七日間の親友

1日目 親友 そして

それは雪の降る日だった。

俺、北畠史哉は話があると親友に呼ばれて、いつもの喫茶店で待ち合わせた。

「呼び出して済まないね。」

こいつが親友の楠木花織だ。

「それで、話ってのはなんだ?」

「最近、親が早く結婚しろと五月蝿くてね。」

「愚痴なら電話でも出来るだろ。」わざわざ呼び出したから何事かと思えば……

「愚痴という訳では無くて……」何故か急に顔を少し赤らめて

「単刀直入に言おう。私と結婚して欲しい。」突拍子も無い事を宣ってくれた。


……なんだって?こいつの変わりようは知ってるがあまりの衝撃に頭が働かないんだが。呼吸も止まりかけたし……

「すまん、もう一回言って貰って良いか?」

「だからその……私と結婚して欲しい……」

失礼かもしれないがいつになくこいつが女性っぽい言葉を口にしてる訳なんだが疑問しか無い

「なんで俺なんだ?」

「前にも言ったかも知れないけど私は恋とか愛とかその手の類には興味が無くてね。」

「それは嫌という程知ってるが……」

「だけど、誰かとは結婚しなければならない状況に置かれていて……」

「お前の場合はそうだな。何しろ父親はあの楠木官房長官な訳だしな。」

楠木官房長官……時期首相候補と名高い政界の重鎮で政治家一家となると、娘には結婚して貰って後継者を産んで欲しい訳か。

「恐らくこのまま一人でいたら全く知らない第三者と無理矢理結婚させられる可能性が高いのでね。そうなるぐらいなら自分で選びたいからね。」

「でもなんでまた俺なんだ?」

「それは……1番の親友である君とならずっと一緒に居たいと思ってね……駄目かい?」


ダメでは無い。何しろ……


「良いよ。」

「本当かい?ありがとう。」安堵した声で花織は言った

「では、不束者ですが末永くよろしくお願いします。」


ずっと前から好きだったのだから




紆余曲折を経て結婚する事になった訳なんだが……

「婚姻届は何時出すんだ?」

「今日、これからだが?」と澄ました顔で花織は言った。

「流石にいきなり過ぎないか?親御さんに挨拶もしてないのに……」

「別に構わないだろ。両親だって君の事は知ってるし、結婚に親の同意は必要ないしね、」

「そうだけど……」

「という訳で、ここに必要事項を記入して貰えるかい。」どうやら私の気持ちは全くお構いないらしい。

「……分かったよ。」まあ、親には後で言えばいいか。反対はしないだろ。

「ふむ、完成だね。ではさっさと出しに行こう。」

「そうだな。行くか。」

雪はいつの間にか止んでいて、空は晴れ渡っていた。





役所への道すがら、今後の事について二人で話していた訳なんだが

「一緒に住むとなると今の部屋だと小さいよな……」新しく部屋を借りようか悩んでいると

「別に小さくても良いのでは無いかい?家具や食器は買い足す必要があるかもしれんが、部屋は兼用で問題無いだろう。」どうやら全く意に介さないらしい。

「まあそうかもしれんが……」取り敢えず新居については保留になった。

「それと、式とかは挙げる気は無いよ。挨拶ぐらいは身近な人にするが……」

「それは[[rb:義父母> りょうしん]]が許してくれなさそうだが。」

「そしたらその時に考えれば良いだろう。」どうやら式に関しても保留のようだ。

そんな感じで取り留めのない話をしているうちに役所に着いた。

役所はそこまで混んではおらず、直ぐに順番が来た。

「婚姻届を提出したいのですが」

「婚姻届ですね。では必要書類の提出をお願い致します。」

「これです。」

「拝見致しますね……はい、ではこちらの内容で受理致しますがよろしいですね?」

「お願いします。」

こんな感じであっさりと受理された。





一方その頃

「……なんだか俺の預かり知らぬ所で事態が進行してる気がするな……面倒な事にならなければ良いのだが……にしても書類多過ぎんだよ。流石に12時間も目を通してると疲れるわ!」

1人書類と格闘してる男が居た。




「今日、君の家に泊まっても問題ないかい?」帰り道になんて事を聞かれた。

「いいよ。」

「では必要な物を少しばかり取ってくるから先に部屋に戻っていてくれるかい?」

「ああ。」少しは部屋を片付けようかと思いながら俺は一足先に帰った。


部屋に帰っていざ掃除をしようと思っても、何処を掃除すればいいのか分からないなんて事はよくあるが、まさにその状況に俺は置かれていた。取り敢えずゴミを捨てて、雑誌を縛り服をタンスに閉まったところで

「相変わらずの汚さだね。」キャリーケースを引きずりながら花織が部屋に入って来た。

「前ほどは汚くないだろ。」

「あれはもはや汚部屋という域を超えた何かだったからね……ふふ」何が面白いんだか。

「部屋の片付けは君に任せて、私は夕食の準備をしよう。」

「夕飯には早過ぎないか?」時計はまだ4時前だった。

「煮物を作ろうと思ってね。少し染み込ませたほうが美味しいからね。」

「そうか……」

「何だか不満そうだが?」

「いや、不満って訳じゃないよ。ただ、結婚の記念にレストランにでもと思ってな。」

「その気持ちは嬉しいが大抵のところは予約が必要だよ。」

「あ、そうか……」

「ふむ……今日は無理だが今度の休みの日はどうだい?お店は君に任せるよ。もちろん、君のおごりだかね。」少し悪戯っぽく提案した。

「もちろん。」

「では楽しみにしてるよ。」そういって花織は……俺と唇を重ねた。それはあまりに一瞬で、そして甘かった。

「約束だよ。」彼女は耳元でそう囁やいた。




キスした後のことは実はよく覚えてない。気が付いたら夕食を食べてていつの間にか寝る時間になってしまった。

「そろそろ寝るか。」欠伸をしながら俺は言った。

「ふむ、では私も寝ようとするか。」花織は何故か少し緊張していた。

「緊張してるみたいだけど大丈夫か?」

「ああ、大丈夫……では無いが、あまり気にしないでくれ。君と寝ることはいつもの事だしね。」

「なら良いんだが……それと、俺と寝るのがいつもの事って変な風に誤解されそうだからあんま他人には言うなよ。」

「変な風にとはどんな風にだい?まさか私達が肉体関係にあると思われると思ってるのかい?」

「……」返答に窮してると

「私としては別にどう勘違いされようと気にするほどのことでも無いが……君は私とそういう関係にあると思われるのが嫌なのかい?」少し悲しそうな表情だった。

「そうじゃないよ。」

「そうか。なら安心だ。」笑顔で彼女はそう言った。

「寝室には先に行ってて貰えないかい?私はやる事があるから。」

「わかった。」俺はこれから何が起きるかなんて何も知らずに呑気に寝室で待っていた。


花織が部屋に来たのは少し経ってたからだったのだが……彼女は一糸纏わぬ姿で部屋に入って来た。俺が状況を飲み込めずにいると

「その……は、初めてだから……や、優しくして……」その言葉で理性が崩壊しつつもかろうじて正気を保っていた。

「こういうのはまだ早いんじゃない?」

「そ、そうなのかい?てっきり直ぐにするものかと……」

「それにまだ子供を養えるほど稼げてないし。」

「そうだね。私がはやとちりだった。すまない。」

「構わないよ。それじゃ普通に寝るよ。」

「ああ、おやすみ。」

「ああ、おや……」その時、やりたいことができた。

「??どうかした……」今度は俺から唇を重ねた。さっきより長く、甘く、ゆっくりと。

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