第54話 上位管理者と収納宝具

 第54話 上位管理者と収納宝具



 売値は金貨五〇〇枚。一個だよ一個。一個が五〇〇金貨である。

 ばら売りならもっと下がるらしいのだが同格の天然魔石が二つ。めったにない出物である。付加価値というやつだな。


 金貨一〇〇〇枚って一億? マジか…

 いきなりお金持ちになってしまった…

 すごいぞ私。俺の甲斐性か、はたまたネムちゃんがあげまんなのか!


 早速テストとして魔動車を走らせてみたが問題なく走る。それどころか。


「これは掘り出し物ですの。金貨五〇〇の価値はありますの」


 とカンナさんは言う。安定性も問題ないらしい。


 そして支払いは現金一括。

 金貨一千枚も持っているのか…


 さすがにおもてはないということで車の中で支払いになった。フレデリカさんが指輪から金貨の入った袋を出す。


「おお、収納の宝具」


「まあ公爵家ですからね」


 ならばと俺もしまうぞう君に金貨をしまう。

 金貨って重いんだよ。こんなのリュックサックに入れていくのは嫌。


 そしたらまたフレデリカさんたちが驚いた。


「それって…収納の宝具よね?」


「そうですよ」


「あらあらいろいろ驚かされるわね。それってめったにないのよ」


「そうらしいですね」


 一応危険物なのは知っているが、フレデリカさん自身も持っているし、信用できそうな偉い人だし、何よりもネムの家族(のようなもの)だ。

 基本的には隠し事は少なくしていく方向で考えている。

 誰も信じないで生きていくなんてできはしないのだから。


「気をつけなくちゃだめよ。それはすごく欲しがる人がいるの。とはいっても…」


「分かります分かります。冒険者なんてことをやっていれば、素材を、獲物を持ち帰ろうとすればこれを使わないという選択肢はないですものね。

 入れておいたものは痛まないから冒険者をやるなら圧倒的なアドバンテージで…す?」


 あれ? しゃべっているうちに空気が…


「マリオンちゃん。それってひょっとして時間停止機能が付いているのかしら?」


「え? ええ、収納した存在ものの劣化速度は選べますね。完全に停止もできますよ。本当にすごいですよね宝具って」


 俺の言葉を聞いてフレデリカさんは頭を手で押さえてふらふらと振った。

 なして?


「マリオンちゃん、それ、勘違い。

 そんな高性能の宝具聞いたことがないわ」


「えーっ、だってフレデリカさんの使っているものも同じようなものでしょ?」


「そんなわけないでしょ…」


 そういうとフレデリカさんは機能の説明をしてくれた。

 指輪型の収納宝具。容量は家一軒が丸々入るぐらい。

 劣化防止機能はついているが。入れたものが二倍から三倍ぐらい長持ちする感じ、つまり冷蔵庫ぐらいか?


 確かに俺の物に比べると性能が落ちる。


 容量に関しては俺の物はどの程度入るのかわからない。すでにかなりのものが入っていて、家一軒分ぐらいは使っていると思うのだが、使用領域は全体の一%未満と表示が出るだけだ。

 時間停止に関しても完全に停止させたいもの、普通に時間が流れていいものなどフォルダーごとに設定ができる。『停止』『通常』『倍速』から選択できるのだ。


 しかし同じ古代魔法王国の宝具でそんなに違うものだろうか?


 なのでちょっと借りて見せてもらった。そしたら…


【所有者・ヨーリアス・ケケラーネス】

【現在機能制限モードで貸与中・借人=ゲストさん】


 メニューが開いてしまった。


『当機は一般家庭向け収納リング。【しまっちんぐ3号】です。

 最後に所有者権限が更新されて3,753年が経過しています。前所有権は失効しています。

 それに伴い原始取得が可能です。希望する場合は所有者登録をしてください』 


 簡単に言うとそんなメッセージが出た。

 もう大昔の人のネーミングセンスにはいかなるつっこみもしないことにする。


 まあそれは置いておいて、仕様書を見る限りこれは俺のものと違って一般向けであるらしい。そのための魔力回路が無くても十全に使用できる様に作られている。

 ただ所有者の書き換えなどには魔力回路レベル6以上が必要とあった。


 よくわからないがオレなら書き換えができると言うことのようだ。


 そして正式な持ち主になれば機能制限が解除されて時間停止機能も解放されるし、容量も大きくなる。


 そしてその際、この人が個人的に持っていたアイテムは俺の収納に移管されるらしい。

 つまり俺の持っているヤツは件の魔力回路レベル6以上でないと使えない上級仕様の宝具であるようだ。


「どうかしたの?」


 俺が虚空を睨んでいるので心配になったのだろうフレデリカさんがのぞき込んでくる。

 まあ、知らん顔もできないよね。


 俺はメニュー画面を操作して所有者を削除する。


 そして登録モードにしてフレデリカさんに指輪を帰した。俺が指にはめる形で、だってそういう仕様なんだもの。

 しかも左手の薬指。

 まあ、昨日ネムにピロートークで聞いた限りではこの世界にはエンゲージリングの習慣は無いようなので深い意味にはならない。


 そして指輪をはめられた瞬間、フレデリカさんはびくんとなった。


「ええー、何これ?」


「あー、魔力操作が一定以上のレベルで、しかも何らかの宝具を持った人間が手にすると仕様制限が外れるようになっていたみたいですね。

 えっと読めますか?」


「ええ、読めるわ、良く読める」


 いま、フレデリカさんの目にはメニュー画面が見えているのだ。文字に関しては使う人に読める文字で見える様だな。

 と言う事は文字でなく情報が送られているわけか?


 他のメンバーも寄ってくるが彼等にはみえていないようだ。俺以外には。

 俺にはしまうぞう君のディスプレイ上に同じ内容が表示されている。

 つまり上位管理者権限があるということらしい。


「じゃあ順繰りやっていきましょうか」


 吃驚しているフレデリカさんに説明しながら登録を進めてしまう。

 まずは名前の入力。

 既に魔力パターンは登録されたというメッセージが出ているので、名前はIDだろう。パスワード無し。というかおそらく生体認証。


 フレデリカさんが名前を入力したことで彼女が正式な所有者になった。次は細かい設定だ。


「次はパーテーションですね」


「パーテーション?」


「えっと、この宝具は時間停止機能や本来の容量を使えるのはフレデリカさんだけになってます。これの主人がフレデリカさんになったということですね。

 ほかの人も使えますがその場合はフレデリカさんから借りたという形で機能が制限されます。

 今まで皆さんが使っていたのはこの機能制限モードということです」


「あらあら、そうだったのね」


 今までは所有者がいなかったから制限機能はお試しモードのような感じで使えていたようだ。

 これからはフレデリカさんが登録した『使用者権限』を持った人間にしか使えない。


「現在の制限モードは容量の5%が使用可能になっています。この宝具の本来の容量は今までの20倍になるわけですね。

 この貸出容量も30%まであげられます…ね」


 上位管理者権限で設定をいじりながらフレデリカさんに確認していく。

 フレデリカさんは貸出領域を30パーセントに設定した。最大だ。

 パーテーションは10%が三つで二つが時間停止、残り一つが通常時間に設定された。

 これにも飲み水領域やお財布機能はついていた。


 お金は現在の貨幣を設定。自由に出し入れできるようにした。

 俺のもそうだけどコインが際限なく手から湧いてくるのは手品みたいで面白い。


 後で面倒くさくならないようにできる設定はこの場でしてしまう方がいいだろう。


 次に決めるべきは使用者の登録。今までは誰でもそれを使えたがこれからは登録したものしか使えないようになる。


「そうねー、だったら取りあえずシオンとカンナでいいわね。後で追加もできるんでしょ?」


「ええ、できます…ね。メニュー・使用者登録と言うとこの画面になりますからそこで指輪に振れさせて、そうです、それでこの使用者登録しますか? Y/NからYを選べばいいです。そうです。それでシオンさんがこれを使えるようになります」


 これは期間設定かあって、最長三年、期間を延長するには期間内に再登録する必要がある。

 そして登録の際の接触は粘膜が望ましい。

 つまりフレデリカさんがメニューを開いた状態でフレデリカさんの指輪に口づけするわけだ。うーん、なんかかっこいい。


 続いてカンナさんが登録し、最後に継承者の登録。


「これはフレデリカさんが亡くなった後誰がこれを引き継ぐのかという話しですね。これをしておかないとフレデリカさんがいなくなった後、これはただの指輪になっちゃいます」


 この話しをしたら護衛の二人は気色ばんだ。フレデリカさんが死ぬと言うことは考えたくもないようだ。愛される主君なんだね。


「あらあら、そんな事ではダメよ、私ももう年ですもの、後何年も生きたりしないわ、心配してくれるのは嬉しいけど、現実逃避は悪ですよ」


 でた、年の功。


 継承者は孫にすると言うのでここにはいないために登録はできない。

 なのでフレデリカさんに使い方の練習をさせる。

 メニューの立ち上げから、各種設定まで。


 コンピューターみたいなものなので使いこなせるかな? と思ったのだが意外と簡単に使いこなして見せてくれた。

 確かにコンピュータのような画面は馴染みがないのだろうが思念や音声での制御というのはこの魔法のある世界では一般的で、かえって馴染みがあったようだ。

 かてて加えてフレデリカさんは頭が良く、何度が繰り返すうちにすっかり使い方を学習してしまった。

 おったまげーである。


 でもそれなりに時間を食ってしまったので今日は野宿。と言うか野営。

 でもキャンピングカーがあるから楽勝だ。

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