第25話 着火の魔法の真価と違和感


■ 鈴木真理雄。異世界に落っこちてきた。現在、異世界を探索中。

■ 〝あいつ〟無限炉の中で会った存在。真理雄に魔法を伝授した。

■ ネム。獣族の女の子、ものすごい美少女。白虎の特徴を持つ

■ ミルテア・大地母神ステルアの神官。ハーフエルフ。ものすごい巨乳。司祭様。


■ ロイド。重剣士、自分の身長と同じぐらいの剣を持つ。

■ リリ。ロイドにくっついている魔法士。お色気いっぱいのお姉さん。


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 第25話 着火の魔法の真価と違和感



 かくしてお風呂は完成した。

 バスタブがあって洗い場があってついたてがあって、小さい窓をつけてみた。外から見ると切り株の家のようで、中は白木のお風呂だ。なかなか良いとおもう。

 だが実の所はドラム缶風呂とかわりがない。

 これを風呂として使うにはまだまだごり押しが必要だ。


 まずは収納から水を出す。空中に浮かんだ魔法陣からシャラシャラとキューブ状の水があふれ出る。それは下に落ちるととたんにただの水に戻りバスタブにたまっていく。

 見た目がすっごく面白い。


「宝具のアイテム収納は始めて見ましたけど…すごいんですね…」


 少しなついてくれたネムちゃんが湧き出るキューブを楽しそうに眺めてそんな言葉を紡ぐ。ちょこんとしたしぐさがかわいい娘さんだ。


「うん、すごい便利だよね」


「ああ、いえそういう事じゃなくて…そういう事もなんですけど、ちゃんと使えるのがすごいなって…」


 この世界は古代の魔法王国の後裔でそれは間違いない。だが一度崩壊しているのでその技術水準は格段の差があるのだ。


 そしてこういう魔導具のオリジナル、つまり宝具は遺跡などからに偶に発掘させるものだ。それはものすごく高性能で壊れることもないのだが、一〇〇%使いこなせる人はやはり少ないらしい。 

 ネムちゃんも以前にこの収納の宝具というのを見たことがあるらしいのだが、こんなに高性能だとは思わなかったらしい。

 つまりネムちゃんが見た人は使えていなかった?


 だから平気でいろいろな機能を駆使する俺はちょっと異質に見える。と言う事らしい。

 これも少し情報を集めないといけない事だな。


「さて、水がたまったから…後は魔法で湧かせばいいんだよね」


 俺の前にはなみなみと綺麗な水をたたえた風呂桶がある。石の木は水にも強いとのことでしもる心配もない。良い感じだ。


「でも、魔法でお湯を沸かすのは~大変ですよ?」


 ミルテアさんがひょいとのぞき込んでくる。


「ひょっとしてあれですか?」


 ネムちゃんの頬が引きつっている。…ああ、あの火炎魔法を思い浮かべたのか。無理もないかもしれない。

 じゃあこの子たちなら魔法でお湯を沸かすさい、どういう方法をとるだろう?


「というわけでどうします?」


「えっと…ファイアショットを連続で打ち込むとかかしら?」


「ちょっとやってみてくれます?」


 いいですけど…そう言うとミルテアさんは呪文を唱えた。


【□□□・□□□□□□・□□・□□□□・ファイアショット!】


 うん、ちょっと呪文が長いな。


 ミルテアさんの胸のまえ辺りに火の玉が生まれ、それか二つ、三つと増えていく。そしてそれがお風呂(の水)に向かって飛んでいった。


 すぐには消えずに少しの間、水と攻防を繰り広げて…その後しずかに消滅する。

 水に手を入れると…少しだけ暖かくなったような気が…しないこともない。


 これはあれだな。ためた水をバーナーで直接あぶってわかそうとするようなものだ。ものすごく効率が悪い。

 他にお湯を沸かす魔法は思いつかないようだ。


「それはダメダメですね。でもこうすれば行けると思うんですよ?」


 俺は二人が見守る中、水に手をつっこみ【着火】の魔法を起動した。


 俺は魔力の直接制御で魔法を行使しているので呪文の詠唱などは必要なく、直接魔法を組み立てる。着火とはいっても同じではない。 

 一点に集中させることで効率を上げ、魔力消費を削減する構造を持つこれを、水全体に広げて、その分魔力を多く使う。


 俺の見る限り【着火】の魔法と【領域冷却】の魔法は実は同じ魔法だと思う。

 ただし作用が真逆になっている。

 どういうことかというとこの魔法の共通点は熱運動に対する干渉だということだ。


 この世の物質はしっかりと固まっているように見える『個体』であっても、ぶっちゃけ鉄の塊であっても分子が、そして原子が細かく振動している。

 これを熱運動というのだが、ぶっちゃけ『熱』というものはこの分子や原子の運動エネルギーのことをいうらしい。


 この運動を加速してやればそれは熱くなり、減速してやれば冷たくなる。

 これは当たり前の物理法則だ。


 これ以上減速できないところ、つまり熱運動が最低になった状態を絶対零度と呼ぶのだが、まあこれは今は良いか。

 

 この二つの魔法はこの熱運動に干渉し、加速、もしくは減速させる魔法なのだ。


 着火の魔法は対象のごくごく一部の熱運動を加速して発火温度を超えさせる魔法だといえる。

 なぜごく一部かというと全体を加速する必要がないからだな。火をつけるだけならほんの一箇所でいいのだ。


 逆にアイスフィールドは範囲を切ってその中に取り込まれた対象の熱運動を減速すると言う方法を採っている。

 物を冷やすにはその方が効率が良いからだ。


 では俺がやったように水全体を範囲としてその中の熱運動を加速してやるとどうなるか?


 少しすると水から湯気が立ち上ってきた。

 いや、もうお湯だな。

 手を突っ込むと少しぬるい、もう少し。もう少し… かき回して…


「よし、こんなものか」


「え? え? ええっ? なんですかそれ? なんなんですかその魔法?」


 クエスチョンマーク乱れ飛びです。


「着火の魔法ですよ…ちょっと手を加えました」


「「ええーーーーっ」」


「たっ、確かマリオン君ってイグニッションの魔法は使えなかったですよね」


「はい、見て憶えました」


「あのあの。呪文は? 呪文は? その」


「呪文は必要ありません、一度魔力のありようと動きを観測できれば魔法は再現できます」


「「えええーーーーーーーーーーっ」」


 ほぼパニック。


「できるんですよ? と言うか僕はそういう方法しか教わらなかったですよ?

 結局魔法と言うのは魔力にこうしなさい。と言う命令を伝えるものだから、それが出来れば方法は何でも良いんだそうです。

 この前ネムちゃんたちが魔法を使ったときにどんな魔法かは把握できましたから。その中から必要な要素を抜き出して組み立てればいい訳です」


 もっといってしまうと呪文というのは魔力操作ができない人のための『もの』なのだ。

 人間は魔力に直接意思を伝えられない。人間の意思を魔力が理解できないと考えればいい。だから理解できるかたちで命令を書いてやる。


 コンピューターで言うところのプログラム言語のように。


 これが呪文だ。

 そして触媒というのは入力装置のようなものだろう。


 魔力という存在ものに構築されたプログラムを発信する装置だ。

 魔法の杖とか、魔導書とかが多いらしいし、ミルテアさんは錫杖にもその機能があるみたいだし、ネムちゃんは簡単なものしか使わないので腰にアクセサリーのような形でリングを下げている。


 この入力装置と入力のためのプログラムがあれば誰でも魔法は使えるという理屈になる。


 だが魔力の直接制御が出来ればそんな事は必要ない、魔力にああしなさい、こうありなさいと指示を出すだけだ。

 言ってみれば本来難解きわまりないマシン語を使えるような物だろう。


 まあ、細かい指示が必要なので魔法として魔力が作用する際にどういうことが事が行われているのか知る必要はあるのだが…


「だから魔力制御なんですね…」


「そうそう、魔力制御さえできればどんな魔法も再現できると言うのが師匠の持論でね。そりゃ~もう徹底的に仕込まれたんですよ。

 まあおかけで簡単な魔法は観ただけで再現できる様になりました。

 ただこれにも欠点はあって、魔法の発動を確実なものにしようとすると、かなり繰り返し練習が必要なんですよ」


「なるほどですね…でもそうすると逆に呪文はちゃんと唱えさえすれば発動するわけで…これはこれで良いような気も…」


 うむ、理解が得られたようだ。


「じゃあ、おふろが冷めないうちにどうぞ」


「え? いいんですか?」


「勿論。僕なら冷めても簡単に沸かせるから僕が後の方が良いでしょ?」


「じゃあ~遠慮無く頂きますね~」


 と言うわけで俺は外側、壁に背中を預けて空を見る。


 お風呂からはキャッキャウフフで実に楽しそうな声が聞こえてくる。

 まあ、近くに男がいるせいか二人の話は当たり障りのないものだけど…


『ネムちゃんもだいぶオッパイ大きくなりましたね~』


『わっ、ミルテさんやめて下さい。嫌みですか? 掴みますよ』


『こら、どこ掴んでいるんですか~そこはだめなところですよ~』


 うーん、当たり障りはなくても障りはある会話だ。

 主に俺にとって。


 つい意識がそちらに向いてしまうと色々と見えてしまう。

 俺には魔力視があるから壁とか意味がないんだよね。

 ぷるんぷるんでぽよんぽよんだった。

 慌てて意識を逸らしたが二人とも女らしい素敵なスタイルだったね。

 

 さて、あまりそちらに意識を向けると理性が危なくなるのであえて空を見上げる。

 空には綺麗な月が浮かんでいる。


 双子の月だ。


 一昨日が満月だったそうだから今日は十七夜という感じかな。少しだけずれが見える。

 

 地球で見るスーパームーンぐらいの月が綺麗に並んで空に浮かんでいるのだ。


 横に並ぶのが年に二回。秋と春。前後に並んで蝕となるのが年に二回、夏至と冬至だそうだ。冬至は元日でもあるらしい。

 新年だよ。


 ついでに聞いたらこの国では一週間は八日間。四週間で一ヶ月。十二ヶ月で一年間だそうだ。

 つまり一年は三八四日間。これがこの国の暦だそうだ。


 ここは月の運行がかなりきっちりしているようで、前述の月の自転公転を元に割り出されたものらしい。

 つまり太陰太陽暦というヤツだな。

 六年に一回閏年はあるようだけどね。


 そんな月を見ながら俺は考える。

 ちょっとした違和感について。


 俺はなぜあの魔物『エルダーゴブリン』に戦いを挑んだのか?


 勿論彼女たちを助けるという目的はあった。


 まあそれで戦い始めてしまったから後に引けなくなったのだが、最初の段階ではあのまま二人を連れて逃げるという選択肢もあった。はずなのだ。


 だが気が付けは戦闘していた。


 これは地球にいたときの自分からは考えられない選択だ。

 俺は一般人で特に好戦的というわけもなく。殴り合いの喧嘩もしたこともなく至極平和的な生き物だった。はずだ。


 それが気が付けばでっかい大鬼と殴り合いだ。しかも殴り殺している。

 これは変だろう。


 じゃあ、今度同じようなシチュに出会ったらどうするか? 逃げるか?

 自問自答してみる。


「いや、逃げないな。また叩き潰そうとするんじゃないかな?」


「なにか言いました~?」


「いや、別に~」


 いかんね、一人暮らしが長いと独り言の癖って付いちゃうよね。


 ただあの鬼のもたらす恐怖も、あの地下の閉鎖空間で消滅にあらがい続けた半年に比べれば何ほどのこともないと言う気がするのだ。

 そしてあの大鬼を見たとき、あの鬼が挑みかかってきたとき、こいつを叩き潰さないといけない…みたいな気分があったな。

 生意気だそこのやろう! みたいな気分だ。


 きっと多分、長い間の極限状態でそういう変化はあるのかも知れない。

 多少の変質は否めないと思う。

 さらにあの大鬼は『ちゃんと死ねて幸せだな』みたいな気分もあるのだ。


 まあなんにせよ少し行動に気をつけよう。

 喧嘩を売られて逃げる気はないが、自分から売るのはまた別の話だ。


「お待たせしました」

「ありがとう~いい湯だったわ。こんなところで気持ちいいお風呂には入れるなんて幸せ~」


「どういたしまして。さて、じゃあ交代で入らせてもらうか」


 この後半年ぶりのお風呂を堪能した。

 温度も自由自在なので非常に良い。

 風呂に入って眺める月はまた格別だ。


 まあ、こういうのも悪くない。


 そこ、美少女汁とか言わない! 

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