第86話 大工さんをしてみた
第86話 大工さんをしてみた
「んだ、今度はここをこんな形に切るだよ」
俺はドワーフの職人さんの指示の通りに石の木を切断する。
石の木は極めて強固な木材で、ドワーフの職人さんでもそれなりに苦労するぐらいに硬い。
だが俺はスパッと行けるのだ。
石の木を魔力視で透かし見て、内部にイメージの板を思い描き、それに魔力を注いで実体化。すると石の木は見事にその境界面で分割される。複雑怪奇な形も全然OK。
これはドワーフの人たちに伝わる接ぎ木の技法、その形だそうだ。
立体パズルのような形に切り取られた木材同士ははめ込むとガッチリと組み合い、小動もしなくなる。
そうして何を作っているのかというとテントの代わりに使う…ログハウス? あるいは丸太の家? のようなものである。
前回テントでネムに結構苦労をさせたのでもう少し安心して眠れる環境を整えようと考えたのだ。
素材は前述の通り石の木、あのお風呂を作った残りだ。
ただこの木は直径が三m、いや、一番太いところをお風呂にしてしまったから三m弱しかない。
これだとさすがに手狭なのでどうしようかと考えた結果、カンゴームさんの紹介で木工細工に精通したドワーフの人を紹介してもらったのだ。
報酬は残りの石の木を材木として譲ること。
ドワーフってお金だと大金とるくせに素材なんかの現物支給だとすごく気前が良くなるんだよね。
で、そのドワーフの人、『ギベオン』さんという。
ドワーフ大工の棟梁さんだ。
位階としてはカンゴームさんの弟子世代だが、発想が柔軟でこの町では新進気鋭の木造建築家として注目を集めている人だった。
このレベルの人になると石の木も加工できるらしく、その技量はまさに職人。感心しきりなのだが、お風呂を見て俺が石の木の切断ができるとわかったら、こき使われることになった。
ギベオンさんにしても正式な依頼というよりは趣味と実益を兼ねたお遊びに近いものなので毎日ではなく、飛び飛びだが、それでも二週間もかけると結構形になってくる。
形は丸太みっつを集めて縛ったような形で上から見ると某有名ネズミの頭のシルエットのような形になる。
その作品やいかにというとこれがすごい。
床は組み木のようにして作られたものなのだが、厚くガッチリとして平らでまるで一枚の板のようになっている。
床が広くなったので壁も厚くでき、なんと壁の厚さ十五cm。
石の木はコンクリートよりも硬いのでほとんど要塞である。
室内の高さは二mぐらいで普通の部屋と同じぐらい。室内から見ると直径二、五mぐらいの丸い空間が三つ配置された構造で、テントと考えれば十分すぎる大きさだ。
で、こんな大きなもの、ちゃんとおけるのかという問題がある。地面は平らではないのだ。
ギベオンさんもそれを気にしたが心配ない。力技で解決する。
どうするかというと三つの部屋の下にぶっとい杭を取り付けたのだ。
三本の杭を、床がまっすぐになるように地面にさせば安定する。ということだ。
三点で支えるのが最もバランスがとりやすい。
具体的には俺が権能でこの家を持ち上げて、そのまま地面にさせばいい。
なんて簡単!
力技もいいところだね。
さて、器だけでは家としては未完成。入り口も窓も必要だ。
入り口も安定の職人技だった。分厚い観音開きの扉で、ちょっと小さ目の、まるで金庫のような段差のある扉。内側から閂をかけるとちょっとやそっとじゃ開かない壊れない。
壁を組み木するときに一緒に組み込まれているものだ。窓もしかり。
窓はというとこの世界でショーウィンドウなんかに使われる晶板を利用することになった。
一番外に木をくり抜いて作った格子があり、その内側にスライド式の晶板をつける。晶板を開ければ風が入るし、晶板を締めれば光は入るが風はいらない。
さらにその内側には観音開きの板戸。これを締めれば光も遮る。夜、外を見たくないときなんかは便利。
「こりゃあもう、家といってもいいんでないか?」
ギベオンさんが言うが、これはまあネタだ。実際魔境での使用が念頭に置かれているので室内に台所などはないのだ。煙突がつけられないからね。
その手の生活活動は明るいうちに外でやるしかない。それでもこの厚みの石の木の家なら狼はもちろんでっかい猪も牛もまず問題なく防げるのでかなり安全性がたかい。
おかげてあの嫌なにおいの魔物除けにネムが苦しむこともない。
素晴らしいことだ。
一先ず完成した石の木の家をしまうぞう君にしまい。約束通り石の木の残りをある程度の材木に加工してギベオンさんに渡して一段落。
うーん、ちょっと時間が空いたからギルドでも行くか。
「ね~…いかん、いないのだった」
今日は作業日の予定だったからネムはシアさんたちと買い物に出ているのだった。
まあ、いいか、一人でギルドに行こう。
俺はセバス達に声をかけて家を出た。
◆・◆・◆
「やあ、買取、お願い」
「ああ、マリオンさん、いらっしゃい。ものは何ですか?」
俺は買取専用のカウンターに行って、買取を依頼する。
冒険者というのは素材回収の依頼を受けて魔物狩りに行くのだと思っていたが、この町ではあまりそういう依頼はない。
薬草なんかはあるんだよね、あれは鮮度が命で季節ものだから。
だけどお肉は人口が多いために常時依頼のようになっていて、基本的に相場で変動する仕組みになっている。
まあ、一角ウサギやハムハムネズミなんかはよく取れるので固定相場らしいけど、それ以外は季節や仕入れなんかで上下するのが普通だ。
では依頼がまったくないかというとそうでもない。
先日聞いたパーティー用のごちそう依頼とか、肉ではなくほかの素材が欲しくて依頼を出す人というのはたまにいる。
だけどこれを依頼として受ける人ってあまりいないんだよね。
冒険者は自分の得意な狩場で狩りをしてその獲物を持ち込み、その際に依頼に引っかかるものがあればその場で依頼を受けた形にして処理してもらうのが普通らしい。
つまりピンポイントであれが欲しいこれが欲しいというのはあまりせずに、入荷するもので回している感じなんだな。
で俺が今回持ち込むのは…
「岩猪じゃないですか、大物ですね。しかもこれ依頼が出てますよ」
「ふむ、どのぐらいです?」
ここ重要。
岩猪は完品でギルドの買取だと一頭当たり五金貨から一〇金貨ぐらいはする。
二mもある大きな猪で、岩のように固い皮膚を持っているのがその名前の由来なんだが、猪なので当然食べられる。
しかも結構おいしいのだ。
そしてこの猪、革鎧の素材としてその皮が売れる。まあこちらはあまり高くない。革の分だけと考えると一金貨ぐらいか?
「えっとですね、皮の買取で、三金貨ですね」
「おお、結構張り込んでるね」
「ええ、すでに買い手がついているんでしょうね」
革鎧というのは安いもので銀貨数枚。高いものだと金貨一〇枚ぐらいが相場だ。
あっ、ドラゴンの革とかだともっととんでもない値段になるからあくまでも普通に売っている物という話ね。
岩猪の革はその皮骨が装甲版にも使えるので一式で五金貨ぐらいするらしい。仕入れは半分ぐらいだろう。
三金貨払うというのはよほど気前のいい客を事前に捕まえたのだろう。
「えっと革が三金貨、これは依頼として、お肉が八金貨ですね。余計な傷もないですし血抜きもいい感じで出来てます。締めて十一金貨でどうですか?」
「もちろんいいですよ」
これは解体費用やギルトの取り分を引いた金額だ。文句なし。
「じゃあ処理してきますからちょっと待ってください」
お金は基本的に金庫の中だ。
伝票を持って行って金庫番に出してもらわないといけないのだ。ちょっとかかる。
で待っていたらギルドの人が声をかけてきた。
「やあ、マリオン君、ちょうどよかった。話があったんだよ」
なんでしょうか?
ちょっと真面目そうな顔。
こういうのってちょっとドキドキする小市民な私。
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