第22話 町に向かって、狩りを教わる

■ 鈴木真理雄。異世界に落っこちてきた。現在、異世界を探索中。

■ 〝あいつ〟無限炉の中で会った存在。真理雄に魔法を伝授した。

■ ネム。獣族の女の子、ものすごい美少女。白虎の特徴を持つ

■ ミルテア・大地母神ステルアの神官。ハーフエルフ。ものすごい巨乳。司祭様。


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 第22話 町に向かって、狩りを教わる



 二人が起きだしてこないうちにお侍さんセットを埋めることにした。

 町までもっていって…と最初は思っていたのだが、どうもここでは町にお墓とかはないらしい。

 人間は自然に帰るものだそうだ。


 だったらここに埋めてやってもいいだろう。


 この世界ではきっとたくさんの人がこうして大地にかえっていくのだろうから。


 ただ俺には神聖術の葬送とかいうのは使えない。


 あれは魔法というより権能に近いものだとおもう。

 魔法のような力は観測できなかったのだ。

 俺がやるのと同じように何か世界がおのずから従っているような…


 神様の力が神官の人に降りてきて、それが『奇跡』を起こす。というのが正しいのかもしれない。


 俺には大地に干渉するような権能はないのでこれはあきらめるしかない。

 だがまあ普通に穴を掘ればいいのだよ。


 ちょっと試行錯誤したが気が付けは簡単だった。


 要は力場の殻である。

 地面を力場で区切ってしまえばいい。今まで何度も見たしやったことだ。

 魔力視で地面の中を観測し、そこを四角い力場で区切る。

 地面の中にいきなり障壁を発生させるわけだが…


 パンッ、という音ともに地面が切断された。

 面白い現象だ。


 すると地面が四角く切り取られているわけで、あとはそのまま四角い魔力の箱をずぼっと持ち上げるだけ。もちろん権能で。


 これで地面に一メートル四方ぐらいの穴が開いた。


 お侍さんセットを納めて埋め戻し、手を合わせ、終了。


 俺はオタクで、まあその性質のせいかこういうのも嫌いじゃないので両親が死んだときに般若心経は覚えたりしたのだ。なので般若心経は唱えておく。

 まあ、お侍さんだし、供養にはなるだろう。


 そんなことをしている間、後ろでネムちゃんとミルテアさんがこちらをうかがっていて、でも、声はかけてこなくて、たぶん何か勘違いしているなと思ったが、まあわざわざ訂正する必要もないだろう。うん。


 ◆・◆・◆


 そしてやっと町に向けて出発となった。


 町はここから歩いて三日ほどの距離にあるらしい。


 昨日聞いた話だとここは『コウ王国』と言う国らしい。

 クレザット大陸と言う大陸にある国の一つだそうだ。


 統一国家とかいうのはなく、たくさんの国があるらしい。

 人間の国はもちろん獣族の国、エルフの国、ドワーフの国、他にもいろいろあるらしい。

 でも一番多いのは人族の国だな。しょうもな。

 

 だがエルフの国とかドワーフの国とかすごく行ってみたい。機会があれば行ってみよう。楽しみだ。


 だがこの世界楽しいばかりではない現実もある。


 例えば町から三日と離れたこの場所は『魔境』と呼ばれる場所らしい。つまり魔物の勢力が強い『魔物の領域』ということだ。


 例えば大陸全体を大自然と考えた場合、そこには動物や魔物がたくさん生息しているわけだ。


 そして人間はいつだって開拓者だ。


 森を切り開き、草原を耕し、自分たちの領域を広げる。

 そうして開拓された場所が人間の生存権であり、国であり、安全な場所である。

 しかしそれ以外は大自然が残っている。


 だがこれは冷静に考えれば地球と何も変わらない。


 日本だって山の中に入ればそれなりに危険な動物はいるわけだし、人のいない原生林を二日三日進めばそこはもう人間に生きられる場所ではない。


 地球は開拓が進んでいるがまだ自然が優勢なところはあるわけだし、そういった場所ではさらにその傾向が顕著だろう。

 そういうところでは自分たちの町や村、あと管理できるわずかな領域が安全地帯でそれ以外の場所は例えば猛獣が住んでいて危ないところ。ということになる。


 なのでこの世界のありようというのは地球の、もっと自然が残っていた時代と同じようなものといえるだろう。

 問題は魔物という存在だ。どうも普通の猛獣よりもずっと危険度が高いようで、そのせいで人間は苦労をしている。


 だが人間はたくましい。

 魔物も見方を変えれば資源である。

 魔石しかり、骨や皮、肉もしかりだ。


 こういう環境では魔物を狩って生計を立てる人たちが現れるのは必然かもしれない。

 そういう人たちを『冒険者』と呼ぶらしい。

 魔物を狩ったり、迷宮を攻略したり、遺跡でトレジャーハントしたりといろいろ危ないこともするから冒険者というんだそうだ。


 つまり危険を冒す者の意味だろう。


「私たちも結構強い冒険者なんですよ…いえ、でしたかしら」


 ミルテアさんはやはりさみしそうである。

 一方ネムちゃんはどういうわけかじっと俺を見ている。

 本当にじっと見ている。なぜだ?


「うーん、それは獣族の性…なんですよね。この人たちは強い人を見るとその強さを図ろうとするから…」


 なるほど、種族特性なわけね。じゃあ仕方ないか。


「ところで、私もその冒険者になれますかね? あー、とりあえず生活手段は確保しないといけないので…」


「ええ、問題ないですよ。冒険者ギルドに登録すればだれでもみんな冒険者です」


「え? やはり誰でもなれるんですか?」


「やはりの意味が分かりませんが、誰でもなれます。ただ登録の時に神殿でもらった鑑定証明書を提出しないといけないんです。

 犯罪者とか冒険者にはできませんから…」


 なるほど少しは考えているわけだ。


「でもちゃんと稼ぐには勉強も~必要ですよ。

 薬草だって採取の仕方がありますし、魔物だって美味しく頂くためにはちゃんと処理をしないといけないですから…」


「ああ、聞いたことはあります。血抜きとかですよね?」


「はい、血抜きもそうですね、でもそれだけじゃダメです」


「えっとお…本当は実演できるといいんですけど…」


 ミルテアさんがそう言うとネムちゃんが立ち止まり、耳をくいくい動かしながら周囲を見回す。


「あっ、あちらになにかいます、多分一角ラビですね。でもちょっと遠いですね」


 ネムちゃんはそう言って斜め前を指さす。

 ふむ。強聴力というやつかな耳がクイクイ動いていたから音で判断したのだろう。


 その制度やいかに。

 俺は示された方向にずーっと魔力視を伸ばしていく。


「あっ、いた」


 頭に一本角の生えた兎、そうか~アルミラージという名前ではなかったか…


「アルミラージはもっと強いですよ」


 あ、いるのね、もっと強いのか。そうですか。


 しかし距離は二〇〇メートルぐらい先だな。知覚範囲にぎりぎり入るかどうかってところだ。この距離で獲物の判別までできるのか…すごいな。


 しかし、どうしよう。ネムちゃんは今俺の強さを測っているということだったから、いいとこ見せた方がいいのか?

 うーん、まあ今更弱いふりとかしても意味がないか。


 俺はショートカットからライフルを取り出し一角ラビに狙いをつけた。


「「え?」」


 二人が首をかしげたが今はかまわない。

 そして引き金を引く。


 〝ぱうっ〟という音がして一条の光線が森の中に伸びていった。


 狙いは一角ラビ。距離的には二〇〇メートルちょっと。十分に有効射程だ。

 狙い通りにビームは一角ラビを撃ち抜いた。


 だが即死はさせられなかった。

 貫通力は高いけど破壊力がないかからね。まっすぐなビームだし傷も小さいから急所に当たらないと即死は無理。


 だがその瞬間ネムちゃんが一気に走り出した。いきなりズドンという感じの猛ダッシュだ。


「まってよ~」


 ついでミルテアさんも走り出した。しかたがないので俺も後を追うことになる。

 あれ? なんか不味かったかな?


 たどり着くとネムちゃんが兎の足に紐を掛け、逆さに吊して血抜きをしていた。


「まだ息がありましたよ。最高の状態です」


 おお、とどめを刺すために走り出したのか。

 つるされた一角ラビは首を切られて血を流している。


「はーい、じゃあ後は冷却ですね~」


 冷却?


 ミルテさんが魔法を使う、【領域冷却アイスフィールド】という魔法だった。冷やす魔法ね。球形のフィールド内に作用するもののようだ。

 そしておそらくこれは【着火】の魔法の反対の魔法。

 ふむふむ、さらにさらに実に興味深い。


「しかし…なぜそんなに急いで冷やすんです?

 死んだばかりでは腐らないと思うんですけど」


「早く冷やさないとお肉に臭みがでるんですよ~」


「え? そのために血抜きするんじゃ…」


「ああ、やっぱりマリオンさんも誤解してますね。なんで血抜きするかというと、血というのはとても傷みやすいものだからなんですよね。血が腐敗するとそれが肉の臭みになるんです」


 ほう。


「だから血を抜くんですけど、腐敗の防止には血抜きよりも冷却の方が効率が良いんです」


 二人してそんな説明をしてくれた。


 つまり血が腐敗するからそれを止めないといけない。方法としては血を抜くというのがある。だがこれは限界があって、心臓が完全に止まってからだとうまくいかないのだそうだ。

 まあ、言われてみれば当然だな。心臓が停止していれば血は流れないのだから。


 だから血なまぐさい匂いを無くす一番いい方法は冷やすこと。


 血は死体の温度が三五°くらいになるとものすごい勢いで腐敗を始める。

 血というのは元々は無菌なのだが体に穴が開いた時点で無菌ではいられなくなるらしい。


 なので微生物が繁殖しやすい二五°から三五°の温度域をできるだけ早く抜け、低温状態に突入させないといけないのだそうだ。


 獲物仕留める。

 内臓を抜く。

 冷やす。


 これが肝要。


 血抜きは必要ないかというとそうではなく、体内の血自体を減らすという意味で有意義だそうだ。見た目にも結構影響が出るという。


 なるほど非常に勉強になる。

 こういうのはそういう暮らしをしている人でないと分からない知識だからなあ…


「今日のご飯は決まったな。お肉だ」


 と言ったら。


「えっ? 食べるんですか?」


 と驚かれた。


「そうですよね、この一角ラビはマリオンさんが仕留めたのですから…どうするかはマリオンさんに権利がありますものねえ」


 ああ、そういう意味か。


 この一角ラビも結構高く売れるらしい。値段にして銅貨四〇枚。四日分の生活費にはなる金額だな。よくわからんけど。

 お金のことも調べないとなあ…


 しかし今は話し合いの場が必要だ。


 俺は獲物をしとめることはできるが解体はできない。(今は)

 解体はやってもらわないといけないのだ。

 手伝ってもらう以上分け前は必要だろう。


 と言う事で同じ獲物に関しては一匹目の権利は俺、二匹目は彼女たちに。三匹目は俺と振り分けることにした。


 すぐに二匹目が獲れて二匹目は彼女たちの収納鞄に保管された。

 町に着いたら換金するらしい。


 にしても収納鞄とかあるんだね。これも興味深い。


 お金の価値。

 収納の魔導具。


 取りあえずこの二つの事を聞かないといけないな。


 ドコドコ道を進んでいくとまたネムちゃんがなにかの気配を察知した。


「また何か来ますよ…たぶん人間です」


 獲物の話からネムちゃんは普通に話してくれるようになった。

 主にお肉を一緒に食べましょうのあたりから。

 食べ物で釣れたか?


 そんなことを考えているうちにその何かが近づいてきた。

 うん、人間、しかも冒険者だ。


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