第101話 天翔ける裂爪イアハート②

第101話 天翔ける裂爪イアハート②


 ズドドドドドン!


 と直撃。


「あれ? 全然躱さない?」


 やってしまったかな? と心配になる。

 そもそも話しを聞きに来たんだ。まともに攻撃してはダメだろう。

 怪我でもさせたら話にならない。


 そう思って焦るけどそれは杞憂だった。


 多弾頭型の魔光神槍はイアハートまで届かなかったのだ。


「防御力場かな?」


 おそらくそうなんだと思う。

 全身をくるむ透明の何かがあって、魔光神槍はすべてそれに退けられた。


 爆発の瞬間にその力場の表面に回路図のようなものが一瞬走っていくのが見えた。

 ちゃんとした術式にのっとった魔法なんだろう。


「よく見えなかったが…」


 俺はなぜかものすごく興味をひかれた。

 再び飛び上がり、今度は多弾頭型を個別に一発ずつ発射してみる。


 イアハートはミサイルが脅威にならないと踏んだのか、よけもせずにそのまま突っ込んできてすべて弾き返している。

 なんというかものすごい迫力だ。


「防御力が絶対ならこういうのもありだよね」


 敵の攻撃をすべて無視して吶喊する無敵モード。

 ゲームなんかやっているとこれが気持ちいいのよ。


 そして再びビームの洗礼。


 この魔族は風と電気を操る魔物らしい。

 ビームはものすごい高出力の電気、つまり雷みたいなやつを風を使って何かして加速して打ち出しているみたい。


 しかもその制御にさっきの防御力場が使われているみたいだ。

 こうなると防御力場というより術式で作られたバトルスーツ?


 俺はそれを観察しながらちょっと…いや、かなりショックを受けた。


 俺の防御力場は強力だ。

 斥力場ではじけるものははじき、それを超えてくるものは空間密度の均一化をもたらす力場が引き延ばして運動エネルギーであれ魔法の術式であれ壊して無効化してしまう。


 どういうことかというと風呂桶に一滴墨を垂らしたことを考えればいい。

 墨が攻撃でそこだけ密度が高い。

 だけど均一化が働くから一瞬でお風呂全体に均一に広がり、薄まって消えてしまう。


 そう言うものすごく強力な防御力場なんだ。


 これを抜こうとすれば薄まっても攻撃としての威力を無くさない大出力が必要になる。


 相手が200リットルの水でも同じ200リットルの墨をぶち込めばそれはやはり墨だろう。


 歪曲フィールドというやつはそういうやつなのだ。


 だがそれでも俺がやっているのは力任せのムリクリ技。

 空間構造に干渉するエネルギーをまとうことによって発生する力場であり、ようはエネルギーを大量にぶち込めば何とかなるという、はっきり言って何の芸もない力技ではあるのだ。


 なのにこの魔物、イアハートという魔族が展開している力場はそれ自体が術式になっていて、効率的に敵の攻撃を迎撃して、あまつさえ攻撃機能まで持っている。

 しかも積層型の術式で、その美しさは筆舌に尽くしがたい。


『負けた…』


 そう思った。

 いや、戦闘に負けたという意味ではないのだ。


 昔オタクをやっていたころ、ゲームやアニメを見て同じように『負けた』と思ったことがある。

 一言でいうと『こんなインパクトのあるキャラクターは俺には作れない!』という確信であったり。『こんな面白い話は俺には作れない』という限界を見る感覚だったりするんだけど、それと同じように負けたと思った。


 思わずがっくりと膝をついてしまいそうだった。


 そこに再び極太のビーム。


「いや、まけてなるか!」


 嫁がいるからね、こういう時は踏ん張らないと。

 あきらめるという選択肢はないのだ。


 俺は手を前にかざし、あえてビームを受け止めた。


 もちろん歪曲フィールドは仕事をしてくれる。

 ビームをばらして消してくれる。


 出力さえ上げればこんなもの。


 だけどそれじゃだめだ。


 俺は身にまとうエネルギーのうち、無駄になっている部分を集約して整えていく。


 エネルギーは力場を発生させるものだけど、逆に力場を作るとそれにふさわしいエネルギーの流れが起こるものらしい。


 その流れを明確にしていくのだ。

 集約するのだ。


 整えれらたエネルギーの流れはまるで電子回路のように腕に広がり、明確な魔力の流れは効率よく力場を作り出す。


 いつの間にか俺の両手にうっすらと力場で出来た小手のようなものが生まれていた。


「あぁあぁぁぁぁあ。これってあれだ!」


 昔〝あいつ〟が見せてくれた魔力の鎧。龍気鱗とか言ったっけ?


「そうかー…できないできないと思っていたけど、そもそもやり方があったのかーーー」


 なんか魔力、源理力を固めればできるようなつもりになってました。

 ごめんね。


「何をやってるんだい。頭がおかしいのかい?」


 俺が空中でのたうち回っていたからだね。

 イアハートが警戒して遠巻きにして見ていた。


 うん、俺だって空中で奇声を発しながら変な踊りを踊るやつには近づきたくないもんね。


「イアハート様――――――っ。

 それちがいますーーーーーっ」


 下から声がかけられた。


 ティファリーゼが復活したらしい。

 イアハートもキョトンとして首をひねっている。


 どうやらこれで終わりみたいだ。なんにせよ助かったぜ。


 にしても『それ』はないと思う。

 今度言葉の使い方を叩き込まないと…って、俺も自動通訳みたいな感じで言葉は分からなかったっけね。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る