第45話 おつかれさん

「お疲れさん」


いつもどおり課長が声をかけてくれた。


けっして嫌な人ではないのに、何か良い気分じゃない。


香織にとって外回りの仕事はけっして合わないわけじゃない。


むしろ、一日中オフィスのなかだけで仕事するよりも精神的に楽だと感じている。


営業としてやることに重荷に感じることよりも、外回りになったことで、社内の目から逃れられるという意識のほうが高い。


だから、課長からおつかれさんという言葉をかけられると、


「今日は売り上げにつながつたか」とか、


「ちゃんと契約まで見越して相手と会ってるんだろうな」


なんて、言われているようだった。


もちろん、その日の活動は営業日誌として課長報告しなければならない。それは、デスクに戻ってパソコンに打ち終わってからのことだ。


そうなる前に結果を聞かれているようであまりいい気分じゃない。


嫌な顔をしない努力だけで疲れる。


課長にむけてニコってするのも本心ではむかついている。


「やっぱりあの人とは合わないのかなぁ」


多分そうだろう。


もし、課長が俳優の渡辺謙のような人だったら、そんなことは思わないかも知れない。


人は外見で評価してはいけないといわれるが、やはりルックスで人の印象が変わると香織は思っている。


「性格と外見は違うよね」


とも思うが、そうでもない。


だからセクハラというものが多いんじゃないかと香織は思った。



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