第6話 遠足①

 入学式を経て1ヶ月待ちに待った第一のイベント。

 そうそれは……。


「なんでなんだ〜!」


夏帆なほうっさい!」


「まぁ良いじゃね〜か、夏騎なつき


 今夏帆わたし達3人は学園行事である、とある山奥の寺に遠足と言う名目で来ている。

 そう、夏帆わたしが思っていたのは草原の広がった公園でピクニック出来るような所とばかり思っていた。


「なんで、なんでよ〜」


秋斗あきと……夏帆こいつ殴って良いか?」


「辞めとけ、余計に面倒な事になるぞ」


『もちろん、バスの中で「変だな」って思ったし遠足のしおりにも持ち物の所に着替えとジャージって書いてあったから「変だな」って思ってたし』


 夏帆わたしとしては、やっぱり話が違うことに対してもそうだけど……よりにもよって、山奥の寺。

 しかも、聞き覚えがある寺でもあった。

 特に夏騎なつとって気分のいい所ではないから。

 何故か……それはあの大和 夏やまと なつが以前その寺を塒にしていたからだ。

 それを証拠に大和家の家紋が寺の建物至る所にあるからで。


 ☆☆☆


「さて、今日はお寺の住職さんにお世話になりますので、みんなはちゃんと従ってね〜」


 そう言い残して静乃しずの先生は何処かに行ってしまった。

 結構適当なって言うか放任主義な所がある先生だと、この1ヶ月で夏帆わたしを含めクラスのみんなは知った。


「それじゃ〜男子は薪と野菜運びで、女子は食器運びな〜」


「「はーい」」


「あ、大和 夏騎やまと なつき大和 夏帆やまと なほは俺と来てくれ」


『うわっ! 何も皆がまだいる時に呼ばなくても……』


「またかよ」、「いいよな〜優等生は」、「あいつらの分はなしで良くね」、などと言った声が聞こえてきた。

 入学してから1ヶ月……何も変わらない。


『なんで……こうなるの』


 相変わらず、自分の事となると全く反応しない夏騎なつにも困ったもので。

 そんな夏騎なつをいつも傍で見ている夏帆わたしは辛いし、本当は……。


 ☆☆☆


 住職に呼ばれた夏帆わたし達は、客間とは別の部屋に通された。

 そこには、何も無く襖で四方を囲った畳の部屋だった。

 ただ、あまり雰囲気の良い部屋で無いことは間違いなかったのだけど、今の夏帆わたしにはそれ程重要でもないと思っていた。

 ちなみに、秋斗あきととは先程別れている。


「それで、何の用ですか?」


「あ〜すまないね、用があったのは夏帆かのじょどけだったんだけど、夏騎きみが1人で行かせるのは許さないだろうと思ってね」


夏帆わたしに用?』


「前置きはどうでも良い! 要件を話せ!」


「……」


 住職が黙り込む……。


「おい!」


『なんか、ここ嫌……段々息が詰まってくる』


 夏帆わたしの異変に気づいた夏騎なつは、夏帆わたしの傍に寄ってきた。


「おい、夏帆なほ! 平気か?!」


「な……つ……ここ――は、だ……め」


 そして、夏帆わたしを中心に魔法陣が展開された。

 その魔法陣は、夏帆わたしの魔力を暴走させる為の物。

 そして、更に天井には呪術結界……術師以外の者、ある一定霊力を封じる呪術だった。


「やはり、そうでしたか……王よ、いや神よ!」


「お前は、本物の住職でないな!」


「今更ですか、やはりまだまだ雛ですね」


 噂では聞いた事があった……あの大和 夏やまと なつを宗教的に崇める教祖があった。

 その宗教組織を『双世界』と呼ばれている。

 その信者だろう。


『このままだと夏帆わたしの魔力が、暴走して夏騎なつを傷つけてしまう』


「……な、つ……はな……れて――」


「何言ってんだ! こんな状態の夏帆おまえを置いて行けるかよ!」


「お……ね……がい」


「変だと思ったんですよね、この部屋には魔力を持つものが入ると不快に感じる様な魔術を施していた、なのに夏騎きみは何ともなかった……そして何故か夏帆かのじょが反応をみせた」


「……」


「私は気づいてしまったのですよ、本当は夏騎きみが生まれ変わりではなく、夏帆かのじょがあの大和 夏やまと なつの生まれ変わりじゃないかってね」


『あはは、流石にもう限界、これ以上は抑えられない……ごめんね夏騎なつ


「我……主……として……命じる、我を……守り……救いたまえ! いでよバハムート!」


「おー、素晴らしい! 素晴らしいぞ!」


 夏帆わたしは、バハムートを召喚した。

 そうする事で多少は魔力をバハムートに持って行かれ、少しは身体が楽になると思ったからだ。

 だけど、夏帆わたしが魔力暴走しているから、下手に気を失ったらバハムートは夏帆わたしの言うことを聞かずに暴れ出す。

 それだけは、避けなければ。

 夏騎なつ夏帆わたしを支えながら、バハムートを見ていた。


「バハムート! 我が敵を滅せよ!」


 夏帆わたしの指示でバハムートは黒炎を放った。

 双世界の信者は、跡形もなく消え去った。

 そして、縛っていた呪術結界が解けたのだけど……魔法陣の方が何故か消えていない。

 まだ、何処かに術者がいる。


「バハムート、術者を探して!」


 命じられバハムートは、空高く飛びたった。


『胸が苦しい……身体が熱を帯びて熱い、息苦しい』


夏騎なつ、最悪の場合だけど使って、知ってるんでしょ?」


「あ〜、だけど……今の夏帆おまえにやったら……」


「大丈夫よ、それくらい! 絶対、夏騎なつの前では死なないよ……だから夏騎なつも」


「分かった……絶対だぞ!」


『とは、言ったものの……』


「やっぱ、辛いな〜」


 夏帆わたしの身体は、少しずつけど確実に体温を上げていった。

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