第29話    ひとりきり

ひとりきり。


一人暮らしの老人は昨今珍しくも無い。


彼女の住む団地の約2割くらいも一人暮らしの老人だってことだ。


「誰にも干渉されずに気楽だわ」


そう考えたのは一人暮らしになってから3年くらいだった。


夫が死に、1年くらいは毎日のように息子から電話が来たが、10年も経つと一週間に一度くらいになる。


「元気か。体は大丈夫か」


くらいの会話しかない。


孫のことを聞くこともない。


電話は息子以外にはかかっても来ない。


振り込め詐欺の電話も過去に何回かあったくらいで、最近はない。


ほとんど部屋から出ることもなくなった。


買い物にでかけるくらい。そのときも店員と言葉をかわすことは少ない。


道で知り合いに会うこともめったにない。


だから、ひとことも発しない日常が1週間続くこともある。


宅急便は半年に一度くらいだ。


米を産地からネットで買っているので、それの配達で宅急便の人が来る。


会話をかわすこともない。


「都会なのに、私は無人島でくらしているみたい」


彼女は最近よく思う。


体はだめなところがないから、せめて息子に迷惑をかけてないだけがわたしの存在価値なんだと。


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