もしもキュルルの生まれ方<バックボーン>が違っていたら

@k-rocks

第1話 プロローグ キュルルの過去

「駄目です!やはり体内のセルリウムを除去出来ません!!」


「くそっ···!やはりダメかっ!! こんなケースはおそらく世界初だぞ!?一体誰が解決出来るというんだ···!!」



此処は『じゃぱりパーク·きょうしゅうエリア支部』内にある医療施設。その中で目まぐるしく動き回る医療スタッフ達···彼らは先程担ぎ込まれた『セルリウムを誤って摂取してしまった子供』の命を救おうと必死だった。 しかし地球にフレンズとセルリアンが誕生し、ヒトと交流が始まってしばらくした現在においても『ヒトがセルリウムを摂取する』という事態は全パークでも···恐らく地球上でも初の事であり、既存の治療法が意味を為さないこの現状に医療スタッフは八方塞がりだった。



「チーフ!研究所スタッフのチーフから御電話が!」


「何だこんな時に!後にしろと伝えてくれ!」


「いえそれが···。もしかしたらその子を治せるかもしれない手段があると言って来ているんですが···どうされますか?」


「何だと!?···分かった、繋いでくれ」



____________________




医療スタッフのチーフはキュルルを医療施設に担ぎ込んで来たパークスタッフ···彼が所属する通称ゼロ班の『黒い噂』を風の噂に聞いており、以前から彼は研究所に対し嫌な予感を感じていた。

ゼロ班とは部署違いとはいえ同じ研究所スタッフでありチーフの一人という立場であるかつての恋人の提案を、彼はどうにも信用し切れなかった。 しかし『治療手段がある』という彼女の言葉···目の前で消えようとする生命を救う為、彼は藁にもすがる思いで電話を取った。



「やあ◯◯、お久しぶり。実は···」


「済まないが時間は一刻を争う。単刀直入に聞く、この子を助けられるのか?」


「おやおや、せっかちだね···正確には『救えるかもしれない』だ。なんせ本物の人間を入れるのは初だからね」


「···?まさかお前、緊急用救急サンドスター治療装置を使う積もりか!? あれはアムールトラの時に一度失敗した事があると聞いたぞ!!何を考えている!?」


「あれはアムールトラと共にセルリウムが混入したと思われるから、そしてそれが原因不明でサンドスターロウという新しい物質に変わったせいによる事から起きたで有ろう不慮の事故さ。それ以降きちんと修理·改善は済んでいるよ。 それよりどうするんだい?時間は一刻を争うんじゃなかったのかい?」


「くっ···!?」


「それに聞く所によればその子はパークのスポンサーの子供だそうだよ。 まあ研究所側としては勝手に侵入して誤ってセルリウムを摂取した子供···パーク規定に照らし合わせるなら此方に非はないから、冷たい言い方だが別に助からなくても構いはしないんだがね」


「お前···!!」


「でもキミはそうではないのだろう?君は目の前の命を人間動物の分け隔てなく一つでも多く助けたい···そういう人間だ、新しく入って来たあのパークガイドの様に。 ま、そういう甘っちょろい所は嫌いじゃなかったがね···」


「······一つだけ聞きたい。本当に装置に不備は無いんだな?」


「それは保証しよう。少し前にセルリアンに襲われて、じゃぱり製品で治療し切れないフレンズを助けられたという実績があるからね。 ふむ、なんならそうだな···もし不備があれば私は研究所を辞めて、全てを捨ててキミのオモチャにでも何にでもなってやるさ」


「···分かった。装置の起動準備を頼む、すぐにこの子を連れていく」


「良い決断だ。ではお待ちしているよ」



____________________




「良いんですかチーフ!?もし失敗したらチーフの立場が···!!」


「このまま此処で治療を続けても、悔しいがこの子を助けられないのが事実だ。 なら少しでも可能性がある選択をしたい···すまない、みんなに迷惑をかける事になるかもしれん」


「なに言ってんですか!チーフの『誰かを助けたい』という気持ちが本物なのは皆知ってますよ!! その想いに惹かれたから、みんなこうやってパークという最前線に来たんですから!!」


「皆すまない、ありがとう···!! よし、すぐに移送準備を頼む!!」


「分かりました!!」



······可能性に賭けたというのは事実だか、実は彼にはもう一つ決定材料があった。あいつが自らプライドを捨てる宣言をした、つまり裏を返せばよほど自信があるという事だ。彼は其処に光明を見出だしていた···。

それに彼女は根っからの研究者ではあるが『命』を軽視したり道具にしたりは絶対しない···そういう所に惹かれたからこそかつては一番大切な存在だったのだ。 多分自分を煽る事で治療装置を使う決断に導いたのだろう···心の中でチーフは彼女にお礼を述べた。




____________________




医療スタッフチーフの決断により研究所の治療装置に運ばれた子供。装置はつつがなく順調に稼働し、そのポテンシャルを発揮していた。 そして暫くしたある日、医療チーフは研究所チーフに装置前に呼び出されていた······



「よう、あの子の治療は順調か?今日はその経過報告とかか?」


「やれやれ、開口一番それか···相変わらずだな。まあ良い、今日は別の話だ」


「···別の話?どういう事だ」


「···これはキミだから話す事だ、オフレコで頼む。話は三つ、まずはパークの今後についてだ」

「別の研究スタッフのデータによるものだが···どうやら東の支部の方で最近セルリウム、そして以前新しく発見されたサンドスターロウが増加、セルリアンの数が増えているらしい。 このまま増加傾向が収まらない場合、下手をすると全てのエリアでセルリアンの大規模な大量発生が起きる可能性が高い」

「こっそりチーフ権限を使って『せんとらる』のデータバンクにアクセスしたんだが···『ほっかいどーエリア』は既に『かんとーエリア』への撤退を検討しているようだ」



「何て事だ···!? もしそんな事態になったら···」


「ああ、フレンズ達の力に頼る以外あまり対抗手段のない現状、このまま増加を食い止められなければ『せんとらる』より最西端の此処『きょうしゅうエリア支部』すら放棄·職員はパークの外に退避する事になりかねんだろうな」


「何で事だ···。 っ!待て、この子はどうなる!?」


「何しろ全てが初めての事態だったからな···。仮に撤退が決まった場合、退避させる為に治療完了前の装置をいじったら患者にどんな影響があるか···。 データが無さすぎて不確定だから私も明確な回答は出せない···すまないね」


「いや、君を責める積もりはないさ···セルリアンの大量発生が収まる事を願うばかりだな。······それで、残りの話は?」


「···ビースト、って言う言葉に聞き覚えは?」


「ビースト···獣って意味くらいしか」


「だろうね、普通はそういう反応だ···。実はそのビーストと先程のセルリアン大量発生問題、それが裏で繋がってしまった」


「···何だって?どういう事だ!!」



医療チーフはいきなり『ビースト(獣)』とセルリアン大量発生が繋がると言われても困惑しかなかった。 しかし研究所チーフの次の「対セルリアン用生物兵器型フレンズ···そのプロジェクトの名前が『ビースト』らしい」という言葉を聞いた瞬間、驚愕と怒りが湧くのを押さえられなかった。



「何だそのふざけた計画は!?···まさかお前「バカにしないでくれないか!?」···っ、すまん。悪かった」


「当たり前だ、いくら私が研究者とはいえそんな外道なマネが出来るか。······悲しい事にキミは本当に私に対する興味を失ったんだな」


「そんな事はない、本当に済まなかった···侮辱して傷付けた事は謝る。 償いとして誰かを怪我させたりする以外なら何でもする」


「何でも···か。なら時が来たら私に協力してくれ。そして今日一晩付き合ってくれ」


「分かった。必ず協力する······ん?一晩?」


「まあそれは後で···な。残りのネタについて話すぞ」



そして医療チーフは研究所チーフから『装置の不備により別の施設で再治療していたはずのアムールトラの管理が、自分がチーフを勤める研究部署から余所に移りそのまま彼女の所在が分からなくなったこと·まだ証拠は掴めていないが、医療施設に担ぎ込まれた子供の件でゼロ班が一枚噛んでる可能性が高いこと』を聞かされた。



「ああ全く! これが全て事実ならば研究者としても、人間としても許し難い!」


「確かに許し難いしキナ臭い匂いしかしないな···協力については分かった、此方でもそれとなく情報を集めてみる。 で、だな、その、もう一つの···」


「···これはあの装置の中のリアルタイムの映像なんだが。子供というのは存外可愛い寝顔なのだな」


「···ああ、そうだな。順調に回復してくれてて嬉しいよ。 改めて装置を使う決断をさせてくれた事に感謝するよ、ありがとう」


「どういたしまして、だな。 で、だな···この寝顔を見ていると、少し思う所があってだな。ちょうど研究も煮詰まりそうだし」


「···?」


「はぁ···それを女の口から言わせる積もりか?」


「えっ···?いや、だって俺達が別れた理由って···」


「確かにあの時はまだ研究成果が煮詰まってもなかったし、子供に興味もなかったさ。だがキミが救ったこの寝顔、この優しい顔を見てるとな···」


「······分かった。今日は引き継ぎも終わってるし、残りの時間は全部君にプレゼントするよ」


「···ありがとう。では、行こうか···彼の未来に祝福を」


「ああ、彼の未来に祝福を···」




···その後の二人の関係がどうなったか、それはまた別のお話。

ただ残念ながら彼らの願いは叶わずセルリアンは大量発生、一度は『せんとらる』において女王を倒し沈静化したものの再びセルリアンは増加···全ての支部のパークは閉鎖される事となる。 そして数十年が経った運命の日、治療を受けていた子供···キュルルが目を覚ましたのである。




______________________



後書きです。キュルルの記憶喪失の理由という名のオリジナル展開です。


4月11日 矛盾点があったので加筆修正しました。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る