第72話 ワイバーン討伐作戦・決着

第72話 ワイバーン討伐作戦・決着


 その時俺はレールガンを用意しながら騎士たちの作戦行動を眺めていた。

 もちろん魔力視で。


 さすがに街までは届かないが、それでも何か見えないかと思ったのだ。

 そして遠くを探っているときに知覚範囲に騎士たちが入ってきた。


 右に左に乱れるように走る騎士たち。


 その後ろからついにワイバーンがやってくる。


『移動速度は話にならないか…』


 ラプトルの走行速度はかなり早い。

 時速でいえば六〇km/時とかは出ていると思う。

 それでものすごい精度でジグザク走行なんだからローリング族も真っ青だ。


 だがワイバーンはもっと早い。

 追いかけっこをした時の感覚でいえば一〇〇km/時は楽に出るはず。ひょっとしたら一五〇とか?


 飛んでいるから障害物がないし、しかもこいつは非常に細かく旋回できるんだ。

 非常識な生き物である。


 騎士たちが入り乱れながら走るのは狙いを絞らせないためだろう。他に方法もないと俺も思う。


 俺はしばらく騎士とワイバーンの攻防を手に汗握って眺めていた。


 ワイバーンのスタイルは昔の翼竜に似ているとおもう。

 プテラノドンとかのあれだ。

 違うところは頭が牙のある『竜』であること。尻尾が長く伸びていて、その先が妙にとがっているとこと。

 これは教わったが毒針であるらしい。

 そして翼の爪がちゃんとした物を摑めるかぎづめになっていることだろう。


 シッポを振り回して騎士を薙ぎ払おうとしたり、時折大きく息を吸いこんでブレスを吐こうとしたりする。

 ブレスは『ファイアブレス』だそうだ。


 そう言った攻撃動作を周囲を並走する騎士たちが弩をつかって、あるいは魔法を使って阻害して一丸となって逃げてくる。


 何か一つ歯車が狂えば被害はまぬかれない、そんな攻防だ。


 だが人間の集中力には限界がある。

 アクロバティックな曲芸走行も無限にはできない。


 何の加減だったのか、一人の騎士があわやつかまりそうになった。


『まずい』


 完全に騎士たちの応援団と化していた俺は思わず体が動いてしまう。

 左手に力が入り、小さく殴るような動作で。


 スポーツなんかを観戦しているとたまにあるあれだが、そしてそんなことに意味はないはずだったがワイバーンが頭を殴られたようによろめいた。


「あり?」


 うん、なんとなくわかった。『重力制御点』だな。

 ワイバーンを『ぶんなぐりたい』という意志に反応して重力制御点が発生して斥力場をたたきつけたみたいだ。


 これってこんなに離れててもいけるんだ…

 びっくり。


 だがいいことを発見したものだ。


 そのあとは引力で引っ張ったり、斥力で押しのけたりして騎士たちをサポート。

 自分も一緒に参加している気分だ面白かった。

 重力制御点も思った以上にいろいろできるみたいだ。


「そろそろ来ましたよ」


 ロッテン師の言葉で我に返る。というか意識がここに戻ってきた。

 騎士の姿もワイバーンもすでに肉眼で見えるようになっていた。


 俺は魔力投射砲を担ぎ、構え、狙いをつける。

 これは古代の兵器なので使い方は地球のそれに近いのではないだろうか?


 姿勢制御で安定させ、照準レティクルで狙いをつける。

かなり電子的…ではなく魔法的にサポートが入っているのだ。


 用意した砲弾がセットされ、加速位置に送られ発射の時を待っている。


 そしてワイバーンに注視する。


「思ったよりも低空飛行ですね。発射のタイミングは任せます」


 打ち落とすのが早いと突撃役の騎士たちがたどり着くまでに時間がかかり、反撃が想定され危険だろうと予測されている。

 だが遅ければ今度は打ち落としたワイバーンが騎士たちの中に転げ落ちる可能性もありこれも危険。


「ふっ、そんなもの任せないでください」


 こういう時には『あー、平社員がうらやましい』とか思うんだよね。

 だって他人に判断を任せて自分は動くだけでいいんだから。

 だけど地位が上がると今度は部下が判断をゆだねてくる。


「ほんと、決断ほど他人に任せたい仕事はないよね」


「それが分かっていれば、なかなかに大丈夫ですよ」


 簡単に言ってくれる。

 だがなんとかできるだろう。


 ワイバーンとか騎士とか、魔力視で見ているとその体を包む力の流れがなんとなく見えるのだ。

 どの方向にどれぐらいの力がかかっているのか。どんな流れを指向しているのか。


 ぼんやりとだけどワイバーンが落ちたときに転がる力もなんとなく計算できる。

 もちろんボールとかではないし、タイヤもついていないのでまっすぐなどありえないが…それでもなんとなく。


 そしてその時が来た。


 俺はわざと遅めに引き金を引いた。

 それでも目標地点の数十メートルは先だ。


 魔力投射砲に力が流れ、その砲口からゴルディオンの砲弾が一直線に吐き出される。


 まず最初は光だ。

 砲弾の奇跡が白熱した一条の光となって目に焼き付く。

 それにほんの僅か遅れてビリビリと振動がやってくる。


 弾速はおそらくマッハ二〇ぐらいのはずだからソニックブームは発生しているはず。思ったより小さいのは飛翔体が小さいからか、あるいは魔法的な何かか…


 だが魔力投射砲は正確に期待に応えてくれた。


 引き起こし気味のワイバンの胸を貫き、背中に血の華を咲かせたのだ。


「!・・・・・・・・・・・・・・・・・・」


 声にならない声が大気をふるわせた。


 騎士たちが散開し、ワイバーンが墜落して転げてくる。


「いけません。遅すぎた。このままでは」


 このままではワイバーンは森にまで、つまり隠れている騎士たちのところまで突っ込んでしまうように見える。

 だが実は狙っていたのだ。


「大丈夫」


 地面に設置した重力制御点がワイバーンを強力に引き留める。

 地面に強くバウンドし、急速に速度を落とすワイバーン。


 グヌアァァァァァアァァァッ!


 森からちょうどいい距離の平地でたたきつけられるように止まったワイバーン。


 そして森に号令が響いた。


「全軍突撃!!」


「「「「「「「「「うおぉぉぉぉぉぉ!!!」」」」」」」」」


 森の中から重装備の騎士たちがはじかれたように飛び出してきてワイバーンに群がる。


 これは勝ったな。


「まだまだ予断は許されませんよ」


 胸をなでおろす俺の耳にロッテン師の言葉が不吉に響いた。


 ◆・◆・◆


 ロッテン師の言葉はまるで予言のようにその後の戦闘の難しさを言い当てていた。

 ワイバーンの傷は致命傷のように見える。

 着弾した胸上部にはふさわしい穴が開いているし、砲弾が抜けた後ろは大きくえぐれている。まるで体内で爆弾がさく裂したような感じだ。


 だが残念ながらそれでおとなしく死んでくれるようなかわいいやつではなかったのだ。


 翼手の片側は動かないようだがもう片方と尻尾を振り回し群がる騎士たちを蹴散らしている。


 対する騎士たちは基本的に槍を使っている。

 投槍というのだろうか重量のある槍をぶんぶん投げつけ、ワイバーンが怯むと長槍を構えた騎兵がラプトルを使って全力で突撃する。


 全身を細かいうろこでおおわれたワイバーンだがこれらの攻撃は有効なようでそのダメージをじりじりと増やしていった。


 できれは俺も参加したかったのだがそれはできない。

 よそ者が躍り込んでワイバーンを切り倒したりすれば騎士の面目的なものがまずいことになるようだし、じゃあ魔力投射砲で援護射撃…なんてのも威力的にできない。

 味方に被害が出ちゃうよ。的な意味でね。


「結構被害が出ていますね…この後、謎の回復士として活躍してみますか?」


「あー…そういうのもありかもしれません…」


 けが人とか結構出ているし、先日ロッテン師直属の回復士みたいな触れ込みで活躍してしまったから…

 ロッテン師の弟子で回復魔法が得意。という感じで少し名前を売ってみるか?


 …ありだな。

 このまま参加を…と思ったので相談して謎の『砲撃手』はいつの間にか退場したことにする。


「まあ、これほど大掛かりな宝具を使ったんですからね。魔力切れで下がったというのも納得のいく流れでしょう」


 なのでこそこそと退場して普通に着替えて今度は回復魔法を使う役回りに参加。

 騎士団の回復士も神官さんたちも冒険者の回復士もけが人の治療に当たっている。

 それに紛れ込んで回復魔法を使うのだ。

 われながら結構役に立ったと思う。


 そんなことをやっているうちにワイバーンとの戦闘は終盤に差し掛かった。

 いかにしぶといとは言いながらすでに満身創痍。

 決定打はファイアブレスだったろう。


 苦し紛れに繰り出されたファイアーブレス。

 だが今ワイバーンは肺に大きな穴が開いているのだ。


 ワイバーンが大きく息を吸い込み、喉の奥で炎をコロコロと転がしている…そこまではよかったが、その炎が開いた穴からゴバッと噴き出したのだ。


 ギョエェェェェッ!


 それは断末魔だった。


 頭が落ちて地を打った。

 それと同時に剣や斧を装備した騎士が首に群がり、その首を叩き切る。


 多分活躍したやつなのだろう、数名の騎士が落とされた頭を掲げ、勝鬨を上げた。


「「「「「「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ」」」」」」」」


 とどろく歓声。なかなか様になっているね。


 どうやらこれで一件落着。となるようだ。

 あー、疲れた。

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