第4話.古代エルフ

 『エルフ族』については、あまりいい噂がない。

 彼らは少数民族で、見た目は美男美女たちだけど……そのほとんどが泥棒、娼婦、詐欺師、胡散臭い占い師だそうだ。だからエルフ族とは関わらないほうがいい……とよく言われている。

 それに彼らは耳が悪魔のように尖っているとか、エルフ族の女と関係した男はすぐ死んでしまうとか、誰にもばれない毒を使って人々を殺すとか、夜中に子供たちを拉致するとか……そんな噂まである。もちろんそんな噂が全部事実とは思わないけど。

 ところが『古代エルフ』は今のエルフ族とはまったく違う存在だったらしい。本で読んだ話によると古代エルフはエルフ族の先祖で、大昔に偉大な帝国を築いて繁栄したそうだ。更に彼らは不思議な魔法を使ったそうで、普通の人間より何倍も長く生きたとか、秋でもないのに収穫できたとか、遠く離れた場所にも一瞬で移動したとか……そういう信じられない話がいろいろあった。

 そんな偉大な文明が何故滅んでしまったのか、その理由は誰も知らないようだ。だから今も学者たちが頑張って研究をしているらしい。

 昨日僕が見つけ出した、あの石の扉に刻まれた木の絵。あれがもし本当に古代エルフと関係しているものなら……あの扉は古代エルフの遺跡の一部なのかもしれない……!


「おい、アルビン、出発するぞ」

「はい!」


 だが僕にはそれを確認している暇はなかった。午後から村の男たちが集まって、狼を駆逐することになったのだ。弓が使える僕ももちろん参加することになった。


「しかし凄いな、お前。2匹も射殺して生き残るなんて」

「運がよかっただけです」


 謙遜ではない。本当に運がよかった。狼たちが少しだけ近かったり、後ろに下がる空間がなかったり、崖がもうちょっと高ったたりしたら……生き残れなかった。

 僕を含めた8人の男たちは、山道を登って狼たちの住処を探した。僕が襲撃された場所からそう離れていないはずだ。


「いたぞ!」


 数時間後、狼たちとその住処を発見した。それで村の男たちは槍や弓で狩りを開始した。

 僕以外の7人はみんな僕より年上で、5年前の戦争で徴兵されて活躍した人たちだ。弓の腕なら僕の方が上だけど、彼らの勇猛さには到底かなわない。

 狼たちは人間たちの数と武器によっていとも簡単に狩られた。昨日僕を殺しかけたその狼も、槍に突かれて死んだ。僕が経験したあの死闘は嘘のようだった。


「よし、これで終わったな」


 死んだ狼たちを背負って村に帰った頃には、もうすっかり暗くなっていた。


「アルビン、これはお前の分だ」

「ありがとうございます」


 屠畜場で狼の肉を分けてもらった。昨日射殺した2匹は全部売ったけど、このお肉はアイナと一緒に食べよう。昨日は恐怖の対象だったのに、今日はただの食材だ。

 お肉を持って家に帰った僕は料理を始めた。しかし僕の料理の腕は下手だ。それに、そもそも狼の肉ってあまり美味しくなかった。


「美味しい!」


 でもアイナは何の文句もなく美味しく食べてくれた。ただの肉スープなのにアイナはまるでケーキでも食べたような顔だ。

 ケーキ、か……。

 昨年の祭りで、僕はアイナにレモンケーキを買ってあげた。アイナは喜んだけど『食べるのが惜しいの』と言いながら、ただケーキを見つめるだけだった。僕が『それは見るものじゃなくて食べるものだよ』、とか言うからアイナはやっとケーキを食べて、本当に幸せな顔をした。

 あのアイナの幸せ顔がまた見たい。よし、今年の祭りにもレモンケーキを買おう。今年は狼で設けたお金もあるし。

 どうやら狼たちの襲撃は僕にとって幸運だったようだ。

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