとある程度作って置いてあるらしいのだ。

 一番下にある足回りなんかがくっつく骨組みのことね。


 木と金属で組まれていてサスペンションとかタイヤとかを選んでくっつければそのまま使えるような奴だ。


 ボディーも枠はあるので壁とかドアとかが注文でくっつく。


 なるほど一か月で仕上がるわけだ。


 とりあえず使った感じがどうなるか、同じぐらいの大きさの幌馬車を借りて使ってみることにした。

 一か月レンタルだ。


■ ■ ■


「結構大きいですね」


「意外と快適」


「うにぃ~。やあ」


「意外と良いかもしれないですね」


 翌日借りた幌馬車で森に向かう。みんなには好評のようだ。

 元が幌馬車なのでシートとかがなく、代わりに毛皮などを敷き詰めてあって、みんな寛いでいる。

 それにこういう形ならラウニーも身体が伸ばせてのびのびだ。


 だが俺は恥ずかしい。


 なぜなら俺は一人御者台に座って腕を組んで座っているからだ。

 俺の両脇には輓獣を繋ぐ棒が伸びてい、そのさきにはなにもいない。


 そう、何もいないのだ。

 つまり引くべき馬もマストドンもない馬車が勝手にコロコロ進んでいて、俺だけ御者台に座っているわけだ。

 道行く人の注目がすごい。


 ちなみにマーヤさんは身を低くして外から見えないように隠れている。

 どうやら観衆は馬車の中も気になるようで、視線があるからだろう。

 魔動車ならともかく馬車の荷台部分だけが勝手に進んでいるのは目立ちすぎるらしい。


「おかーさん、変なのが走ってる」

「見ちゃいけません」


 子供ヨ。人を指さしてはいけないと教わらなかったか?

 まあ気持ちはわかるが。


 ちなみにこの馬車がどうやって進んでいるかというと俺の権能で動いている。

 ちょうどあれだよ。子供がミニカーを手でつかんで『ぶぶ~~~っ。ききーっ』とかやるやつ。

 感覚としてはあれと同じだ。


 俺の権能で馬車をつかんで走らせているのだ。

 恥ずかしいけど馬鹿にしたものじゃない。

 これならどんなところだって走れるのだ。


 壁だろうと水の上だろうと空の上だろうと。

 もはや走る必要があるのだろうか? というぐらいにでたらめだ。


 いっそのことぶっぶーとか…ゴメン。無理です。


 頼んだキャビンができれば魔動車に見えるから問題ないんだが、幌馬車ではね。ほぼ怪奇現象だ。

 せめて道路をおとなしく走ることにする。


 かくして人力魔動車は魔境に進みゆくのだった。


■ ■ ■


「今日の目標は何ですか?」


 シアさんの質問である。


「特に在りません」


 俺の答えだ。


「まあ、今日はこの辺りで普通に狩りをして獲物を持って帰る。というところかね。

 シアさんたちも冒険者活動はしないとまずいんだろ?」


「前回の狩りで大きくポイントを稼いだからもうノルマは達成したと思う。でも、冒険しないと成績は落ちる」


「とはいっても私たちの場合は卒業後は領地の運営に参画しないといけないのでいい成績を取っていい騎士団に。というのはないんです。その分気楽ですよね」


「でも経験は欲しい。経験豊富な方が旦那が喜ぶ」


 マーヤさんの発言は微妙に含みがあるような…


「じゃ、じゃあ、さっそく行軍してみましょう」


 シアさんが何かをごまかすように号令をかけた。


 俺たちは隊列を組んで森の中に。


 狩りで一番大変なのは獲物を見つけることだ。

 魔物だったら向こうから寄ってくるのだが普通の動物は人間の気配を感じると逃げる。


 痕跡を探り、新しいそれをたどって獲物を追い詰める。

 それが本来の狩りのやり方だ。


 魔境とは言うが浅い位置で普通の動物が多いこの辺りではそれが普通なのだ。


 だが魔物もいるわけで戦闘態勢というのは必要である。


 盾役のシアさんが先頭。索敵に優れたネムが遊撃で獲物を探して…ないな。

 ラウニーと手を繋いで暢気に歌を歌っている。


 地球ならだれでも知っている童謡の曲に即興で歌詞をつけたものだ。


「あきや、う~。あきゃう~」


 ラウニーだとこんな感じ。

 マーヤさんはつられて一緒に歌ってるし。シアさんも手を繋いでいるネムとマーヤさんをうらやましそうにしている。


 あんまりやる気がないようだ。


「まあ、仕方がないか。最初だから。そのうち落ち着くだろう」


 俺はできるだけ森に出て少しみんなにラウニー慣れをしてもらわないといけないと気が付いた。


 そう、今日は狩りに来たんじゃない。ピクニックに来たんだ。

 うん。


 おいしくお弁当を食べて家に帰りました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る