第103話 神話

第103話 神話


 人間じゃない…とか言われても…あっ、ちょっと心当たりあるかも。

 いや、人間じゃないというか、人間からはみ出しているというかね。


 龍といって思い出すのは〝あいつ〟のことだ。


 俺は半年もの間あそこで、あの閉鎖空間でほぼ魔力だけで生命を維持してきたんだ。

 これって考えてみたら人間のやることじゃないよね。


 まあ、極端に魔力濃度の高い閉鎖空間という特殊な環境であったからできたことだと思うけど、言ってみれば霞で生きる仙人みたいなものといえる。


 もう飲まず食わずで生きていられたんだからかなり人外だろう。


 外に出て普通にご飯食べないとおなかすくようになって元に戻ったつもりでいたが影響は残っているのかもしれないな。


 それに古龍に似ているって言った。

 竜ではなく龍だ。


 もう一度言う。

 俺の中で龍と言うと〝あいつ〟になるわけだが、それに加えて古龍。

 うーん、そもそも古龍って何だろう?


 この世界に竜がいるというのは知っているけど、竜ね、つまりドラゴン。

 でも見たことがあるのはワイバーンぐらいだし。あれは龍ではないと思う。

 まあ、聞いてみればいいか。


「一つ聞きたいんだが、龍、古龍というのはどういうものなんだろう?」


「ふむ、古龍かい、みんな忘れちまったのかねえ…」


 しみじみ呟くイアハート。

 すみません。忘れたんじゃなくてそもそも知らないですよ。


「ずいぶん古い話になるんだがね…」


 そう言うとイアハートは語りだした。

 できればさらっとお願い、あまり時間がないしね?


 というわけで要約するとワイバーンは本当の竜ではないらしい。あれは亜竜。行ってみればトカゲだ。爬虫類だ。

 ドラゴンというのはあれとは別に存在しているようだ。


 驚いたことにティファリーゼはドラゴンの一種らしい。

 まだ若い地竜の一種。

 それで分かるようにドラゴンというのはかなり強力な生き物・・・であるという。


 そんで古龍というのは生き物とはちょっと違って『精霊』の様な存在ものらしい。


「昔、源理の獣というのがいてね、世界の始まりとして生まれた存在ものだそうだよ」


 この世界の始まりに一匹の獣があった。

 形の定まらない自由な存在。

 世界が混沌の塊であった時、純粋な始まりの力として存在していたそうだ。


 それは混沌の塊であった世界の中を縦横に駆け巡り、世界を掻きまわし、世界はそれによって形を得たという。


 まあ、ごちゃっとした何かの塊を掻きまわしてコネコネしているうちに海だの山だの空だのができた。そんなイメージだ。


 〝それ〟は根源なりし力であったのだ。


 〝それ〟のまき散らす力と世界のあれやこれやが混ざり合っていろいろなものが生まれた。最初が『古龍』だった。


 古龍は〝それ〟とともに世界中を飛び回り世界を掻きまわす。


 世界の最初は荒れ狂う混沌とそこを飛び回り世界を砕き再構築する〝それ〟と〝古龍〟の世界だった。


 世界が整うと世界に満たされた力からまた大いなるものが生まれた。

 それが…


「神々じゃった」


 イアハートの声が殷々と世界に広がっていったような気がした。

 マジか…


 古龍は混沌の性質を持った精霊として生まれ、神々は秩序の性質を持った精霊として生まれた。


 そして世界からは〝それ〟や〝古龍〟や〝神々〟の力を受けていろいろな生き物が生まれたという。

 これが今いる生命体の原型になる。


 神々と世界の子として人間やエルフやドワーフが生まれ、古龍と世界の子として竜族が生まれた。


 これが世界の始まりだそうだ。


「むむむっ」


 この話に出てくる〝それ〟って〝あいつ〟だよね。

 で、あいつの力が凝って生まれたのが古龍。


 うーん、これって絶対源理力バースト関係あるよね…


 〝あいつ〟の力が暴発してあの地下空洞にその力が充満した。

 そのせいで俺は何か変質したらしいというのまでは分かっている。


 であれば古龍と俺が似ているのは当然かもしれない。


 じゃあ俺は正直なところ何なのか?

 それが問題だが、これはわかんないよね。

 人間であることも間違いない。人間というより地球人か。

 話を聞く限り古龍の性質を持っていることも…どうやら間違いないみたいだ。


「う~~~~む。わからんからいいか」


「うひょひょひょっ、お前さんおもしろいの。さすが・・・・」


 思いがけず世界の誕生神話が聞けたな。


「まあ、儂も数千年しか生きとらんから実際見た話というわけではないんだけどね」


 まあ、そりゃそうでしょ。


「しかし、そうですか、魔物というのもそうして生まれたんですね…」


「いや、魔物は違うの」


 ありゃ。


「いや、違うのもいるというべきかの、今となってはいろいろ混じってはっきりとした区別は難しいんじゃがね。

 魔物というのは大昔に栄えた魔法文明の末期にいきなり発生したもんなんじゃよ。

 それまで世界の力というのは滞りなく流れ続けていたんじゃか、あの時、いきなりそれがうまくいかなくなって、力が地上にあふれだしたり、地中でよどみを作ったりといろいろ不都合が起きてね。

 そのすぐあとさ、魔物と呼ばれる存在が湧き出すように出てきたのは…」


 ほう、これも思い当たるところのある話だ。

 ちょっと興味があるかな…

 ロマンのにおいがする。『私とっても気になります』といった感じだ。


 でもこの世界じゃググっても意味ないしね。

 そんなことをしているうちに準備が完了した。

 であれば動かないといけない。


「さて、準備をできたようですからそろそろ行きます。

 早い方がいいでしょうし」


「そうだね、ラウニーのことを頼むよ」


「ええ、全力で、かわいいは正義です。

 ああ、あと、もしよかったらこの魔法道具の作り方教えてください。

 刻印自体はできそうなので」


 俺はとりあえず頼んでみる。


「ああ、だったらこの本を持っていきな」


 思いがけない返事。

 本をもらっても…


「この本は古代の王国で作られた本で、魔道具に使う術式が記されたもんさね。

 本物の魔導書なのでたぶんあんたなら読めるだろう。

 そう言う本だからね。

 あたしもこれで勉強したのさ」


「おおー、ありがとうございます」


 俺は分厚い、そしてやたら立派な装丁の本を受け取った。

 そしたらやっぱり魔力が流れてアクセスできるようになったみたいだ。

 これなら読めるだろう。

 ありがたい。

 俺はもう一度礼を言ってその場を後にする。


 鬼娘とか蜘蛛娘とかくれぐれもラウニーを…といって手を握られた。

 愛されてるなちび助。


 待ってろよ、今行くからな。


 俺は座ったまま落ち着いて動かないティファリーゼの襟首をつかんで歩き出した。


「ななっ、なにを!」


「いや、お前も来るんだろ?」


「私はダメです。あとで行きます。

 いえ、それこそすぐに行きます。走っていきます。

 全力です。きっと明日には着きます」


「いやいや、気にすんなよ。どうせ行くんなら俺が運んだ方が速いって」


 ずるずると引きずっていく。


「いやあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ」


 空飛ぶのってそんなにいやか?

 しかも後ろからご愁傷様~。とか聞こえてきたし。

 失礼だな。


「さあ、行くぞ」


「いぎゃあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁぁぁっ」


 再びティファリーゼの悲鳴が暮れなずむ空に響き渡った。

 緊急事態だからな。犠牲はつきものなのだ。

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