第55話 あいつの正体(笑)

 第55話 あいつの正体(笑)



「どうでした?」


 フレデリカさんの言葉にシオンさんとカンナさんが顔を見合わせる。


「すごいの一言ですね」

「これほど高性能の遠距離攻撃宝具はなかなかないですの」


 と、これは俺のライフルに対する評価だった。


 なんでこういうことになっているかというとフレデリカさんを信用することにしたからだ。間違いなく信用できそうな大人で、しかも地位がある。

 この地位というのが曲者かもしれないが、ネムは間違いなくフレデリカさんにとって孫のような存在であるようだし、俺も一応身内扱いしてくれている。


 誰がを信用いないといけないというのであれば、フレデリカさんは適任だろう。


 なので俺が持っている怪しい魔法道具いろいろを見せて相談に乗ってもらううことにした。


 スタンリングや精力回復リングなどは過去にも出てきたことはあるらしい。どちらもかなり高価なアイテムだ。

 まあ、宝具自体が効果なんだけどね。けた違いに。


 中にはうんともすんとも言わないものもあるわけだが、これもしかるべきところで高額で買い取ってくれるらしい。こちらは研究目的だな。


 そんな中フレデリカさんが特に興味を示したのが机、椅子、スタンドのセット。

 どこが宝具やねん。と思うかもしれないが何千年も全く劣化せずに存在し続けるのだから立派な宝具だという。言われてみればというやつだな。


 そしてそのデザインは公爵様をも魅了する優れものであったということだ。


 まあ、そこまで気に入ったのなら売ってもいいよ。自分で使うにはちょっとゴージャスすぎるし、もう一セットあるからね。


 ということでこれは売ることにしました。値段なんかはあとで応相談ということになった。普通の魔法道具と違ってこちらは稀有な能力は持ってない代わりにアンティークみたいな扱いで価値が難しいそうだ。俺にも当然そんなものは分からんのだよ。


 ほかに俺の持っているものでフレデリカさんたちが興味を示したのが『ライフル』だった。

 なんといってもかっこいいからな。え? 違う。そうですか。


 でこの評価試験をシオンさんたちとやったのだがその結果がかなり高かった。


 この世界にも遠距離攻撃の魔法道具というのはあるらしい。

 基本は弓の形をしているようだ。

 で話を聞く限りその能力はかなり高い。

 際限なく弓が射れたり、射る弓に魔法を付与したり、命中精度が桁外れだったりといろいろなタイプがある。

 そのどれもが素晴らしい武器だろう。だが…


「威力もかなりあります。それに連射性能がすごいです」

「射程も十分ですの。それに撃ちやすいですの」


 フルオートまでは見せなかったが三点バーストだけでも大したものだし、しかもやることは引き金を引くだけだ。

 引き金を引けばどこどこ撃てる。

 この評価は当然といえるだろう。


 まあ、『威力が高い』という評価はちょっと意外ではあったけどね。今まで結構効かない場面とかあったし。でも言われてみればホブゴブリン程度ならハチの巣にできるんだから威力が高いという評価もおかしくはないか。


 やはりこれも相応に目立ち、欲しがるものがいる宝具という判定だ。

 俺の手から離れて一定の条件を満たせば自動的にしまうぞう君の中に戻ってくるので盗まれる心配とかはないのだけどね。


「でもこれって、以前博物館で見た…勇者が作ったとかいう『モシンナガン』という武器に似ていませんか?」


「知らないですの」


 むむ、モシンナガンというのは…確か第一次大戦中にロシアで使われてたボトルアクションのライフルだった…かな?

 某ガンマニアがそんなことを言っていたような気が…しないこともない。

 シオンさんは知っているがカンナさんは知らないようだ。

 そして…


「確かルオダ公国の勇者だったかしら、自作して一時期話題になったと習ったわ。ただ性能は…」


 いまいちだったらしい。

 つまり昔の勇者でこの世界で銃器を作ろうとしたやつがいたということだ。そしてほとんど役に立たなかった。

 まあ、話に出てきた弓の魔法道具の方が強そうだものね。

 この時はただ、昔そんなこともあったよねというだけの話だった。

 

 さて、なんでこんなものをいろいろ持っているかについて疑問が生じるわけだが、俺はまたあの嘘ではないがほんととは遠い話をすることになった。


 助けてくれたやつの所にあった魔道具で、そこから旅立つときに目に付くものをもらってきた。という話だ。


「であればマリオン君を助けてくれたのは隠れ賢者さんかもしれないわね」


 そしてら『隠れ賢者』という新しい単語が出てきた。なにそれ?


「マリオン君もここではない世界から勇者さんとかが渡ってくるのは知っているでしょ?」


「はい、何でも異世界人という称号を持っているとか?」


 ここ重要。俺は持ってないよアピールだ。


「そうそう、この称号を持っているといろいろなスキルを割と容易に取得できるのね。しかも私たちにはない知識を持っていて…

 いろいろなものをこの世界にもたらしてくれるわ」


 そう、いいものも悪いものも。


 地球から来たものを来訪者おとないびとと呼ぶわけだ。

 そのうち武力で世界に貢献したものが勇者。知識や技術で世界に貢献したものが賢者と呼ばれる。まあ他にも聖女とかいろいろあるらしい。


 でこの人たち。別に召喚されたわけではなく、俺みたいにたまたま落っこちてくる人間なので、どこに出現するかわからないというのがある。


 『場』として強い力を持つ遺跡だとか、聖地だとか、そういう場所に現れるらしいのだが、どことは決まっておらず、結構その手のものも数があり、来たからすぐに保護というわけにはいかないようだ。

 なので保護されずに埋もれてしまう人もいたりする。


 で、もともとが異世界人は能力値が高いので、活躍することになる場合もあったりする。いつの間にか人の役に立つものを作って商人になっていたり、人知れず知識を広めたり、そんな感じだ。


 時が流れてからこういう人の功績が明らかになって、ああ、あの人は来訪者だったのか…みたいな流れがたまにある。

 こういうのを隠れ賢者などと呼ぶらしい。


 なんで賢者かというと勇者的な活動をすると大概目立つので隠れているのが難しいからだね。


 フレデリカさんは俺を助けた人がその隠れ賢者だったのではないか? と考えたようだ。


 であればいろいろな宝具を持っていても不思議はないし、自作の魔道具――この場合はライフル――を持っていても不思議はない。そういう能力を持った賢者であった。というだけの話だ。


「なるほど、そう考えるとつじつまが合いますね」


 うん、自分でびっくり。

 情報は不正確な方が大概面白くなるというのはこういうことか…


「そのかた亡くなったのよね」


「はい、最後に転移で俺をこの近くに送って…それで」


 嘘じゃないよ、いずれ復活するだけだ。


「本当に惜しい人を亡くしたわ、きっとうちの国で保護できていたら世界を大いに発展させてくれたでしょうに…」


 それはたぶんないな。


 しかし面白いところに話が着陸した。


「さて、そういう状況であれば私はあなたたちの役に立ってあげられると思うわ。

 特に権力者に対してね、私以上の権力者って国王ぐらいだし、国王だって私に好き勝手は言えないしね。

 宝具というのはとにかく目立つの。

 中にはどんなことをしても宝具を手に入れようという人もいるわね」


「ああー、まあそういう人もいるでしようね」


「暴力とかね。でもネムちゃんもかなり使えるし、ネムちゃん以上に使えるマリオン君ならある程度の対処はできると思うわ。

 でもまだ不十分かしらね。強くなりなさい。どんな力にも負けないぐらいにね」


 真剣な顔でフレデリカさんがいう。


 なるほど現状ではまだ強さが足りないということだ。

 確かに心配すれば切りがないんだよね。


「それまでは公爵家が後ろ盾になってあげるわ」


「いいんですかおば様」


「あらあら、いいのよ、よくないわけがないじゃない。マリオン君がいなかったら今頃は私のお葬式よ。その功績に報いるのに後ろ盾になるぐらいじゃ全然足りてないわ。任せなさい。

 それとあとは権力を振りかざす連中ね。

 そういう相手にこそ私は役に立つと思うわ。これをお持ちなさい」


 フレデリカさんは一枚のメダルをくれた。


 公爵家の家紋が彫られたメダルで後ろは真っ平つるつるだ。

 これに冒険者カードのように血を一滴たらしてその血で拇印を押すようにつるつる面に押し当てる。

 ネムにも一枚渡された。


「これは公爵家の身分保障メダルね。公爵家が身分を保証しますというその証。メダルを手に持てごらんなさい」


 言われたとおりにするとメダル公爵家の紋章が光で縁取られた。


「おおー、きれいだ」


「後ろには裏書が浮かんでいるはずよ」


 言われてメダルを返すと裏になんか文字が。

 まだ完ぺきには読めないが…


「コウ王国老公爵フレデリカ・ルーア・キルシュの名においてこのものの身分を保証する。と書かれています。下の小さい字は『このものの存在に疑義あるものキルシュ公爵家に問い合わせるように』となっていますね。

 その下はシリアルナンバーです」


 この国の文字で二文字。数字が六文字浮かんでいる。

 これも魔法道具の一種で正当な持ち主でないと光らないそうな。


「これがあれば下手な権力者は手を引くでしょう。うちと正面から喧嘩できる家なんてめったにないですからね」


 そういってフレデリカさんは笑った。

 実にありがたい話だ。


 暴力というか武力に関してはそれなりに自信を持っていた。回復力にも自信はあるしまあ、個人としては負けはないんじゃないかなと思う。

 だがネムを守ろうと思えば負けないではだめなのだろう。

 中にはあの魔物ぐらい強いやつとかもいるかもしれないし…


 だがそれ以上に権力は厄介だと思う。

 軍隊と戦争して、勝てるかと言われれば多分勝てる。だがそれをしたことに対する周囲の反応というものも難しい。

 だったら最初から権力者の力を利用する方が、できる方がいいのだ。


「でも、注意も必要よ。人前で不用意に宝具を見せびらかさない。でも必要な時はためらわない。それが肝要ね」


「「はい」」


 俺達は素直に返事をする。


「あと、しらばっくれるのも重要。収納の宝具は冒険者をするうえで使わないという選択肢はないと思うけど、私が使っていたこの、機能制限タイプ? そのように使うことはできると思うの」


 ふむふむ、つまり収納の宝具は使うとして、容量が制限されているように見せたり、時間停止機能がないように見せたりする。そうすれば宝具の希少性が幾分か下がるということか…新しい視点だ。


「最もこの手の宝具自体がかなり希少性が高いから目立つのは避けられませんけどね」


 キルシュ公爵領で確認できている収納の宝具の数は全部で二〇個ほどらしい。これは公爵家が把握しているだけでという意味で、ひょっとしたらもっとあるのかもしれないが、確実なのはこれだけ。

 つまり貴族ですら全員は持てないということだ。

 であればそれを使う以上。注目を集めるのは当然といえる。


 あとは盗まれる心配をしてくれているようだがこれもまず心配はない。

 俺以外には使えない宝具だし、しかも盗難防止用のガードシステムは起動させてある。盗もうと手を伸ばせばひどい目にあうだろう。


 これで当面は大丈夫だと思う。


 なんにせよフレデリカさんと知り合えたの僥倖だったな。ネムのおかげだ。


 後は少し方針を転換して実績を上げることも考えようか…

 目立つことが避けられないなら目立ってもいいようにするしかないだろう。


 フレデリカさんと話し込んでいるうちに晩飯の支度が完了した。

 素材はライフルの試し撃ちでしとめた草原鼠だ。ネズミといってもハムスタータイプのかわいいやつ。しかし体長は五〇cmから八〇cm。草原の地面の下に巣をつくり、集団で生活している。ものすごく大きくなったミーアキャット?

 

 もちろん食用可能で割とおいしいお肉だった。

 料理は草原鼠のたっぷり入ったあんかけ野菜炒め。

 それとおむすびだ。


 おむすびは俺が前の宿場で買い込んできたものだ。やはり収納を使わないというのはないな。


 そのあとは当然就寝。交代で見張りを立てて、あとはキャンピングカーの中でお休みである。

 明け方近くに潜り込んだがハチの巣のようなカプセルベッドは意外と寝心地が良かった。


 いずればこういうのも欲しいかも。


 やっぱ嫁さんをもらうと欲が出るな。

 それはたぶん良いことだ。

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