前日譚
古屋景光は静かに暮らしたい
喧騒。街には怒声が響き、建物は崩れ爆音がなる。毎日が渋谷のハロウィンかと思うほど騒がしい。
私は静かな場所が好きだ。誰かからストレスを与えられることはなく、自分のために行動しても責められることない生活が理想だ。
しかし現実はそう上手くは行かない。生きるには食べねば、食べるにはお金が、お金は働かねば貰えない。そして働くには、自分の好きなように行動することは悪となる。常にストレスを与えられ、平穏などとは夢のように思わなければならない。煩わしい。
私の仕事はそのパーティー会場を漁り、どのような結果になったのか。誰が参加し、誰が減ったのかをわざわざ調べ報告しなければならないのだ。
目の前に広がる惨状をカメラに納め、死体を確認する。若いから仕方がないとは、とても言えない。周りの迷惑を省みず、何より自らの力を誇示するために行うなど、三流も良いところだ。
「おいオッサン。そこどけよ」
散らばった肉片を拾っていると後ろから若い青年、いや少年が話しかけてきた。
「どうかしたのかい? 今私は仕事中なのだが」
「俺の仲間を弄くるのがお前の仕事なのかよ」
仲間、なるほどここに転がる肉塊が彼の仲間だったのか。よくまぁ区別できたものだコレを。
ヒョイと潰れた腕を拾うと、少年は私を殴り飛ばし胸ぐらを掴んできた。
「汚い手で気安く触っるんじゃねぇよ! 大人の分際で、俺の仲間をよ!」
顔をグシャグシャにして泣いている少年は私を突き飛ばすと、転がっていた肉塊を背負うと、バイクに乗った集団の方へ歩いて行った。
…………汚い手か。それはそうだろう、死体を触ったのだ。汚れない方がおかしい。
だが他人を殴り、あたかも当然の様に去っていくのは気に入らない。
誇りだ、友情などを理由に犯罪を犯す。これは二流の行いだ。やるなら一流の犯罪でなければならない。
――――そして一流の犯罪とは、他人ではなく、自らの名誉のために行うものである。
「『グレートチャリオット』、彼の指紋を取り込み追跡しろ。私の名誉のため必ず君を始末する」
アッシュワールド 依頼書・短編 坂口航 @K1a3r13f3b4h3k7d2k3d2
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