カイトウ ―お題短編小説集―

流々(るる)

メイドなんて、止めなさーい! ―すれ違い―

※マンガ、エコー、メイドの三題噺です。


      ***



「ここで間違いないみたい」

 スマホを見ながら辿り着いたお屋敷は、まさにザ・洋館というようなトンガリ屋根にレンガ造り。

 門も何やら分からない模様だけど、とってもお洒落。

 そう、私が求めていたのはコレなのです。

 勇気を振り絞って、頑張ります。


 ピロリロリ~ン♪


 まぁ、インターホンの音まで上品な感じ。

 ドキドキよりワクワクが勝ってしまいます。


「どなたかな?」

「あのぉ、佐々木と申します。募集を見て来ました」

「おぉ、そうですか。お入り下され」


 門が自動で開きました!

 なんて素敵なのでしょう。

 お屋敷のドアを開けて、わざわざ出迎えて頂いています。

 お爺ちゃまとはいえ、さすが紳士です。

 

「よくぞ来てくれましたな。さぁ、中へどうぞ」


 玄関ホールの床は大理石が敷き詰められ、高そうな壺も置いてあります。

 割ったら一生かけて弁償しないといけない気がします。

 見ているだけでクラクラします。


「あの、はじめまして。佐々木ほのかと申します」

萬賀まんがです」

「やっぱりマンガってお読みするんですね。あっ、ごめんなさい。失礼なことを……」

「いやいや気にせんで結構ですよ。珍しい名字で全国で二十名くらいしかおらんそうです」

「そうなんですかぁ」

「職業もお判りでしょう。まんがか漫画家ぁってね」

「えっ?」

「あっ?」


 微妙な沈黙が流れました。


「今のは笑う所ですぞ」

「あ、あ、すいません」

「まぁどうぞ奥へ」


 通されたお部屋は、私の知っているリビングなんかじゃありません。

 学校の教室くらいありそうな広さで、二階までの吹き抜け。

 こんなお屋敷で働けたら、もうキュンキュンしちゃいます。


「どうぞお掛けなさい ぃ」


 天井が高いせいか、ご主人様の声の余韻が響いて聞こえます。


「すごいお部屋ですね。エコーが効いていて ぇ」

「ほぉ、お若いのに珍しい。回向えこうを聴きたいとは ぁ」

「エコー聴きたいというか、聴けちゃうと言うか ぁ」

「おや、ご実家はお寺ですか ぁ」

「へ?」

「は?」


 また微妙な沈黙が。


「回向と言えば、亡くなられた方の成仏を願って供養すること ぉ。てっきりお寺の住職の娘さんなのかと ぉ」

「いえいえ、このお部屋の天井が高いせいか、声が響くなぁと思って ぇ」


 どうやら勘違いだったようです。

 それでは、いよいよ私の真の目的を。


「それで、メイドの件ですが――」

「いきなり何を言うのじゃ! ワタシはまだまだ元気ですぞ ぉ」

「でもメイドが――」

「だから、まだその気はないと言っておるでしょうが ぁ」

「私、どうしてもメイドになりたいんです! ぅ ぅ ぅ」

「冥土なんて、止めなさーい!ぃ ぃ ぃ まだ若いのに命を大切にせんと ぉ」

「ん?」

「ん?」


 ひょっとして、これも。


「ワタシはまだ死ぬつもりはない。ただ身の回りの世話をしてくれるお手伝いさんを募集しておるのだよ ぉ」

 やっぱり。

「そのお手伝いさんのことを、最近はメイドさんというんですよ」

「ほ?」


 こうして、私はこのお屋敷でメイドさんとして働くこととなりました。

 ご主人様とは今でもすれ違いばかりですが。




               ― 了 ―

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