第36話 強大な敵、小さいけど…

 第36話 強大な敵、小さいけど…



「あー…なんだべこれ?」


 そこにいたのは奇怪な生き物だった。


 まず体はゴリラだ。小さ目で身長は一メートルぐらいだろう。

 だが頭は鳥だ。カラスに似ている。体に見合ったでかいカラス頭が、その無機質な目が俺をにらんでガーガーと奇怪な声を上げている。


 ゴリラの体には大きな翼が付いている。

 真っ黒なカラスの翼だ。

 腕は太く長く、剛腕というのがふさわしく。脚は逆に短くその指の爪は猛禽のように鋭くとがっている。


 あおむけで翼を地面に縫いつれられるような形になっているので動けないようだ。


「さすが異世界…しかしこういう吃驚出会い祭りはいらないな」


 幼女はwelcomeだった。あのピンクの豚もかわいかった。

 だがこれは全くかわいくない。


 肉食動物と考えてもライオンのようなカッコよさや、虎のような美しさがない。


『あほーーーーっ』


 ムカッ!


 パパパパパパパパパパパパパッ


 バカラスの声に思わずライフルを抜いて全力斉射してしまった。


 そして驚愕した。ほとんど効いていない。

 あのエルダーゴブリンとか言うやつですらけっこう皮膚を傷をつけられたのにこいつは全く平気だ。


 あまり強そうには見えなかったがどうやらこいつはかなり強力な魔物らしい。


 そう思って飛びのいた瞬間俺のいた場所に数本の槍が突き刺さった。


 その衝撃で俺の権能が切れ、重力から解き放たれた魔物が体勢を立て直し勢いよく飛び退る。

 そしてその間も同じ槍が間断なく生えて俺を襲ってくる。


 俺はとっさに声を上げた。


『キュアァァァァッ』


 声という音に乗せられた魔力が衝撃となって飛んでくる槍を迎え撃つ。

 細くて鋭くグネグネと自在に曲がり、自在に伸びる槍、まるでフレキシブルドリルだ。


 その本体は鋭い風の渦で出来ていて、柔らかいものなら簡単に切り裂いてしまうだろう鋭さがある。


 しかもその渦は細かい砂粒を巻き込んでいるのだ。

 硬いものならばこの砂粒が鑢のように削り取ってしまう。


 地面には簡単に穴が開き、岩はゴリゴリと削り取られている。


 俺の声はその砂塵の槍を粉々に打ち砕いた。

 打ち砕かれた砂塵の槍は即座に散って霧散してた。


 どうやら魔法のようなものらしい。


 しかしこの叫び声…使い勝手がいいな。


「うーん、これは【サイコボイス】とか…いや、何がサイコかわからん【ブラストボイス】?」


 いや、ボイスより『ロア』の方がいい?

 ネーミングはフィーリングだな。


「そうだ【破壊の咆哮ブラストロアー】にしよう」


 魔法は名前を付けて定義してやると使いやすくなる。

 俺はブラストロアーを薙ぐようにはなって砂塵槍を打ち砕く。


 気づけば魔物は太い木の枝にとまり、こちらを見下ろしながら敵意をむき出しにしていた。


「なんかすっごい恨まれている」


 やっぱあれか?

 幼女を狙っていて、俺に邪魔されたのが気に入らないのだろうか。

 そう考えれば運がいい。

 いち早くこいつの殺気に気が付いて重力制御点を飛ばしたらあおむけに落っこちて偶然動きを封じることができた。


 重力制御で地面に押し付けてしまえば拘束などたやすいと思ったが大間違いだ。

 あおむけで広げた翼を縫い付ける形でなかったらすぐに抜けられただろう。

 こいつは見た目に反してすごく強い。


「【魔光神槍】いけ!」


 俺は全力で光の槍を構築して全力で撃ち出した。


『げえぇぇぇぇぇっ!』


 同時に魔物の咆哮。

 

 それと同時に周囲の風が揺れた。

 チリチリする嫌な予感に俺は真上に


 俺が撃った魔光神槍が躱されて魔物の後ろにあった木を木っ端みじんに粉砕する。


 俺が感じた嫌な予感が俺のいた場所を通過して俺の後ろにあった木をずたずたに切り裂いた。


「何これ? これも魔法か…やっぱりこいつ魔法を使えるのか!」


 こいつの属性は風だな。そしてこういろいろと風を使った攻撃をしてくるということはこいつは魔法のような力を持った魔も魔物と考えていいだろう。

 俺のコレクションしている魔法には当然入っていないが、これは鎌鼬のような風の断層攻撃だと思う。


 しかも威力はなかなか、けっこうな大木が細切れになってしまった。


「うーん、こいつ、あのゴブリンよりも明らかに強いな」


 ちょっと逃げたくなるがこんなのを野放しにしてあのちび助が襲われたらたまらない。


「仕方ない、腹をくくるか」


『けえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!』


 怪鳥のごとき声とともにまたあの砂塵槍が発動する。

 四本の槍がミサイルのように空中を曲がりくねりながら進んでくる。


「よっ」


 俺はさらに後方に飛び退き、ほどほどの所で真下に移動する。

 かわす気満々だったのだがこの砂塵槍はかなり小回りが利くようで見事に追随してくる。


 ふむ。俺はそのまま右に左に…かなりの性能だ。


 そして俺もなかなかやる。


 いつの間にか上手に空を飛んでいる。

 いや、任意の方向に落下しているのだから『飛ぶ』っていうのか疑問だが、重力制御のおかげで慣性もあまり感じず、かなりぶん回せている。


 慣性の影響が低いということは急加速、急減速が自在ということで、空中で飛び回るのにこれほど便利なものもないだろう。


 どこまでやれるのか槍と追いかけっこ。


 そんなことをしていたら背後に怖気を感じだ。


 気が付けはそこにはカラスゴリラがいた。


 俺が槍と追いかけっこをしている隙をついて下から接近して来たらしい。


 魔力視の性能を考えれば気づけたはずなのに油断した。


 そしてそのまま振り回すようなパンチが飛んでくる。


 身長は一mぐらいだから見た目はちんまいのだが腕はそれなりに大きい。そしてその攻撃はかなり重かった。


 俺を包む重力場は攻撃に対して斥力場として機能する。

 距離が近づくほどに幾何級数的に増大する力はカラスゴリラの攻撃を俺に届かせはしなかったが、反発はどうしようもない。

フィールドごと俺を吹っ飛ばして見せた。


しかし慣性が弱いということは殴られてもダメージも小さくなるという作用もある。

 しかも慣性で吹っ飛ぶということもないから少し飛んだら空中で静止してしまった。


 何回転かしたからさかさまだけど、空中でピタッと。


「おおー、なんかオタク冥利に尽きるな」


 アニメの戦闘シーンみたいだ。


 あっ、いや、行けない。これは現実だ。ナメプなんてしている状況じゃない。


 何が起こったのかわからずにいるカラスゴリラ。

 この隙を逃してはいけない。


 俺は加速しカラスゴリラに急接近、そしてその顔面にこぶしを叩き込んだ。


『ゴーギャン!!』


 俺の体は重力場で包まれている。


 それは敵の攻撃力を減衰させ、自分の攻撃を加増する。

 もろに顔面に入ったパンチはそのままカラスゴリラを地面にたたきつけた。

 地面にたたきつけられ、そのまま跳ね返って木にたたきつけられるカラスゴリラ。


『グルオォォオッ、ギャーオス』


「あっ、怒ってる、スゲー怒ってる」


 怒り狂い地面を殴り、腕を振り回し、ドラミングをする。


 だがダメージは結構あったようだ。嘴に一部ひびが入っているし、顔にも傷がある。

 このまま押し切れるかな?


 ◆・◆・◆


 そんな風におもったときもありました。

 どんな生き物も切れると怖いね。


 翼があるということはもともと空を飛ぶということだ。

 つまり飛びなれている。


 つまり空中戦はちょっと不利だった。


 小さくて翼がでかいから早いし小回りが利く。

 しかもその矮躯から繰り出されるパンチは木を砕くほどの威力がある。


「やはり一日の長というのはバカにならないな」


 様相は完全に空中戦。俺はライフル構えて毎分一二〇〇発のビームを叩き込む。だがほとんどがよけられる。何発かは当たったが効果は期待していない。


 だがそれでいい、これは牽制だ。

 

 保有する魔力が強くて俺のフィールドと同じで防御力場を作っているのだ。

 だが目くらましにはなる。


 しかし魔法すげーとか思っていたが意外と使い道がない。

 もっと真剣に魔法の研究をしないとだめだと気が付いた。

 今使えるのは魔光神槍だけだ。


 弾幕を目くらましに魔光神槍を構築する。多弾頭型の蜘蛛の子ミサイルだ。


「いけ!」


 一本が二本、二本が四本、四本が八本。

 二本作ったからこれで十六本。


 弾幕に気を取られていたカラスゴリラが気が付いた時にはもう躱せない位置にまで迫っている。


 鳥の目がぎょろりと俺を見た。

 そして直撃。


 広がる爆炎。衝撃波。


「やったか?」


 言ってからしまったと思ったね。『それはフラグなのー』とか幻聴が聞こえた。

 やっぱり一日の長はすごい。

 そしてやはりこいつは強い。


 無茶苦茶な機動で神槍をあらかたかわし、爆炎を突き破って魔物が飛び出す。


『オノレニンゲン…アホー』


 こいつ喋れたのか! って言うかカラスか!

 いやカラスなんだけどね。


 突っ込みどころ満載の状況に対応が遅れた。

 カラスゴリラの足の爪がその隙をついて俺の左腕に!


 つかめば爪が食い込み、地球産のものでさえ人間の頭を握りつぶすものもいる。

 まして魔物においておや。

 

 俺の左腕が『グシャリ』『ぶつり』引きちぎられた!


 すっげー痛い!!


~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 

 年末年始は本当に忙しくてやっと休みになりました。

 あっ、年明けているよ。

 もっと小説ばかり書いて過ごしたいですけどね~。


 でも!


 新年あけましておめでとうございます。

 今年もよろしくお願いしますね。


 今回は36話、37話を投稿します。

 お楽しみください。

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