異世界でシッポの可愛い嫁をもらいました。美少女です。

ぼん@ぼおやっじ

第1話 異世界転移

 第1話 異世界転移



 ガバッと起きて周囲を見回す。白い部屋だ。


「あー、これってあれかな?」


 俺は自慢じゃないがオタクだ。

 だからこういう展開はよく読んだものだ。


 だがあれらはフィクションだ。現実に起きるはずはない。と思う。


「とするとこれは夢か…」


 まあ夢落ちというのが一番分かり易いかな…


『おお、珍しい、ここに人が落ちてくるのは何百年ぶりかな…』

「わひゃっ」


 いきなり声をかけられて俺は振り向いた。

 振り向いたがそこには誰もいない。


「そうか、夢落ちなら何でもありか」

『いやいや、夢ではないのだがね…それに時間は無限にあるわけでもない、このまま眠っていると命に係わるのだがね…君の』


 むっ…それは聞きずてならない…


『まずはっきり言っておくがここは君から見ると異世界と言える所だ。別次元でもよい。この世界には君のようにここではない世界からたまに人が落ちてくるのだ。

 原因は定期的に発生するエネルギーの偏りによる空間のゆがみと考えられる。

 そして落ちてきた者はここのような特殊な施設に受け止められて落ち着くということになるのだ』


 俺は声の主を探して周囲を見回す。

 右も左も前も後ろも上も下も真っ白。そして知らない部屋。

 ならやっておかないといけないだろう。


「知らない天井だ…」


『なぜに天井限定なのかね?』

「まあお約束というやつで…現実逃避とも言うけどね」

『なるほど理解できる』


 そう言いながら周囲を見回し、そして部屋の中央に台座と、その上に二mぐらいの白い球体があるのを見つけた。

 その玉は真っ白で、でも内側からにじみ出すように金色にちょっと虹色を混ぜたような光をにじみ出させている。なかなか荘厳な物体である。

 そしてその光は聞こえてくる言葉と連動してる様にみえた。であれば喋っているのはこの白球体だろうか…


『その通り、話が早くって助かる』

「するとあなたが神さまで、ここが神の部屋? そしてこれから異世界転移とか転生とかするのかな? 大迷惑なんだけど」


 そりゃそうだ。現実世界がすべてオッケーというわけじゃない、辛いこともあるし、面倒臭いこともある。だがそこで生きてきたのだ。

 築いてきた人間関係もあるし、生活もある。なかなかに捨てられないものもあるのだ。


 まして俺は28歳。

 こういうのを無邪気に喜べる年齢でもない。まあ高校のころはこういうのがあるといいなあとか思ったりもしたけどね。


『いやいや、吾は神ではないよ、まあ近いものではあるがね。

 そしてここも神の部屋とかではない。

 それにこれから異世界に行くのでなく、ここは既に君の世界から見ると異世界だ。君は世界の境界にあいた穴から落っこちて此処に漂着たどりついてしまったのだよ』


「・・・ちょっと頭が痛い」


『ふむ、君の健康には然したる問題はないように見受けられるが…』


「いや、そういう問題じゃない」


 俺の理想としては夢落ちなんだが、現実逃避をしていてもいいことはないか…


「それで私の命数に係わるというのはどういうことです?」


『ふむ、簡単なことだよ。ここには出口がない』


「は?」


 俺はあわてて壁まで走った。壁は白く淡い光を放っていて、表面に細かい縞模様が刻まれている。床はフラットだが壁は上に行くほどハングアップしていて部屋の形は丸。つまりここはドーム状の部屋なのだ。

 そして 確かに出入り口のような物は見当たらない。


「なにかのスイッチでドアが現れたりは…」

『せぬな、そもそもここは動力炉の中で人が出入りするような場所ではないのだ』

「ど…動力炉」

『ふむ、最初から説明しようか…まずこの地には昔オルソスルーマーという文明があった…』


 彼はそう語り出した。

 話を聞くとどうもその文明は魔法文明であったようだ。特殊な精神感応性質を持ったエネルギー、魔力を見出し、それにプログラムを打ち込むことで特定の現象を起こさせる。つまり魔法を発明し、全世界規模で高度な文明を築いたらしい。


 その文明の最盛期に生まれたのが『無限炉』だった。


 なんでも世界は『源理力』という力を持っていて、魔力もこの源理力の一つの形でしかないのだとか。この源理力を汲み上げ、魔力に変換するのが無限炉なのだそうだ。


 彼はその中枢として捕まり、ここに封印された存在ものらしい。


 なので文明自体に対する理解はそれほど深くはない。多少知っている程度。だがそれでもとても興味深い話だった。


 源理力というのはそのままでは使えないエネルギーらしいのだが魔力という形に変換すると人間でも使えるようになる。

 そして彼は…


『吾は半実体、半霊体の存在で永遠の存在だ。源理力を糧とし、それを力に変えるものだ。それに目を付けたのだろう』


 一瞬呆け、意味を理解して思わず引いた。

 つまり古代文明は彼を触媒にして源理力を汲み上げ。変換して無限のエネルギーを獲得したと…

 そう言う超存在がいるとして、それを動力炉の一部として封印する。なんというか、地球を上回る怖いもの知らずっぷりではないか。

 

 その文明は既に滅んでいるらしいがむべなるかなという気がする。


 その文明が滅んでもこの無限路は残され、変わらずにエネルギーつまり『魔力』を生成しつづけている。それが使われることがなくなって久しいというのに。


 そう言う施設なのでここは炉の中。出入り口など存在しない。


「となるとここで飢え死にか?」

『いや、その心配はない。生命が食事をとるのは活動するためのエネルギーを確保するためだ。だがここには高濃度の魔力がある。

 おそらくだが呼吸するだけで十分なエネルギーが確保できると思う』


「まるで霞を食っている仙人みたいだな」

『いいえて妙だな。そしてそれこそが問題になる。こちらを見るといい』


 俺は何となく指さされたような気分で台座の裏側を見る。そこにはお侍さんセットが横たわっていた。まるで人がそこにいて、中身だけが消えてしまったような…

 足元から寒気が這いあがってくる。


『彼は君の時間で五四三年前にここに落ちてきた人間だ。しばらくはここで暮らしていたが半年ほどで体が分解し、消えてしまった。

 おそらく肉体のすべてがエネルギーに置き換わってしまったのだ。そしてその状態で存在をつづけられるほどの精神の強さを持っていなかった』


「つまりは仙人になれなかった人間のなれの果てか…

 って、俺もここにいるとそうなるってこと?」


『そうなるであろうな。分解すればこの世界のエネルギーとして世界の大循環の中に紛れて消えてしまう。海に水滴を放り込んだように』


 これはほとんど死刑宣告だ…なんてこった。

 あー、こんなことならあいつをもっとこまして子供ぐらい作っておくんだった。


『助かる方法がないわけではない』


 俺はガバッと顔を上げた。


『吾は好き好んでここにいるわけではないということだ。そしてこのペークシスを破壊することができれば我は解放される。吾が解放されれば君をこの外に転送するぐらいのことはできるだろう。

 だが簡単ではないぞ。実は彼にもその話はしたのだ。彼は武には自身があったようで持っていた刀というものでこれを切ろうとしたがかなえられなかった』


 俺は傍らに落ちている刀を抜いた。

 すでに刃こぼれでボロボロだった。

 そしてその対象『ペークシス』というこの白球体には傷一つ付いていない。


「どの時代の人かは知らないが刀は武士の命だとか…」


 それがこんなになるまで振るったのだ、必死だったのだろう。

 そして死んでしまった。やっぱり必死だ。


 俺はその刀で思い切り『ペークシス』と呼ばれた球体を切りつけた。

 カキーンという甲高い音と共に刀はおれてしまった。

 やっぱり腕の違いかね…


 やっぱり小説とは違うからな…異世界転移がそんなにいいもののはずもない。

 時空の狭間に落ちた存在ものの末路か…だが…


「諦めるのはやるだけやってからにするか」


『そうしてもらえると助かる。できるだけの支援はしよう。まず荷物を確認した方がいいのではないかね?』


「そうだな」


 俺は自分の荷物が転がっている辺りに移動する。

 リュックサックがある。愛用の登山用のやつだ。デイバックではなくリュックサック。

 そして箱。おもちゃの箱…中身は分かる。箱に絵がかいてある。


「あれ、これって晶の持ち物だよな…なんで?」


 そう言えば俺ってここに来る前どこで何してた?

 あれ、ひょっとしてあいつ…いっしょだった?


『おーい、もしもーし』


 今それどころじゃないってば…


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