第104話 帰還とスライム泥棒
第104話 帰還とスライム泥棒
今回はなかなか面倒くさかった。
スピードを上げすぎたせいかもしれない。
あくまでも騒いで暴れるティファリーゼを持て余した俺は…とりあえず縛り上げることにした。
重力制御点で持っているとはいってもあばれらると邪魔なんだ。
で、何で縛ろうと思ったかというと、イアハートとの戦闘で魔力の鎧を作るコツのようなものが分かったから。
もちろんマスターした。なんておこがましいことは言わないけどね。
あれは魔力を押し固めて鎧を作るのではなく、魔力が動くことで発生すると力場によって構成されているのだ。
つまり魔力の流れるラインで骨組みを作る。その魔力の動きは特定の力場を発生させる。この二つの力によって構築される実態を持った力場があの鎧の正体だ。
うん、実に勉強になった。
なので試しに棒のようなものを作ってたんだけどなんか柔らかい。ロープみたい。
でもロープができたからこいつ縛ってみようか。邪魔だし。
みたいな?
縛ったら安定したので飛行速度がさらに上がった。
めでたしめでたし。なんてね。
■ ■ ■
というわけであっという間にベクトンの町に帰ってきました。
ただ夜中なので門は無視して直接屋敷に向かうことにする。
別に門番は出入りの記録を取っていないのでいいのだ。
あそこは言ってみれば検問だからね。
「さすがにこの時間ではみんな寝ているだろうな…」
なんて思っていたら屋敷の明かりがついている。
しかもかなり騒がしい。
何があった?
俺は急いで降下し、屋敷に向かう。
ティファリーゼ? 放せば自然と拘束が解けるから問題ない。
「今帰った。なにがあった?」
「旦那様!」
答えたのは家令のセバスだった。
ほかにも何人か入ってすぐのロビーでワタワタしている。
走り寄ってきたセバスに顔を向けると彼はすぐに説明を始める。
「旦那様、賊でございます。
メイドが一人切られて大怪我をしまして。
現在大地母神殿の神官様が来てくれて治療に…」
俺は話を聞きながらすぐに魔力視で二階を確認…
「マリオン様」
するまでもなくネムが飛び出してきた。
セバスの話では日が暮れで屋敷の火を落としたころにその賊はやってきたらしい。
夜討ちというやつだな。
目的は不明。
実はこの賊、庭でたむろしていたスライムたちをさらって逃げたらしい。
ただスライムをさらうという話もあまりないのでセバスはこれが目的かどうか判断がつかなかったようだ。
その気配に気づく者はいなかった。
ネムもわからなかったらしい。
なので本当にたまたまなのだが、偶然庭に出たメイド、というか孤児院から来ている女の子がこれに出くわし、助けを呼ぼうとして切られたらしい。
「何ということだ」
「ミルテアさんに来てもらったんだけど傷が深くって、とりあえず時間稼ぎにしかならないって…
でもマリオン様が戻ってくればって…」
ネムたちの判断はいいと思う。俺ならば大概の怪我は治せるだろう。
「よし、状況は理解した。とりあえず手当だ。
って、そうだ。庭に一人ご婦人が転がっているから回収してお茶でも出しておいてくれ」
「はっ、はい」
俺はセバスにティファリーゼのことを頼んで二階に向かう。
これは状況が動くかもしれないぞ。
「ああ、よかった。間に合った」
ミルテアさんが安どの息をついたけど、メイドたちは分かってないよね。
俺の回復魔法とか見たことないし。
俺はすぐにミルテアさんと場所を変わって治療に入る。
いったんは傷を開いて組織ごとに再生して体を修復していくのだ。
そしてこれはジンクスなのか、本当に効果があるのかわからないが薬師如来の真言を唱えていく。
「オン コロコロ センダリ マトウギ ソワカ。
オン コロコロ センダリ マトウギ ソワカ…」
ときに集中のために小声になったりするけど、頭の中にはいつもそれがある。
そして女の子は一命をとりとめた。
まあ、出血とかかなりやばかったんで昔やったみたいに魔力で代替品を作ったりしたけど…たぶん問題ないだろう。
血だしね。
ただ女の子のうわごとで族の目的が分かった。
奴らは『スライム泥棒』であるらしい。
やはりあたりだ。
■ ■ ■
「つまりやつらの目的は最初からスライムだったわけですね」
眼鏡をかけたちょっと小さ目の女の子が、メガネのつるを押し上げながらそう宣った。俺は隣のミルテアさんに耳打ちする。
『この娘だれ?』
『はい、シムカといって、実は新生『百花繚乱』のメンバーの一人なんですよね~、私の妹弟子なんですよ。
今度の百花繚乱は回復力強化型でいこうかとおもって』
『へーそうなんですね』
『そうなんです。私以外はほとんどがまだ若い子ですからね。当面は無理をせずに地道な活動から。
それにシムカの訓練にもいいと思って~』
百花繚乱はメンバー集めは順調に言っているらしい。
といってもミルテアさん以外はすべて新人で、戦士×2、斥候、魔法使い、回復×2の構成で出発するらしい。
パーティーのホームはとりあえず神殿を使うらしいが、まだ準備中。孤児院の手伝いをしながら少しずつ依頼を受けるような形で進めるらしい。
完全新生パーティーとしては衣食住が保証されているというのは安心材料だろう。
で、今回ミルテアさんを呼びにネムが走ったわけだが、妹弟子ということでシムカ嬢も連れてこられたと。
「私と交代で回復魔法で生命維持をするつもりだったからそんなに腕は悪くないのよ…ただ…」
ちょっと性格に難があるらしい。
「犯行の推移を説明するとまず賊がスライムを盗むために屋敷にの敷地に侵入した。
スライムたちは放し飼いだったから盗むのは簡単だったと思う。
そしてやつらがせっせとスライムを袋詰めている所にニアちゃんがやってきた」
ニアはうちのメイド見習いの女の子だ。
今回、けがをした女の子ね。
「ここで疑問があるわ。なぜニアちゃんがそんな時間にそんなところにいたか。
陰謀を疑いたくなるかもしれないけど、陰謀の可能性はないわ。
ニアちゃんはこの家のスライムたちをものすごくかわいがっていたから。
寝る前にスライムの様子を見に出たのよきっと」
『えっとですね、この子とニアちゃんは孤児院で知り合って結構仲がいいんですよ。
さっきまではニアちゃんが死んじゃう~とか言って。ぽろぽろ泣いてたんですよ』
「ミルテアさま、そういう情報はいいんです!」
「あら、ごめんなさい」
なるほど照れ隠しか。
「も~ん~だ~い~は! なんで犯人がスライムなどというありきたりの魔物を盗んだか。それなんですよ。スライムなんてため池に行けばいくらでもいるんですよ」
ふむ、どうやらこの子はうちのスライムが珍しい種類たと知らないらしい。
「それが分かれば犯人の特定も時間の問題です」
その通り、時間の問題です。
俺は町の中で魔力が高まる反応を感じた。
ティファリーゼの魔力反応だ。
スライムを盗む。というとよくわからんが『珍しい魔物を盗む』というとなんとなく犯人像が浮かんでくる。
可能性の問題だが『魔物の密売組織』の影が見え隠れしないか?
そして、もしそうならちび助の一件とも結びつくかも。
というのでティファリーゼにはスライムのにおいを追いかけてもらっていたのだ。
魔力が大きく膨れ上がったというのは目的地を特定できたということだ。
「じゃあちょっと行ってみようか」
「はい」
俺とネムは立ち上がった。
ふっふっふっ、待っていろよ幼女誘拐の人でなしども。目にもの見せてくれる!
■ ■ ■
「えっ、ちょっと待って?」
「何ですかいきなり」
「まだ犯人とかわかって」
「あれ? なんで」
迷探偵は別の機会に活躍してくれ。
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