第15話 超ショート   お大事にしてください

「お大事にしてください」


診察室を出るとこに必ず看護師が言う。


「いまのところ異常なところはありませんね。また痛くなったらちょっと詳しい検査をしましょう」


と、医師から言われたのに、どうして、


「お大事に」


ということになるのか。


下手をすると、人間ドックの検査結果を聞きにいっただけでも、


「お大事に」


と言われたことがある。


何でもかんでも言えば良いというもんじゃない。


だいいち、診察室を出るとき、待合室で順番を待っている人たちから、


「この人どこがわるいんだろ」


「もしかしたらがんじゃないのこの人」


なんて思われるじゃないか。


「おれは気になるところがあるから来たけど、結局健康体だったんだ。お前たち病人とは違うんだ」


と、心のなかで言うんだけど、


「お大事にしてください」


と言われると、


「あなたは病人です」


と言われている気がする。


何も言わないでくれればよいのにと彼は思った。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る