感想文

@thuyukikantoku

Night in the Woods 感想

 まず、このゲームを最後までやってみて抱いた印象ですが、「好きにも嫌いにもなれない」というのが正直なところです。

 好きになれない理由は、少し抽象的な表現ですが手触り感がよくないと感じたことにあります。インディーズゲームなので仕方のない部分はあるかと思いますが、基本的に同じ町並みで、ゲームの流れも 家を出る→町を探索(ほぼ挨拶回り)→イベント→帰宅→夢世界 というのが基本なのに、どうも一連の流れが退屈というか…、ただ触っているだけでは楽しくなかったです。それもゲームデザインの一部として意図されたものかもしれませんが。


 そんな感じでこのゲームは進行するわけですが、大事なのはあいさつ回りの後のイベントです。町の探索では、町の「いま」や主人公「メイ」に対する住人の印象が分かるのに対し、夜発生するイベントでは主人公の過去や三人の仲間キャラクター「グレッグ、アンガス、ビー」との「つるみ」があり、そのたび仲間たちの背景を知ることができたり、若干の関係性の変化が発生したりします。夜には例えばパーティーがあったり、バンド練習をしたり、どこかに出かけたり…そんな日々の中でハロウィンの夜、誘拐を目撃して以降イベントは誘拐犯探しに移行していくわけですが、ここからがこのゲームの盛り上がるところで、一気に最後までプレイしてしまいました。だんだんと舞台「ポッサムスプリング」の裏側が明かされ、それらを知った主人公と仲間たちはこれからどうする?というところで物語は幕引き。プレイヤーによって見るエピソードが異なるようですが、僕は誘拐犯探しからラストまでが遊んでいておもしろかったです。退屈な挨拶回りから怒涛の「非日常」は、とても刺激的でした。


 この非日常はほぼ常に仲間たちと一緒に行動するわけですが、日常である自宅での生活は家族と共に過ごすことになります。短い時間ですが、起床時は母と、帰宅時は父と会話が可能です。両親は20歳無職の主人公を叱りもせず「いってらっしゃい」「今日はどうだった?」と、およそ成人した子供に対してかける言葉とは思えない言葉をかけます。しかしそんな両親の心の内も、ゲームが進行するにつれ少しずつ分かっていきます。僕の印象ではこの両親は「優しい親」の典型で、その理由も徐々に明かされていきます。あまり主人公の両親に設定をつけないゲームが多い中で、このゲームはしっかりとした設定と役割が備わっていて「家庭」を感じられ、だからこそその外側にある「仲間」や「知人」の存在もリアリティーを増していたように思います。これはこのゲームの素晴らしい点の一つではないでしょうか。


 そんな家族以上に物語に深く関わってくるのが三人の仲間たちです。グレッグ、アンガス、ビーにはそれぞれに抱えているものがあり、特にビーの自身の現状に対する強いコンプレックスを感じる姿は説得力をもっていました。こういったキャラクターの抱えている問題というのがこのゲーム、またキャラクターに深みを与えていて、思わずビーに同情してしまいました。また、主人公とビーは女性なのですが、他二人は僕の記憶違いでない限りは男性であり、二人はカップルという設定です。あまりにもナチュラルに描かれていて最初は戸惑いました。こういった点もまたほかのゲームとは違っていて、舞台は田舎町で「古さ」をあまり好意的にとらえるテキストが無い中、キャラクターの描き方には新しさを感じました。

 例えばそれは住人や仲間、家族との会話にも表れていて、このゲームではかなりの頻度で会話に「間」が発生します。フルボイスならまだしも、テキストしかないゲームでこの「間」があることで良くも悪くもこのゲームにおける会話行動は独特なものになっています。「次の話題を考えている」という間はかなりリアリティーがあったと思いますが、会話終了の合図が特になく、「終わったかな?」と思ってスティックを倒すと会話中だったということが何度もありました。そういったシステム面での戸惑いを感じることが多少あったかなと思います。


 いろいろな住人のいる舞台「ポッサムスプリング」ですが、アメリカの田舎町どころかアメリカに行ったことがない僕からすると、いわゆる「田舎感」はあまり感じませんでした。キャラクターとの会話やイベント等で衰退しているという情報は入ってきますが、なにせ街並みが日本と違うせいで、「田舎だなぁ」というよりは「外国だなぁ」という印象の方が大分強かったです。ただこの衰退しつつある田舎町に対して住民が感じている不満や危機感は強く、しかし解決策がわからないというのが物語の大切な個所であり、決して他人ごとではなくむしろコレについては日本の方が深刻でしょう。Night in the Woods in Japanがあったら、つるむ若者は一人二人で、知り合いはほぼ高齢者、結末は希望の見出せるものになっていなかったと思います。そう考えるとこのゲームはアメリカならではの要素が多分に含まれていると言えますね。


 そんなポッサムスプリングに「帰ってきた」主人公のメイですが、彼女もかなり重いものを抱えており、しかも作中ではそれらが非常に抽象的に説明されているため、明確に理解することはできませんでした。主人公のことを説明するために「中学の頃の事件」と「大学中退」という二つの出来事がたびたび語られますが、結局それらの原因もとても抽象的な説明で、イメージが難しかったです。そんなメイの身に起こったことでもう一つよくわからないのが夢世界についてです。ベッドに入ると別世界での冒険を毎晩することになり、クリアすると起床といった流れです。四人(人間?)の楽器演奏者を開放し、よくわからない大きな生き物(?)が崩れていくというのが毎晩繰り返され、最後の晩には謎の生物に未来予知的な話をされます。これらの夢世界もかなり退屈で、きっとなにかを暗示しているのだろうとは思いつつも、最後まで何なのかはわかりませんでした。謎の生物からの未来予知はぼんやりと理解できましたが、こちらも結局何だったのかいまいちピンとこないまま終わってしまいました。一見して単純なおてんば娘の主人公ですが、ストーリーが展開すればするほど謎は深まり、多くの謎を残して終わってしまいました。

 これは全く的外れな予想かもしれませんが、この謎には主人公のおじいさんが関わっているのではないかと思います。怖い話を収集していたのは、謎に対しての研究のようなものなのかなと。また、金庫に入っていた歯について、誰のものか不明ですが、これはおじいさんと例のカルト教団とがなんらかの関係を持っていたことを現しているのかなと思っています。教団の人々は、へまをやらかした仲間に対し「抜く」「動くと危ない」などといい、抜かれた本人は悲痛な叫び声をあげていました。つまりルールを破ったものに対する罰というのは「歯(奥歯)を抜く」というものだったのかなというのが僕なりの予想です。(奥歯なのはメイのメモから)

 ここまで書いておいてですが、記憶はかなり曖昧なのでもし別の考察があったら読ませていただきたいです。


 最後になりますが、このゲームは今の僕ではすべてを理解するのが難しく、しかしリプレイの価値のあるゲームだと思っているので、またそのうちプレイしたいなと思っています。


 冒頭で好きにも嫌いにもなれないと書きましたが、「ポッサムスプリングには住みたくない」と追加しておきます

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

感想文 @thuyukikantoku

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る