第73話 閑話 その後の幼女 魔石

第73話 閑話 その後の幼女 魔石


「さあ、あいつがいないのは分かってるんだ。おとなしくその魔石をよこせ」


 オーク魔族がにやにやと笑いながらラウニーににじりった。

 その顔には絶対強者の余裕が浮かんでいた。

 ここにはこの豚より強いやつはいないので間違いではない。


 そしてあいつというのはもちろんティファリーゼのことだ。

 ティファリーゼはなくなってしまった焼肉のタレを買うために町に向かっていて現在ここにはいない。


 そして留守を頼まれた二人もいつもいつもそこにいるわけではない。

 まあ子守としては失格ではあるが。

 ラウニー最大のピンチであった。


 だが助けは意外なところからやってきた。


「なんてひどいことをするダー」

「そ、そうだぞ、こんな小さい子の物を盗もうなんて…ゆ、許されないんだな」


 後ろに控えていたバカ二人だった。

 本気で憤慨している。


「何言ってやがんだこの馬鹿どもは! 何のために毎度毎度肉を運んできたと思ってやがる!」


 当然の主張だった。だが…


「みんなで焼肉するためでーないの?」

「お、おいしかった」


「がああぁぁぁぁぁぁっ」


 オーク魔族は頭を掻きむしった。


「ちげーだろ! あのうまいたれを使い切らせて、ティファリーゼを人間の町に行かせて、そのすきにこのガキの魔石を奪うためだろうが!」


「あぎゃう゛~」


 ラウニーは怒った。

 ここ数日の焼肉パーティーで『実はこの人たちいい魔族ひと? なんて思っていたのだ。

 それが裏切られたのが悲しかった。


「ぎゃう!」


 なので攻撃した。

 豚の足に(しかし豚足ではない)思いきり噛みついた。


「いてー、何しやがる!」


 がつっと蹴り飛ばされるラウニー、だが下半身が蛇という体積の大きさに助けられて倒れるだけで済んだ。

 もし本当にただの子供だったら木にたたきつけられて大けがをしていただろう。


そこで怒ったのがバカ二人。


「なんてことをするダ!」

「こっ、この、人でなしなんだな」

「お、お前なんか豚だだ」


 魔族だからもともと人ではない。そして豚は正解だ。


 だが人道は心得ていた…のかもしれない。


 二人はラウニーに駆け寄ると彼女を助け起こし、鋭い視線でオーク魔族をにらみつける。


「あー、なんでこいつらはこんなに馬鹿なんだー」


 気持ちもわからなくもない。

 しかもここでラウニー側にさらなる援軍が!


「てめーらなにしてやがる」

「こんな小さい子に手を上げるなんて許せませんわ」


 オーガ魔族のロッキ。アラクネーのニーニセアだった。


 ロッキは飛び出すなり鳥魔族を殴り飛ばしてオーク魔族の方にふっ飛ばし、ニーニセアは蜘蛛の糸を使って馬鹿頭を縛って木につるし上げる。


「貴様ら! ティファがいないときに卑怯者め。ゆるさん」


 気を吐くロッキにオークと鳥頭は一気に頭に血が上った。


「いきなり攻撃してくるんなんてひどいだー。許せないだー」


「そうだ、許せん、力を合わせてぶっ飛ばすぞ」


「んだ。ぶっとばすだ」


 鳥頭は自分の立ち位置が変わったことに気が付いていない。

 それをみてオーク魔族はほくそ笑む。


『バカってのはほんとに御しやすいぜ』


 ちなみに馬鹿頭は。


「あはははははっ。まわっ、まわってるー。お…おもしろいの…」


 木につるされて喜んでいた。


「これだから馬鹿ってのはしょうもないんだ!」


「んだ、バカはしょうもないだ」


「お前が言うな」


 思わず激高するオーク魔族に同意する鳥魔族。ケタケタ笑い続ける馬鹿魔族。

 カオスだった。


 そして。


「まあいい、俺たちの目的はガキの持っている蒼い魔石だ。おいおまえ、高速で飛び回ってやつらを牽制しろ。

 その間に俺が魔石を奪う」


「わかっただ、任せるだよ」


 鳥頭はすでにさっきのことを忘れさっていた。


「よーし、いくだー」


 ずべーーーーっ


 そして飛び出そうとした鳥魔族は盛大につっころんだ。


「何してやがんだ!」

「いや、なんだべ、なんかに滑って…なんだこの丸っこい石は。まったく人の邪魔さして、こんなもの捨てて」


「あほかー!」


 オーク魔族は鳥魔族を頭をたたいた。


「あー、にーの」

(あー、お兄ちゃんの魔石)


 そしてラウニーも気づく。


 それはラウニーがいつも大事に首からさげていた魔石だった。

 さっきの大立ち回りで袋からこぼれ、落としてしまっていたのだ。


 だがオーク魔族は構わずにそれを拾う。


「てめえ返しやがれ」


 ロッキは取り戻そうと全身に力をみなぎらせて走り出すが、それを鳥頭が迎え撃つ。


「だめだ、兄貴が魔石を奪い取るまで邪魔はさせないだよー」


 全く状況を理解していなかった。

 だが以外なことにこいつの実力は本物だった。


 ビュンビュンと高速で飛び回り、鳥の体に人間風の剛腕。

 高速で繰り出されるムキムキパンチにロッキも苦戦をまぬかれない。


「ほれ、いまのうちだなやー、早く魔石をうばうだー」


 だがオーク魔族は。


「わははっ、なんたる幸運。日頃の行いがいいからだな」


 拾った魔石をしげしげと見つめる。

 そしてそのままひょいと口の中に。


「わーん」


 ラウニーが魔石を取り戻そうと飛び出しかけ、それをニーニセアが止める。

 これは実にいい判断だった。


「これを食えば俺もさらなる進化が可能になる。伝説の魔族になれるんだ…がははははっ」


 ガリッという音が響いた。

 そして次の瞬間。


 ズパアァァァァァァァァァァァァァン!


 でかい音が響き、オーク魔族の頭が消し飛んだ。



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