第35話 妖精に出会ったような話
■ マリオン。異世界に落っこちてきた。マリオンに改名する勢い。
■ 〝あいつ〟無限炉の中で会った存在。真理雄に魔法を伝授した。
■ ネム。獣族の女の子、ものすごい美少女。白虎の特徴を持つ
■ ミルテア・大地母神ステルアの神官。ハーフエルフ。ものすごい巨乳。司祭様。
■ ロイド。森であったハンター。体格のいい重剣士
■ リリ。森であったハンター。微妙に露出のおおい魔法使い。
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第35話 妖精に出会ったような話
まあ、なかなか手ごわい豚だった。
簡単ではなかった。
ライフルで狙うとシャッと逃げるんだもんこのピンクの子ブタ。
このピンクの子ブタは自分の周囲に安全圏を持っているのだと思う。
肉弾戦ならこの距離、遠距離攻撃ならこの距離。というのがあって、その範囲内に敵が入ると回避行動をとるのだ。
そしてそれはこのピンクの子ブタのにとって絶対に逃げられるという自信の範囲だ。
だがある程度離れるとライフルで狙っても逃げなくなる。
この距離が遠距離攻撃、つまり弓矢などで狙われた時の安全距離なのだろう。
だが俺が持っているのはライフルだ。
毎秒一二〇〇発の連射能力を持った銃。
正確なところは分からないがその連射速度が実現している以上、弾速はマッハで2以上はあるのではないだろうか?
弓矢と比較できる速度ではない。
しかも撃ちだされるのが粒子で、重力や障害物に影響されない。
今までの経験から減衰はしても減速や重力にひかれるようなことはないのだ。
ただ直進する超音速の粒子の矢。
そして正確に狙えるスコープもある。
ぴきーーーーっ。
結果として悲しげな鳴き声とともにピンクの子ブタはばたりと倒れて動かなくなった。
「きゃう~きゃう~♡」
幼女大喜び。
そしてハッピー子豚『はねつきピンク子豚の略』に思いっきりかぶりつく…はぐはぐ…が歯が通らない。
「きゃお~」
涙目で何かを訴えてくる幼女。かわいいやんけ。
「まあ仕方ないよ、野生動物の皮って硬いから」
「う゛う゛う゛っ…」
「はいはい泣かないよ、今解体してあげるからね」
謎ナイフですぱすぱ解体。
解体につかっているのにこのナイフには血の汚れも油も付かない。
本当に不思議なナイフだ。
解体練習の成果は…何とか出ているな。
肩ロース、ロース、ヒレ…と分けていって…あっ、ちび助がロースに噛みついた。
まぐまぐ。
「こらだーめ。待ってなさい。いま焼いてあげるから」
俺は手早く焚き火を起こし、ロース肉の塊を串に刺して火にかけた。
そして表面には焼き肉のためのタレを塗る。
焼けるまでに町で買ってきた野菜もセット。これにも軽くたれを塗って火にかける。
ここで魔力視鑑定の便利な使い方パート2!
葉っぱを鑑定すると…なんと、寄生中が判別できます。
農薬とか使われないから虫の卵とか偶に付いているんだよね。鑑定して吃驚したよ。
だが鑑定すればその手の異物も簡単に発見できる。後は洗えばいいのだ。
それに虫の卵とは言ってもあまり危険はないのかも知れない。ふつうの人達は気にせずに食べてるしね…でも俺はちゃんと洗う。
虫下しとか普通に売ってるんだよね…
現代の日本人にはちときつい。
さて、肉が焼けてきていいにおいが漂ってくる。だんだん食材が焼けてくる。
美味しそうな肉汁がぽたぽたとたれる。
さらに幼女のよだれもぽたぽたとたれる。
火の通ったところをそぎ落とすように切り取り、新鮮な葉野菜にくるんで幼女に渡す。
葉っぱに最初首をひねっていたが匂いをかいで、さんざん匂いをかいで大丈夫と思ったのかがぶりとかじって…
「うみゃーっ」
おお、幼女大興奮。
尻尾をぴったんぴったん地面に叩きつけて喜んでいる。
肉と野菜だけで炭水化物がないが…まあ、子供には肉だからな。
しばらくの間、俺はせっせと幼女に食べ物を貢いだ。
ある程度出来たらすぐ食べられる状態のものを並べてもうひとつの仕事をしよう。
さっき、肉が焼けるの待っている間、ちび助は何とライフルのマガジンに吸い付いていたのだ。ちょっとびっくりしました。
まあ、彼女の特性を考えるとマガジンの魔力を吸っていたということなのだろうけどね。
豚を撃った後、妙にこのライフルのマガジン周辺を気にしているから何かと思って預けてみたのだ。
そうしたらマガジンを口にくわえてチューチューと。
さっきも俺の魔力を吸ったら元気になったから、魔力も必要なものなんだと思う。
そして魔力というのは貯めておくことができる。
魔力を集めて編み上げて凝縮すると魔力の塊ができる。これが魔石だ。
魔物の体内で結晶化するのも理屈は同じらしい。
ただ零から作るのは難しいらしいのだが、もともとある魔石を起点にして魔力を集め圧縮すれば結構簡単に作れると教わった。
俺のライフルも理屈は同じだな。源理力が充満した環境であそこに力が集まってしまったからああなったのだ。
零からあのレベルまで行くのは驚異的だと思うけどね。
さて、ではどうするかというとここに一つの魔石があります。
「お化けの魔石~」
「ぎゃうわう~」
うむ、喜んでもらえたようだ。
この魔石に魔力を注ぐ。
魔力充填ではなく魔力を直接叩き込むのだ。なんなか違うらしい。
魔石を両手で包むように持って手のひらに魔力を集める。
自分の純粋な魔力だ。
コツは手のひらから溢れる魔力を握っておにぎりを作る感じだ。
とにかくこれ以上無理というところまでガンガン魔力を詰め込んでいく。
もうこれ以上入らないというところまで来たら今度は圧縮をかけて押し固める。これは手の力だけでは無理なので権能も使ってみる。
そして最終的に二センチぐらいにまで押し固めたら魔力はまん丸の石に変わった。
魔力も性質が変わっている。
もともとは黒だったのに今はきれいなコバルトブルーに輝く魔石だ。
よし。
「きゃーう」
幼女が喜んでとびかかるが果たして。
ちゅーちゅーちゅー。
「おお、うまくいったみたいだ」
少し吸うと口から話してけぷっとして、あとは楽しそうに魔石を眺めている。
うん、大丈夫そうだな。
じゃああとは革の小袋に入れて、そうだな、革ひもを上げようか。
俺は自分の冒険者証から革ひもを取り外して小袋に通し、首からかけられるようにした。
「いいかい、食べすぎはダメだよ。無理しないでね?」
「あいあ、うぃあ、きゅ~」
なんとなく言葉は通じているな。いいでしょ。
魔石の入った小袋を矯めつ眇めつしながら時折俺を見てにぱっと笑う幼女。
「うおおっ、可愛い」
「きゃーっ」
この世に子供ほどかわいいものはないよね。
感極まって抱きついて振り回したら大喜びだ。
うーん、良いね。子供は良いね。
あのまま地球にいたらこんな子供を持つ機会もあったんだろうか。
その後、木を削って櫛を作ってやったり、小さな木刀を作ってチャンバラしてみたり、またしばらく時間を忘れて遊んだ。
鰭はあれど、どうもこの幼女の下半身は蛇のような構造らしい。
良く動くし、したたかに走る。
ヒレがあると言う事は水陸両用かも知れないな。ひょっとして全地形対応型か? すげーぜ。
しばらく遊んでいると声が聞こえてきた。
ふぁ、とか、てぃ、とかそういう音だったと思う。
それを聞いたときに幼女がびくりと反応した。
ぴくんと起きて、嬉しそうに指さしてなにかを言っている。
なんとなく分かった。
お迎えが来たのだ。
この子の家族が迎えに来たのだろう。
ちょっと、いや、凄く寂しい。
だが子供は家族のところに帰らないとな。
「じゃあ、そろそろバイバイだね。最後にこれも持っていきなさい」
俺は布を出して解体したお肉を包む。まず大葉というすごくでっかくて柔らかい葉っぱにくるんでそれを布でくるむのだ。
ヒレとかの高級部は食べなかったから全部持たせてやろう。
そうだ、タレも入れてやろう。
「それはあげるからもっていきな」
「きゅあ。にゃ~、みゃみゃ~」
「ごめんな、一緒には行けないんだ。さあ、行きなさい」
しばらく名残惜しそうにしていた幼女だったが、もう一度彼女を呼ぶ声が聞こえて森の中に走っていった。
元気でな。
俺は魔力視で森の中に消えていく幼女を見つめる。
しばらく行くと女の人と合流した。
多分30才ぐらいの綺麗な、そして大人な雰囲気の人だ。
しっかり抱き合って。少し怒られて。そして手を引かれて森に帰っていった。
なにか一生懸命話している。楽しそうに話している。
種族の壁を越えて仲良きことは美しい。
まるで森の妖精に出会ったような出来事だった。
いやー、異世界グッジョブ。でもせつないなあ…
「さて、その気分を台無しにするバカは…と」
俺は違う方向の森に進んでいく。
そこには俺の権能、重力制御で地面に縫い付けられた魔物がいた。
途中からこいつがぎらぎら殺気を飛ばしてくるからあの子を送っていくことができなかったのだ。
きっと小さい子供は魔物にとって格好の餌だから。
だからこいつは仕留めないといけない。
「八つ当たりしてやるぞ」
正当な権利だ。
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