シアン

 テーマは「赤」、超・妄想コンテスト参加作品です。


      *




 夢を削除する方法を思案している。


 誰よりも、夢にとらわれ、縛られ、抜け出すことが出来ぬらしい。

 この苦しみは君には伝わらないだろう。

 眠ることを恐れている。


 それでも眠りは訪れる。

 目を覚ますと、そこは異質な世界だった。

 すぐに夢の中だとわかる。ならば、目が覚めていないのか。

 そんなことはどうでもいいほどに、異様な空間が視界に広がっている。


 右手に広がる海らしきものを眺める。

 打ち寄せる波の音だと理解しているが、そこにわずかな白波さえもない。

 鮮やかな水色のみで塗られた波がうごめいている。

 波が吸い込まれていく砂浜も鮮やかな水色。

 もちろん空も同じ色で雲一つない。

 いや、雲も同じ色だから見分けがつかないのか。

 左を見れば、水色の森が続いている。

 確かめるために奥へ進む気が失せるほど、すべてが鮮やかな水色の世界。

 こんな世界で一体どうしろというのだ。

 水色の砂の上に寝ころび、目を閉じる。



      *



 白い壁、白い天井。

 病室の中央にあるベッドに、男が白いシーツを掛けて眠っている。

 白衣を着た白髪の医者が入ってきた。

 気配に気づいたのか、男がゆっくりと眼を開ける。

 意識が現実に戻っていくに従い、目を見開いて恐怖の表情へと変わっていく。




「うわーっ! な、なんだ、この赤い世界はっ!」




               ― 了 ― 

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